岸 大路 – 墨田区錦糸町の会計事務所。アンパサンド税理士法人

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必見!合併時の税務申告

こんにちは!公認会計士の岸です。

 

現状のコロナ禍において、業績悪化に悩まれている中小企業様は多いかと思われます。

その中で、事業の継続が困難になり、会社や事業を他社に売却するM&Aの動きが徐々に活発になってくるものと思われます。

 

M&Aを実行する際には、様々な税務論点の検討が必要となり、特にメインの論点となる

組織再編の適格判定や欠損金の引継ぎに関しては多くの書籍や文献が存在します。

 

一方で、実際の申告書をどう書くか、といった部分を解説している媒体はそこまで多くないように見受けられたため、

私自身の備忘も兼ねて、組織再編時の申告書作成の実務的な留意点をご紹介いたします。

 

組織再編には様々な形態がありますが、ここでは、ある会社が他社を吸収合併した場合を想定します。

※ 2022.6.2追記 一部内容に誤りがあることが解り、訂正させて頂きました。大変失礼しました。

※ 2022.6.2追記 一部の様式が変更されていますが、古い様式での記載例となっています。

 

1.想定条件

以下の条件を想定して、申告書の記載例などを紹介していきます。

簡単な吸収合併のケースを想定します。

 

2.法人税申告(被合併法人)

被合併法人の最終事業年度の申告といっても、基本的には通常の期の申告と同様に税務処理を行えば問題ありません。

ただし、申告書の記載上、いくつかの留意点があります。

 

■国税申告書(別表一)

主な記載欄ごとの情報は以下の通りです。

記載例は以下の通りです。

 

提出先等

被合併法人の情報ではなく、合併法人の情報を記載する点に注意しましょう。

被合併法人の最終事業年度の税金の申告、納付時には、被合併法人は合併により消滅してしまっていることから、

合併法人が申告、納付を行うためです。

なお、法人名の欄では、合併法人名の後ろに、被合併法人名を併せて記載します。

 

旧納税地及び旧法人名等

被合併法人の納税地及び法人名を記載します。

 

添付書類

以下の書類にチェックを付けます。

通常の申告ではチェックが付かない場所かと思いますので、チェック漏れに注意しましょう。

また、チェックするだけではなく、書類の申告書への添付も忘れないようにしましょう。

 

◆“組織再編成に係る契約書の等の写し“

:合併の場合には合併契約書の写しです。

◆“組織再編成に係る移転資産等の明細書”

:(2)で説明する付表のことです。

 

利用者識別番号(e-Tax)

電子申告を行う法人限定の注意点ですが、利用者識別番号も合併法人の番号を使用しますので注意してください。

 

■組織再編成に係る主な事項の明細書(付表)

組織再編を行った際にはこの付表の添付が求められます。

当該付表は2020年12月時点において、電子申告に対応していないため、電子申告の達人などで

電子申告を行う際には、申告書の添付資料として、別ファイルで送付する必要があります。

 

記載例は以下の通りです。(当該附表は2020年12月時点のものです)

 

組織再編成の態様

該当する組織再編の形態をチェックします。

また、組織再編成の日には、合併契約書に記載されている組織再編の効力発生日を記載します。

 

適格区分

法人税法上の適格組織再編に該当するかどうかをチェックします。

適格組織再編に該当する場合には、根拠条文を併せて記載します。

適格要件の条文は複雑なので、参照条文を誤らないよう注意しましょう。

 

●組織再編成に係る関連法人

合併法人及び被合併法人の情報を記載します。

(名称及び所在地)

 

●株式保有関係等

適格組織再編の判定の基礎となる、株式の保有関係や割合、事業関連性などを記載します。

該当する適格要件の形態によって、記載の必要な箇所が異なってきます。

記載例は、最も要件が多い、共同で事業を行うための合併による適格合併を想定しています。

 

■地方税申告書

地方税の申告書の各欄に記載する情報は以下の通りとなります。

記載例は以下の通りです。

提出先等

提出先や法人番号、所在地については、被合併法人の情報を記載します。

それ以外の法人名などの欄は、合併法人の情報を記載します。

 

利用者ID(eLTAX)

利用者IDは、東京都については被合併法人のIDを使うように回答がありましたが、

自治体によって運用が異なる可能性があります。

そのため、申告書の提出前に、各自治体へ合併法人と被合併法人のどちらの利用者IDを使用すべきか、

電話で確認するようにしましょう。

 

3.消費税申告(被合併法人)

法人税と同様のため、省略します。

提出先や納税地は全て合併法人のものを記載します。

 

