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【社内勉強会⑤】現物給与について学ぼう

こんにちは。スタッフの大滝です。

昨年の勉強会は、消費税をテーマにしてきましたが、今年は現物給与について【現物給与の課税対象と非課税の取り扱い】という

テーマで勉強会を行っています。早速ですが、内容を整理していきます。

 

1 福利厚生と現物給与

 

2019年4月に施行された働き方改革関連法案や、ワークライフバランスという言葉を耳にするようになりました。

 

労働者を雇用する企業としては、労働者の健康や生活の向上を目的とした、福利厚生制度を充実させることを重視している企業が増加してきているように思います。

 

金銭支給以外で、従業員に対して食事の支給や商品の値引き販売、レクリエーション行事の開催等のように、

物または権利等の経済的利益をもって支給されることを現物給与と言います。

 

本来、給与は金銭で支給されますが、現物給与は役員や使用人に対して福利厚生の側面があり、

また選択性や換金性に難点があるため、一定のものは非課税とする税務上の取り扱いが設けられています。

 

そこで、現物給与の課税対象と非課税の取り扱いについて、具体的な事例をもとに整理していきます。

 

2 具体例 ~通勤交通費~

 

会社に通勤するための通勤手当は、通常「手当」として金銭で支給されていることが多いと思います。

 

交通機関や有料道路を利用している人に支給する通勤手当は、平成28年度の税制改正により、

最高で月額15万円までは非課税とされています。(改正前の最高限度額は10万円)

 

また、実務上では、新幹線通勤やグリーン車を利用した場合はどのような取り扱いとなるのかという疑問もあるように思います。

 

新幹線通勤は、最も合理的な方法であれば通勤手当として支給できますが、一方でグリーン車等の特別車両の利用は、

合理的な方法という定義の中に含まれないと考えられるため、給与課税される可能性があります。

 

さらに、交通機関を使用せず、自動車や自転車通勤の人に支給する通勤手当の非課税枠は、

通勤距離ごとに限度額が決められています。詳しくは、国税庁HPをご参考ください。

 

国税庁「No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当」

 

【課税される範囲】

1か月15万円以上の通勤手当の支給か、マイカー等の通勤については通勤距離ごとの限度額を超えて支給した場合

 

3 具体例 ~社宅家賃~

 

会社(使用者)が、役員や従業員(使用人)に対して社宅を提供している場合があります。

借上げ社宅等という制度として会社で設けていることも多いと思います。

 

役員と従業員で計算方法が異なりますが、1か月当たり賃料相当額を本人から受け取っていれば給与として課税されません。

下記【賃料相当額の計算について】に記載の計算方法を用いて、賃料相当額を計算します。

 

もし、本人から賃料相当額を受け取っていない場合には、賃料相当額と実際の徴収額の差額が給与課税されます。

 

例えば、賃料相当額が10万円で、実際に徴収している金額が4万円の場合、差額の6万円に対して給与課税されます。

 

なお、多くは従業員への福利厚生の要素が大きいと考えますが、例えば病院の夜間勤務など、業務遂行上の必要により、

役員または従業員の居住場所を著しく制限しなければならない理由で、社宅や寮に入居させている場合等

給与課税されないケースもあります。

 

【賃料相当額の計算について】

 

Ⅰ 役員

役員に対する社宅の貸与は、社宅の床面積により「小規模な住宅(木造132平米以下、非木造99平米以下:共用部分を含む)」と「それ以外の住宅」に分かれ、下記のように計算します。

また、いずれにも該当しないような豪華な社宅(床面積240平米超え)である場合には、算式の適用はなく、通常支払うべき使用料に相当する額(時価)が賃料相当額になります。

 

①小規模な住宅である場合

 《算式A》 (1)~(3)の合計額

(1)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%

(2)12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))

(3)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

 

②上記①以外の住宅(小規模な住宅以外)で自己所有の場合

 《算式B》 (1)~(2)の合計額の1/12

(1)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%

※ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12%ではなく、10%となります。

(2)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%

 

③上記①以外の住宅(小規模な住宅以外)で借り上げ社宅の場合

 《算式B》または、賃料の50% のいずれか高い方

 