4.税務届出関係

吸収合併の際に提出する税務届出で基本的なものは以下の通りです。

 

この他にも、被合併法人が課税事業者選択届出書を提出している場合で、

合併法人が課税事業者の選択の特例を適用したい場合には、合併法人として改めて届出書を提出する必要があるなど、

個々の事例によって求められる届出が変わります。

また、特に会社分割の場合には、下記の国税庁のHPにもあるように、提出を検討する届出書が多岐に渡るため、

慎重な検討が必要になります。

届出の提出漏れが生じないように注意しましょう。

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/kigyosaihen/mokuji.htm

 

5.合併における税務論点

以上では、申告書の記載について重点的に解説しましたが、合併における税務論点についても簡単に解説していきます。

 

合併にあたっては、そもそもその合併が適格合併に該当するのかどうか、

また適格合併に該当しても繰越欠損金が引き継げるのかどうか、といった点が最も重要な税務論点になるかと思います。

適格組織再編の判定や、繰越欠損金の取扱いについては非常に論点が多く、

それだけで本が1冊書けるような難解な税制になりますので、改めて記事にしたいと思います。

 

下記では、その他の合併における税務論点について俯瞰していきます。

 

◆適格合併の取扱い:

合併が税法上の適格合併に該当する場合には、被合併法人の資産負債は全て税務上の“簿価”で

合併法人に引き継ぐことになります。

そのため、いわゆる別表五(一)上の税務調整項目も、全て合併法人に引き継ぐことになります。

純資産部分についても、税務上の利益積立金額と資本金等の額をそのまま引き継ぐことになりますが、

親子間の合併などの場合には、抱き合わせ株式の調整が必要となりますので、注意が必要です。

他にも、法人税法では様々な規定に影響があり、過去の数値を使用して限度額計算や判定計算が

行われるような規定では、原則として被合併法人の数値と合併法人の数値の合計額で判定を行うことになります。

 

◆非適格合併の取扱い:

合併が税法上の非適格合併にが該当する場合には、被合併法人の資産負債は全て“時価”で

合併法人に譲渡されたものとして取り扱います。

被合併法人では時価譲渡により譲渡損益を認識する必要がありますし、

合併法人側ではいわゆるのれん相当額を 資産(負債)調整勘定という形で、

税務上の資産(負債)として認識します。

 

◆被合併法人のみなし事業年度:

合併を行った場合には、被合併法人は合併により消滅するため、合併が期中に行われた場合には

被合併法人の事業年度が1年を経過しない途中で途切れることになります。

この、途中で途切れた被合併法人の最終事業年度を、みなし事業年度といいます。

合併の効力発生日の前日が、被合併法人のみなし事業年度の末日となります。

 

◆事業年度が1年未満の場合の各種取扱い:

減価償却資産の償却率については、事業年度が1年存在することを前提として設定されています。

そのため、みなし事業年度が1年未満となる場合には、みなし事業年度の月数で償却率を調整することが必要となります。

また、交際費の定額控除限度額、法人税の税率判定、地方税の均等割、なども年額をベースとしているため、

月数による調整を行う必要があります。

 

◆納税義務判定と簡易課税判定(消費税):

合併により被合併法人を吸収した合併法人については、被合併法人の基準期間に相当する期間の課税売上高を考慮して、

納税義務判定を行う規定が設けられています。

課税事業者の判定漏れがないように注意しましょう。

一方で、簡易課税制度の適用判定における基準期間における課税売上高は、合併があったとしても

合併法人の課税売上高のみを使用して判定します。

納税義務判定の計算と混同しないように注意が必要です。

 

◆調整対象固定資産(消費税):

被合併法人が調整対象固定資産を取得しており、その調整対象固定資産を合併により合併法人が引き継いでいる場合には、

調整対象固定資産の調整計算に係る通算課税売上割合の判定を、合併法人で引き続き行う必要があります。

 

6.さいごに

今回は、吸収合併の場合を想定し、主に申告書の記載方法についてメインに解説いたしました。

M&Aは検討すべき論点が非常に多岐にわたり、税務業務の中でも高度な知識が求められる分野です。

事前に組織再編業務に精通した税理士に、組織再編実行時だけではなく、

事前のスキーム策定まで含めて相談することが非常に重要です。

 

弊社でもM&Aのスキーム提案などを数多く行っており、M&Aのマッチングサイトのアドバイザーとしての登録も行っています。

M&Aに興味がある方は、弊社でも様々なアドバイスや提案が可能ですので、お気軽にご相談いただければと思います。


生命保険にまつわる税務

 

こんにちは。
公認会計士の岸です。

 

ご家族にもしものことがあった場合に備えて、生命保険に加入されている方が多いのではないでしょうか。

この点、保険契約期間中は保険料の支払いや保険事故発生に伴う保険金の受取りなどが行われますが、

それぞれのタイミングで課税関係の検討が必要になります。

検討が不十分ですと、保険に関する処理で思わぬ税金の支払いが生じてしまった、ということにもなりかねません。

 

そこで、本記事では、個人、法人の生命保険にまつわる税務の概略をまとめましたので、

保険契約内容の現状確認や新規契約などにあたっての参考にご覧いただけますと幸いです。

 

1.保険期間中の流れ

 

保険期間中に発生するイベントは主に以下のようなものがあります。

保険事故の発生か、保険契約の解約、により保険契約は終了します。

それぞれのタイミングで課税関係の検討が必要となります。

 

 

2.保険契約の登場人物

 

保険契約には、「被保険者」、「保険料の負担者」、「保険金受取人」の三者が登場します。

 

一般の人に馴染みがあるのは、親が自身が亡くなった時のために子供のために保険を契約しているなどの

個人間の契約かと思いますが、法人として役員や従業員のために保険を契約する場合もあります。

そのため、保険契約はその主体が個人であったり、法人であったり、と個々のケースによって様々であるため、

保険の税務は複雑になります。

 

この三者の組み合わせによって、保険契約に関する課税関係が大きく変わってきます。

 

 

3.保険料支払時の課税関係

 

本節以降で、保険契約中に発生するイベントごとに課税関係を紹介していきます。

まずは、契約期間中に保険料を支払った際の税務です。

 

(1)所得税(個人)

 

個人の方が生命保険料を支払っている場合には、確定申告で生命保険料控除(所得税法第76条)を適用することができます。

 

詳しい計算方法の説明は割愛しますが、必ずしも支払った保険料の全額が控除されるわけではなく、

一定の限度額までしか控除が認められていません。

 

年末近くになると保険会社から保険種類や支払保険料をまとめた資料がご自宅に送付され、

年末調整にあたって資料の提出を行われている方が多いのではないでしょうか。

 

(2)法人税

 

法人が加入する保険には様々なタイプのものがありますが、ここでは基本的な保険種類である「養老保険」と「定期保険」の

取り扱いに絞ってご紹介していきたいと思います。

 

養老保険」とは、被保険者の死亡または生存を保険事故とする生命保険です。

いわゆる積立型の保険であり、お亡くなりになった際に生命保険金がおりるとともに、

いつ解約しても積み立てた額のうち一定額が必ず将来返ってきますので、貯蓄性のある保険といえます。

 

定期保険」とは、一定期間内における被保険者の死亡を保険事故とする生命保険、と定義されています。

いわゆる掛け捨て型の保険であり、養老保険とは異なり満期保険金が存在せず、

被保険者が亡くならない限りは保険金が支払われないことから、貯蓄性がない保険といえます。

 

特徴としては「養老保険」は積立がある分、保険料が高くなる傾向があり、「定期保険」は保障のみですので、

保険料は低くなる傾向があります。

 

また、以下でご紹介する保険料の法人税の取り扱いに関しては、実は法人税法上には明確な定めはなく、

国税職員内部の取り扱い指針である基本通達というものに、その詳細が定められています。

基本通達は法令ではないので、厳密には納税者を拘束するものではないのですが、

この基本通達に従って申告を行うのが実務になっています。

 

理解にあたっては、その保険契約によって誰が受益者となるか?によって課税関係が変わってくると考えると、

整理しやすいかと思います。

 

a.養老保険の取り扱い

 

養老保険を契約している場合の課税関係は以下の通りです。

養老保険は貯蓄性のある保険であることから、法人が受け取る保険金に対応する部分(保険料の半額)については、

資産計上が求められています。

 

 

b.定期保険の取り扱い

 

定期保険については、掛け捨て型の保険であり、養老保険とは異なり貯蓄性がないことから、

その全額について損金算入が認められています。

 

なお、定期保険には満期保険金が存在しませんが、契約期間途中で契約を解約した場合に

解約返戻金が発生するタイプのものがあります。

そのような定期保険に関しては、将来の解約時に戻ってくる返戻金部分については貯蓄性があるだろうということで、

基本通達では以下のように解約返戻率(支払保険料に対する解約返戻金の割合)という指標に基づいて定期保険を分類し、

税務上のルールを規定しています。

支払った保険料に対する解約返戻金の割合が高いほど、貯蓄性が高いものと考え、資産計上額が増加するイメージです。

 