国税庁「No.2600 役員に社宅などを貸したとき」

 

Ⅱ 従業員

 《算式A》 (1)~(3)の合計額

従業員の場合には、算式Aで計算した賃料相当額の1/2の金額を本人から徴収していれば、課税されないことになります。

もし、本人から賃料相当額を受け取っていない場合には、算式A⑴~⑶の合計額と、本人から徴収している金額の差額が給与課税されます。

 

また、算式Aに用いられている固定資産の課税標準額は3年に1度変更があります。

特に役員の場合には、このタイミングで都度、賃料相当額を見直すことも重要ですが、

従業員の場合には、課税標準額が20%以内の増減の時は改定計算を要しません。

 

国税庁「No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき」

 

【課税される範囲】

役員や使用人に無償で社宅を貸与したり、賃料相当額よりも低い金額を徴収している場合

 

<一口メモ> 社会保険における現物給与 ~住宅で支払われる報酬等~

 

役員や従業員に社宅を貸与した場合には、上記のような税務上の取り扱いだけでなく、社会保険においても現物給与の対象となります。

物価の変動などに合わせて、毎年4月に改定される「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」(厚生労働省告示)に定められた額に基づいて、

社会保険の被保険者が受けた現物給与を通貨に換算して、社会保険料を算定します。

 

令和4年4月改定 「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」

 

例:東京都(令和4年4月価格 2,830円)

居住スペース 5畳/本人が負担する賃料相当額 10,000円の場合

2,830円×5畳=14,150円

14,150円-10,000円=4,150円(現物給与)

 

社宅家賃を会社が全額負担している場合には、14,150円が現物給与となり、社会保険の標準月額を算定する際には、毎月の報酬月額に上乗せします。

一方で、従業員から賃料相当額を徴収している場合には、徴収している金額を引いた4,150円が現物給与となります。

 

4 具体例 ~食事支給~

 

社内食堂での食事提供や、食券の支給などを採用している会社も多く、現物給与の中では一番身近なものだと思います。

 

①昼食

食事の支給(昼食)については、下記の要件を満たしていれば課税されないこととなります。

(1)役員または使用人が、食事の価額の50%相当額以上を負担している場合

(2)役員や使用人に支給した食事について、使用者(会社)が負担した金額が月額3,500円以下の場合

※消費税および地方消費税の額は除く

 

②夜食

夜勤や深夜残業など会社から命令された勤務時間帯での、食事支給については無料で提供しても課税しなくて良いとされています。

深夜勤務者への食事支給(夜食)は、深夜時間帯の食事の提供が困難であるという考え方により、1食あたり300円以下であれば課税されません。

 

国税庁「No.2594 食事を支給したとき」

 

【課税される範囲】

昼食代を会社が負担して下記①②のいずれかに該当する場合は、

食事の価額から役員や使用人の負担している金額を控除した残額に課税

①役員や使用人が負担している金額<食事の価額×50%

②役員や使用人が負担している金額<会社が負担している金額(月額3,500円以上)

 

 

<一口メモ> 社会保険における現物給与 ~食事で支払われる報酬等~

 

先程、社宅家賃の項目でも整理しましたが、食事についても社会保険の現物給与の対象となります。

現物給与額の計算方法は、社宅と同様ですが、食事の場合には「1か月あたり/1日あたり/1日あたり(朝食・昼食・夕食)」と

単価が細分化されているので、社会保険料の算定時に気を付けるポイントかと思います。

 

住宅の現物給与との違いとして、食事の場合には、現物給与価額の3分の2以上を食事代として徴収している場合には、食事の供与はないもとして取扱います。

 

5 具体例 ~金銭の貸付~

 

役員や従業員に対して、会社が無利息または、低い利息で金銭を貸し付ける場合、経済的利益を受けることになるため原則として給与課税となります。

 

しかし、災害等の理由で臨時的に多額の生活資金を必要とする場合や、会社における借入金の平均調達金利と同等の貸付金利を定め、利息を徴収している場合は、担税力の考慮や少額不追及の趣旨により、課税しないこととされています。