(法人税基本通達9-3-5の2より抜粋)

 

(3)消費税(個人、法人)

 

消費税法上は、保険料は課税対象として馴染まないもの、非課税となっています。

個人の方が保険料を支払われている場合には、その保険料には消費税は課税されていないことになります。

また、法人が保険料を支払っている場合には、その保険料に関しては仕入税額控除が適用できないことに

留意する必要があります。

 

(4)その他(相続税、贈与税)

 

契約者が子供であるのに、その親が保険料を支払っている場合には、

実質的には親が契約者であるとみなされる可能性があることに注意する必要があります。

 

後ほどご説明させていただきますが、契約者と保険金受取人の関係によっては、

所得税が課税されるのか、相続税が課税されるのか、といった判定結果が大きく変わってくるため、

親が契約者であるとみなされると、課税関係が大きく変わるリスクがあります。

 

このリスクを回避するためには、一旦親の口座から子供の口座へ保険料相当額を振込み、

子供の口座から保険料を支払う方法が考えられます。

この時、子供の口座を実質的には親が管理している口座、すなわち名義預金として取り扱われないよう、

子供自身が通帳や印鑑を管理したり、親子間で保険料相当額の資金について贈与契約を締結することも考慮する必要があります。

 

4.保険名義変更時の課税関係

 

保険契約期間中、保険料の負担者や保険金の受取人を変更するなどの目的で、保険契約の名義変更を行うケースがあります。

パターンとしては、名義変更の対象となる部分(契約者、受取人)、変更前後の主体(個人、法人)によって、

実務上は主に以下のケースが想定されるかと思います。

 

(1)契約者の変更(個人→個人)

 

父親が契約者となって保険料を支払っていた生命保険について、契約者を子供に変更する場合が想定されます。

 

この場合には、契約変更時には贈与税などの課税関係は生じず、その後の保険事故が実際に発生した際に、

保険料負担者と受取人の関係に応じて課税されます。

(国税庁質疑応答事例「生命保険契約について契約者変更があった場合」,

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/14/05.htm)

 

なお、相続時の取り扱いを参考までにご説明しますと、相続により死亡保険金を子供が受け取る場合には、

その死亡保険金のうち、父親が支払っていた保険料の割合部分については相続税、

子供が支払っていた保険料の割合部分については所得税(一時所得)が課税されます。

 

(2)契約者の変更(法人→個人)

 

法人で契約していた保険を、役員などの個人に有償で契約譲渡する場合や、

退職金として現物支給する場合がケースとして考えられるかと思います。

 

以下では、社長の退職金として保険契約を現物支給する際の税務処理をご紹介します。

契約変更時の解約返戻金相当額に基づいて、課税処理が行われるイメージです。

 

(3)契約者の変更(個人→法人)

 

個人事業主の方が法人成りした場合で、従来の保険を法人向けの保険商品に切り替えるために、

一旦、名義変更で個人から法人へ契約を移し、その後保険の変更を行うケースが考えられるかと思います。

この方法のメリットは、保険の変更の際には、健康上に問題がある場合でも診査不要なケースがあることです。

 

以下では、法人が個人から、養老保険契約を解約返戻相当額で買い取る場合を想定します。

    

 

(4)保険金受取人の変更(法人受取→個人受取)

 

上記とは異なり、契約者は変えずに、保険金の受取人を法人から個人に変更するケースです。

 

以下では、【法人契約】、【死亡保険金(法人受取)】、【満期保険金(法人受取)】で契約していた養老保険を、

【死亡保険金(従業員、役員の遺族受取)】、【満期保険金(従業員、役員受取)】に変更する場合を想定します。

 

a.有償で保険契約を譲渡するケース

 

b.無償で保険契約を譲渡するケース

 

(5)保険金受取人の変更(個人受取→法人受取)

 

保険金の受取人を個人から法人に変更するケースです。

 

【法人契約】、【死亡保険金(従業員、役員の遺族受取)】、【満期保険金(従業員、役員受取)】で契約していた養老保険を、

【死亡保険金(法人受取)】、【満期保険金(従業員、役員受取)】に変更する場合を想定します。

 

この点、死亡保険金、満期保険金ともに、従業員、役員が従来の受取人であったことを想定しているので、過去に支払済の養老保険は全額給与として処理されているかと思います。

そのため、受取人の変更にあたっては特に課税関係は生じません。

 

5.保険解約時の課税関係

 

次に、保険契約を解約した場合の税務を見ていきます。

資金繰りの観点から保険料を支払えなくなった場合や、手元資金が早急に必要な場合などは、

保険契約の解約を検討されるケースがあるかと思います。

解約した場合に解約返戻金を受け取ることができる保険については、その返戻金に対して課税が生じます。

 

解約返戻金は契約者が受け取ることになります。

個人が受け取った場合と、法人が受け取った場合とに分けて、課税関係をご紹介いたします。

 

(1)個人が解約返戻金を受け取るケース

 

契約者と保険料負担者が同一の人である場合は、解約返戻金額から既に払い込んだ保険料を差し引いた金額が

一時所得として課税されます。

一方で、契約者と保険料負担者が異なる場合には、

保険料負担者から契約者(解約返戻金の受取人)に贈与があったものとして、贈与税が課税されます。

 

(2)法人が解約返戻金を受け取るケース

 

法人が解約返戻金を受け取った際の課税関係は下記の通りです。

 

6.保険事故発生時の課税関係

 

ここでは、保険の保障機能として、保険事故発生時に保険金が交付された場合の処理をご紹介いたします。

保険金の受取人が個人か、法人か、で分けて考えていきます。

 

(1)個人が保険金を受け取った場合

 

a.死亡保険金のケース

 

個人が死亡保険金を受け取った場合の課税関係については、以下の国税庁のHPが詳しいです。

(国税庁 タックスアンサー No.1750 死亡保険金を受け取った時,

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1750.htm)

 

国税庁のHPをもとに、各パターンの課税関係をまとめたものは下記の通りになります。

保険料の負担者と受取人の関係、及び一時金による受け取りか年金による受け取りか、で課税関係が変わってきます。

【パターン1】は、保険料を支払っていたその人自身が、保険金を受け取るケースです。

 

このケースでは、その保険料の受取人が所得税を課されることになりますが、

受取方法によって、一時所得か雑所得かに分かれます。

一時所得(一時金)の場合には、特別控除である50万円控除が適用できたり、最終的な所得税の計算では

一時所得の金額の1/2をもとに計算が行われるため、雑所得(年金)の場合と比べて、税務上のメリットが生じます。

 

【パターン2】は、被保険者と保険料の負担者が同一人のケースです。

 

この場合には、保険金受取人が、保険料を負担していた者から相続により保険金を取得したものとみなします。(相続税法第3条)

 

なお、一時金として受け取る場合には、相続税の1回のみで課税関係が終了しますが、

年金として受け取る場合には、相続年に相続税が課税された後、

翌年以降は毎年受取る年金受取額に対して所得税(雑所得)が課税されます。

この場合の雑所得の計算方法は、年々階段状に所得金額が増加していく特殊な計算方法を採用しており、

以下の国税庁のタックスアンサーにて詳細な計算方法が定められています。

(国税庁 タックスアンサー No.1620 相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係,

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1620.htm

 

【パターン3】は、被保険者、保険料の負担者、保険金の受取人、がすべて異なるケースです。

 

この場合には、保険料を負担していた者から、保険金受取人が保険金を贈与されたものとみなします。(相続税法第5条)

 

なお、こちらもパターン2のケースと同様、一時金として受け取る場合には贈与税の1回のみで課税関係が終了します。

一方で年金として受け取る場合には、贈与税に加えて、贈与年の翌年以後からの年金受取額に対して、

所得税(雑所得)が年々階段状に増加していくかたちで課税されます。

 

b.満期保険金のケース

 

個人が満期保険金を受け取った場合の課税関係については、以下の国税庁のHPが詳しいです。

(国税庁 タックスアンサー No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき,

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1755.htm)

 

国税庁のHPをもとに、各パターンの課税関係をまとめたものは以下の通りになります。

死亡保険の場合と同様に、保険料負担者と保険金受取人の関係、

及び一時金による受け取りか、年金による受け取りか、でパターン分けされます。

2年目以降の雑所得の計算方法は、死亡保険金の場合と同様ですので、詳細は割愛します。

 

(2)法人が保険金を受け取ったケース

 

法人が保険金を受け取った際の課税関係は以下の通りです。

 

7.その他

(1) 遺留分対策としての生命保険

 

民法では、遺留分の侵害額請求というものが認められています。

 

これは、遺言などによる遺産分割の結果、法定相続人の中に分割財産の取り分が少ない方がいる場合に、

相続財産のうち自己の法定相続分の1/2(相続人が直系尊属のみの場合は1/3)に相当する部分までの金額に関して、

金銭の支払いを請求することができるものです。

 

例えば、被相続人に子供が2人おり、そのうち1人とは仲が悪く疎遠であり、遺言で疎遠の子供へ財産を一切分割しないことを

定めた場合でも、その疎遠の子供は他の兄弟などの相続人に対して、金銭の支払いを請求することができます。

 