 

国税庁のHPによると、貸付を行った日の属する年に応じた利率が定められており、令和3年中に貸付けを行ったものは、金利1.0%とされています。

無利息や低い金利で金銭を貸し付けた場合には、実際に支払う利息の額と貸付を行った日の属する年に応じた利率で計算した利息の額の差額が、給与課税されます。

 

国税庁「No.2606 金銭を貸し付けたとき」

 

【課税される範囲】

役員や従業員に対して、無利息や低い金利での貸付を行った場合

 

6 具体例 ~レクリエーション費用~

 

社内交流やチーム力の向上等を目的として、会社は社員旅行や会食、運動会などのレクリエーションを行うことがあります。

 

原則として、これらの行事に参加して受けた経済的利益は給与として課税されることになります。

しかし、社会通念上一般的な行事と認められれば、会社がその費用を負担した場合でも給与課税されないこととして取り扱われます。

 

非課税とされる行事の範囲として、下記のように整理できます。

 

①社員旅行

国内、海外を問わず4泊5日以内の期間で、社員の50%以上が参加している場合

 

②その他(会食、運動会など)

参加対象者を限定していない場合

 

上記ともに、不参加者に対して金銭を支給した場合には、参加者も含め全員が給与課税されることになります。

これは、旅行に参加するか・金銭をもらうかを選択できる状況になるためです。

 

国税庁「No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行」

 

【課税される範囲】

特定の人(役員のみ・成績優秀者のみ等)を対象とした行事

 

7 具体例 ~技術取得~

 

従業員のスキルアップや業務に必要な技術習得のために、研修制度を設けている会社も多いと思います。

 

知識や技術の習得にかかる研修受講費用や教材費などは、会社の仕事に直接必要であること、その費用が適正な金額であれば、

給与として課税しなくてもよいことになっています。

 

例えば、経理課に所属となり簿記の資格取得のための費用を会社で負担してもらうといった場合には、研修費という判断が出来ると思います。

一方で、資格の合格者のみに資格取得にかかった費用を支給するとなると、お祝い金のような意味合いが強くなると考えられますので、給与課税されることがあります。

 

国税庁「No.2588 職務に必要な技術などを習得する費用を支出したとき」

 

【課税される範囲】

業務に直接必要とされない知識や技術取得にかかる費用

特定の人(合格者のみ等)を対象とした費用支給

 

8 具体例 ~生命保険~

 

会社が、役員または従業員を被保険者とする生命保険の保険料を支払ったことによる経済的利益は、生命保険の種別によって取り扱いが下記のように整理できます。

 

①養老保険

 

②定期保険

【課税される範囲】

特定の人(役員のみ等)が加入対象の場合

 

9 具体例 ~商品値引~

 

従業員に対して、会社で取り扱っている商品や製品を提供する場合には、値引き販売をする制度を設けている企業が多いです。

一般的に行われている値引販売については、経済的利益の額が少額であることや一般の消費者に対しても値引販売が行われる場合があること等を考慮して設けられています。

 

この場合、下記を全て満たす場合に非課税とされます。ただし、土地、建物、有価証券についてはこの制度の対象外です。

 

①販売価額が取得価額以上であること

例:会社の仕入価額1,000円、従業員への値引き価額1,200円

 

②値引販売する価額が、会社が販売する価額に比べて著しく低くないこと(通常、他に販売する価額のおおむね70%未満でない)

例:会社が販売する価額2,000円、従業員への値引き価額1,500円

 

③値引率が全員一律か、地位や勤続年数に応じて合理的なバランスが取れていること例:勤続5年以上の従業員は15%オフで販売等

 

④一般消費者が通常消費できる数量

 

【課税される範囲】

会社の仕入価額より低い価額やアンバランスな価額での販売

 

10 具体例 ~永年勤続・創立記念品等~

 

従業員の永年勤続を表彰したり、会社の創業を記念して、従業員に創立記念品を配布するような行事は一般的に行われています。

 

創業記念品の支給のついては、役員や従業員だけでなく株主や取引先などの社外の関係者にも供与されることが想定されるため、

下記の要件を満たす場合には、給与課税しないこととして取り扱います。

 