この点、生命保険金は相続財産ではなく、民法上は受取人固有の財産になると考えられているため、

原則は遺留分侵害額の計算の母数には含まれないというメリットがあります。

そのため、他の相続人に干渉されない財産として、生命保険を活用することができます。

 

(2)逆ハーフタックスプラン(逆養老保険)

 

上記3.節では、法人が契約者となる養老保険に関する取り扱いをご説明しました。

そのうち、【死亡保険金(従業員、役員受取)】、【満期保険金(法人受取)】、として基本通達で規定されている契約形態を、

以下のように保険金の受取人を逆にしたものを、逆ハーフタックスプランといいます。

逆ハーフタックスプランの契約形態については、基本通達上明確な定めはなく、実務上は、保険料の1/2を支払保険料として損金算入、残りの1/2を給与(又は福利厚生費)として損金算入する処理が行われています。

 

この結果、養老保険で資産計上している保険料部分についても損金算入が可能になるというメリットがあります。

 

ただし、この処理は基本通達で特段規定されていない処理であるために税務否認リスクがあること、

さらに保険料の1/2が福利厚生費ではなく給与扱いとなる場合には源泉徴収事務が発生するという点に注意が必要です。

 

実際は福利厚生プランというよりかはオーナー個人の保障という観点で保険契約をされている場合も多いかと思われます。

そのような場合には、福利厚生費ではなく給与として扱われ、保険料相当金額に関して源泉徴収されるケースが多くなるかと思います。

源泉徴収事務を回避するためには、毎月の保険料は役員貸付金として処理し、満期保険金を減資として

その貸付金をオーナーから返済してもらえば、源泉徴収事務は発生しません。

ただし、役員貸付金として処理する場合には、会社がオーナーから貸付に係る受取利息を徴収しなければならないことに

注意してください。

 

8.さいごに

 

今回は生命保険にまつわる税務をご紹介いたしました。

基本通達には上記以外の規定もあり、さらに実際に販売されている保険プランも多種多様なものがあります。

  まずは、本稿で基本的な生命保険の課税関係を整理していただき、保険契約の見直しなどにお役立ていただけますと幸いです。


債権の貸倒れと債権放棄に関する法人税務

こんにちは。

公認会計士の岸です。

 

新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、業績悪化や倒産の危機に直面している企業が

多いかと思われます。

取引先の企業がそのような状況に直面している場合には、取引先の資金繰りや支払能力からみて、

取引先に対する債権の回収が困難になるケースが増えてくるものと想定されます。

この点、法人が保有する債権に関する貸倒損失の計上については、いくつかのルールがあり、

そのルールを満たさない場合には貸倒損失の損金算入が認められないこともあるため、

慎重な検討が必要となります。

本稿では、法人が保有する債権が貸倒れたり、放棄されたりした場合の税務上の取り扱いをご紹介いたします。

 

1.法人税法上の貸倒損失の体系

実は、法人税法上は貸倒損失の取り扱いについての明確な規定はありません。

しかし、実際にどのような状況であれば債権が貸倒れたと判断するかどうかは、個々の債務者の事情などにも左右されるため、

非常に難しい作業となります。

そこで、国税庁内部における事務処理の指針を定めた法人税基本通達というものに、貸倒れの判定に関する取り扱いが

規定されています。

基本通達では、債権の貸倒れについて以下の3つの類型を規定しています。

2.貸倒損失かどうかの判定

基本通達において示されている貸倒れの類型をそれぞれ見ていきましょう。

 

 (a)法律上の貸倒れ(法人税基本通達9-6-1)

基本通達の文言を引用すると下記の通りです。

 

9-6-1 法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。(昭55年直法2-15「十五」、平10年課法2-7「十三」、平11年課法2-9「十四」、平12年課法2-19 「十四」、平16年課法2-14「十一」、平17年課法2-14「十二」、平19年課法2-3「二十五」、平22年課法2-1「二十一」により改正)

 

(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額

 

(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額

 

(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額

 

イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの

 

ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの

 

(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、

       その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

 

(1)~(4)の事実に該当する場合には、当該事実により切り捨てられた債権金額を損金の額に算入できることが定められています。

 

(1)~(3)の場合には、更生計画の認可による債権の切り捨てなど、法的整理手続を踏んで債権が切り捨てられた場合を想定しています。

債権が法的に切り捨てられたような状況にある場合には、誰の目から見ても債権が貸倒れたことは明らかであるため、

貸倒損失の計上を認めています。

 

一方、(4)の場合には、(1)~(3)とは異なり、債権が貸倒れたという事実ではなく債権放棄を行ったことを要件しています。

債権の「貸倒れ」ではなく債権の「放棄」であることから、もしその放棄が税務上の貸倒損失に該当しないとして否認された場合には、

取引先に対して何ら対価を受け取らずに債権回収を免除してあげたということで、税務上の寄附金として取り扱われる場合があるため、注意が必要です。

 

また、“その事実の発生した日の属する事業年度”において、損金に算入することとされていることにも注意が必要です。

例えば、過去に既に更生計画の認可などにより債権が切り捨てられている場合において、その切り捨てられた年度に債権金額を損金に算入していない場合には、その後の事業年度で債権金額を貸倒損失として損金に算入することはできません。

その事実が発生した事業年度の法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求により過去に遡って貸倒損失に関する税金を取り戻すことができます。

しかし、その債権の切り捨てから5年超を経過しているような債権については、その損失に係る税金を取り戻せないことに注意が必要です。

 

(b)事実上の貸倒れ(法人税基本通達9-6-2)

基本通達の文言を引用すると下記の通りです。

 

9-6-2 法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。(昭55年直法2-15「十五」、平10年課法2-7「十三」により改正)

 

(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。

 

(a)のケースとは異なり、法的整理手続による債権の切り捨てにまで至らない状況であっても、

債務者の資産状況、支払能力等という実態からみて、債権の全額が回収できないことが明らかである場合においては、

貸倒損失の計上を認めているものです。

「全額が回収できないことが明らか」の判定については、債務者の置かれている状況(破産、債務超過など)を具体的に分析し、

実質的な判断を行うことが求められることから、当該判定について税務当局と争いになることも多いです。

なお、債権について担保が提供されている場合には、その担保物の価値分はまだ債権の回収見込みがあると考えられるため、

担保物を処分するまでは貸倒損失を計上できないことに留意する必要があります。

 

(c) 形式上の貸倒れ(法人税基本通達9-6-3)

基本通達の文言を引用すると下記の通りです。

 

9-6-3 債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9-6-3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。(昭46年直審(法)20「6」、昭55年直法2-15「十五」により改正)

 

(1) 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)

 

(2) 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき

 

(注) (1)の取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。

 

こちらも、(b)と同様に債権の法的切捨てにまで至らない状態であったとしても、

1年以上弁済がない場合や、取立費用が債権総額を上回る場合には、実態としては債権の回収可能性が既にないものと考えて、

貸倒損失の計上を認めたものです。

経過年数(1年以上)や取立費用の大小などの形式的な要件が定められているため、いわゆる形式要件などと言われることがあります。

 

(a)、(b)のケースと異なり、対象となる債権が通常の営業活動から生じる売掛債権に限定されている点に注意が必要です。

例えば、貸付金や損害賠償請求権といった、通常の営業活動以外から生じている債権についてはこの規定の対象外となります。

 

また、「継続的な取引を行っていた債務者」であることが求められているため、仮に営業債権であったとしても、

単発の取引で生じた債権については基本的に適用対象とならないことに注意が必要です。

しかし、一般消費者向けのネット販売で、継続的に取引を行うことを期待して顧客情報を管理していたが

結果的に1回の取引しか発生しなかったようなケースには、この基本通達の適用が認められていますので

(国税庁質疑応答事例「通信販売により生じた売掛債権の貸倒れ」)、

その債権が置かれている状況に応じて、適切な判断を行う必要があります。

 

4.貸倒れ以外の債権放棄

基本通達9-4-1(4)の貸倒損失の要件である債権放棄について、税務上の貸倒損失に該当しないと判断された場合には、

その債権放棄は取引先に対する経済的な利益の供与として、原則として法人税法37条に定める寄附金として取り扱われます。

 

寄附金として扱われる場合には、債権放棄額のうち、寄附金の損金算入限度額として計算される一定の金額までしか、損金に算入することができません。

具体的には、債権放棄は一般寄附金というものに該当し、以下の算式によって損金算入限度額を求めます。

一見すると難しい計算式となっていますが、要するに利益が多く計上されていたり、資本金の額が多額である会社の場合には、

損金に算入できる寄附金の額が大きくなります。

 

 

5.寄附金として取り扱われない債権放棄

 

税務上の貸倒損失として認められなかった債権放棄であったとしても、寄附金としては取り扱われず、

その全額を損金に算入できるケースがあります。

 

(1)子会社等を整理、再建する場合の債権放棄等(法人税基本通達9-4-1、9-4-2)

基本通達の文言を引用すると下記の通りです。

 

(子会社等を整理する場合の損失負担等)

9-4-1 法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下9-4-1において「損失負担等」という。)をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ず(必要性)その損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。(昭55年直法2-8「三十三」により追加、平10年課法2-6により改正)

(注) 子会社等には、当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる(以下9-4-2において同じ。)。

 

(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)

9-4-2 法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等(以下9-4-2において「無利息貸付け等」という。)をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもの(必要性)で合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。(昭55年直法2-8「三十三」により追加、平10年課法2-6により改正)

(注) 合理的な再建計画かどうかについては、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について、個々の事例に応じ、総合的に判断するのであるが、例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として、合理的なものと取り扱う。

 

子会社や取引先など、事業関連性を有する者に対する債権放棄や無利息貸付について、

その債権放棄等をしなければより大きな損失を蒙ることが明らかな場合や、合理的な経営再建計画に基づく行為である場合には、

それが必ずしも経済的利益の供与に該当しないものとして、その債権放棄等の金額は寄附金の額に該当しないものとされています。

この点、経営再建計画等が合理的であるかどうかなどの判断を慎重に行う必要があります。

 

上記の要件を満たさない場合には、原則に戻って寄附金として取り扱われ、一定の損金算入限度額までしか損金算入が

認められません。

 

また、債務者が100%の支配関係がある国内の子会社に該当するようなケース(法人税法37条2項)や、

50%以上の支配関係がある海外子会社に該当するようなケース(租税特別措置法66の4条第1項)には、

その寄附金の全額が損金不算入となります。グループ会社に対する債権を放棄するようなケースには注意が必要です。

 

(2)新型コロナウイルスに関連する資金繰りの悪化(法人税基本通達9-4-6の2、9-4-6の3)

基本通達の文言を引用すると下記の通りです。

 

(災害の場合の取引先に対する売掛債権の免除等)

9-4-6の2 法人が、災害を受けた得意先等の取引先(以下9-4-6の3までにおいて「取引先」という。)に対してその復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間(災害を受けた取引先が通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間をいう。以下9-4-6の3において同じ。)内に売掛金、未収請負金、貸付金その他これらに準ずる債権の全部又は一部を免除した場合には、その免除したことによる損失の額は、寄附金の額に該当しないものとする。

 既に契約で定められたリース料、貸付利息、割賦販売に係る賦払金等で災害発生後に授受するものの全部又は一部の免除を行うなど契約で定められた従前の取引条件を変更する場合及び災害発生後に新たに行う取引につき従前の取引条件を変更する場合も、同様とする。(平7年課法2-7「六」により追加、令2年課法2-10「一」により改正)

 

(注)

 

1 「得意先等の取引先」には、得意先、仕入先、下請工場、特約店、代理店等のほか、商社等を通じた取引であっても価格交渉等を直接行っている場合の商品納入先など、実質的な取引関係にあると認められる者が含まれる。

 

2 本文の取扱いは、新型インフルエンザ等対策特別措置法の規定の適用を受ける同法第2条第1号《定義》に規定する新型インフルエンザ等が発生し、入国制限又は外出自粛の要請など自己の責めに帰すことのできない事情が生じたことにより、売上の減少等に伴い資金繰りが困難となった取引先に対する支援として行う債権の免除又は取引条件の変更についても、同様とする。

 

上記の基本通達は、従来、被災した取引先の債権の免除について、寄附金に該当しないことを定めていたものでした。

しかし、令和2年4月13日付の法人税基本通達の改正により、新型コロナウイルス等の感染症の影響に伴う取引先の資金繰りの悪化に

起因して行う債権の免除も、上記の通達の対象に含まれることが明確化されました。

この場合においても、その債権の免除が通達に定める事象に起因したものかどうか、因果関係などについて詳細な分析を行うことが

必要です。

 

6.消費税の取り扱い

過去に消費税が課されていた債権について、貸倒れの事実が生じた場合には、当該貸倒債権に係る消費税額を、

その貸倒れが生じた期の消費税額から控除することができます。(消費税法39条)

消費税法上の貸倒れの判定については、消費税法施行令59条、消費税法施行規則18条に具体的に定められていますが、

上記の法人税法基本通達9-6-1~9-6-3と内容に大きな差異はありません。

しかし、法人税法基本通達9-4-1,9-4-2により計上した子会社に対する債権放棄による損失などについては債権の放棄であるため、

あくまで貸倒損失には該当せず、資産の譲渡等にも該当しないため、消費税の控除ができないなど、消費税法上の貸倒損失に関する

取り扱いにも留意する必要があります。