①支給する記念品が社会通念上ふさわしいもの

②処分見込み額が10,000円以下のもの ※消費税等の金額を除いて判定します。

 

一方で、金銭や有価証券等の支給や、記念品を従業員が自由に選択できる場合には給与課税されます。

 

【課税される範囲】

金銭・有価証券、記念品を従業員が自由に選択できるもの、処分見込額が10,000円超のもの、などを支給した場合

 

11 所長の一言

 

こんにちは。税理士の山田です。

現物給与については、課税・非課税の判断が難しく、非常にグレーな取扱いが多くあります。

従業員のためと思って行っていた福利厚生が急に給与として課税されるケースもあります。

 

とあるIT企業が無料で社員食堂を提供いていたところ給与課税がされたケースや、仕事の都合で社員旅行に参加出来ない方に金銭を支給したところ、

全従業員に給与課税がされたケースなどあります。社員のための福利厚生が結果として、社員の税金を増やして負担をさせてしまうことがあるので注意しましょう。

 

福利厚生の設計時には給与課税がされないように、税法上の取扱いを整理する必要があります。

また、社会通念上一般的と言える範囲が非課税、という非常にあいまいな基準な部分も多く、税務調査の際に議論となることも少なくありません。

全く準備がされていないとゼロベースでの議論になってしまい調査で不利な判断がされてしまうことがありますが、

非課税であると判断するための根拠を整えておくことで、調査官の心象も大きく変わってくると考えます。


適格請求書保存方式(インボイス制度)の概要

こんにちは。

税理士の大塚です。

 

令和3年10月1日より適格請求書(インボイス)発行事業者の登録がスタートしました。

適用開始は令和5年10月1日からであり、まだ先の話ではありますが、現在の情報を基に、制度概要を解説します。

 

1 インボイス制度の概要

 

適格請求書とは、売手が買手に対して正確な適用税率や消費税額を伝えるための手段であり、一定の事項を記載した請求書や納品書その他これらに類する書類を言います。

請求書、納品書、領収書、レシート等、名称は問われません。

 

インボイス制度が開始されると、消費税の仕入税額控除の要件に適格請求書の保存が入りますので、適格請求書がなければ仕入税額控除が取れなくなります。(経過措置があります。)

 

現在は取引内容から消費税の課税仕入れになるかを判断して仕入税額控除を取っていますが、将来的には適格請求書があるか否かで判断をすることになります。

従って、インボイス制度は消費税の仕入税額控除に関する改正になります。

 

逆に売手側の立場からすれば、取引先から適格請求書の発行が可能かどうかの確認を受けたり、発行を依頼されたりといったことが想定されます。

 

適用時期:令和5年10月1日開始

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

2 登録制度

消費税の課税事業者が適格請求書を発行する為には、事前に税務署長に申請して適格請求書発行事業者として登録する必要があります。

令和3年10月1日から登録受付が開始されています。

 

制度開始である令和5年10月1日から適格請求書を発行できるようにする為には、令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。

なお、特定期間の判定により課税事業者となる場合は令和5年6月30日までが期限となっています。また、期限までに困難な事情がある場合は、令和5年9月30日までに提出して税務署長により登録を受けた際には令和5年10月1日に登録を受けたこととみなされます。

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

3 免税事業者が登録を受ける場合

現在免税事業者である事業者が、インボイス制度開始である令和5年10月1日の属する課税期間中に登録を受ける場合、登録日から課税事業者になる経過措置が設けられています。

経過措置を受ける場合は、課税事業者選択届出書の提出は不要です。

 

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/300416.pdf

 

※9月30日時点の棚卸資産は棚卸資産の調整対象になります。

※経過措置期間に簡易課税を受けたいときは、その課税期間終了までに簡易課税度の選択届出書を提出すれば適用可能です。

上記ケースの場合、令和5年12月末までに届出書を提出すれば簡易課税を選択することができます。

 

課税事業者を選択して課税事業者になり、適格請求発行事業者として登録したい場合は、その課税期間の初日の前日から起算して1月前の日までに登録申請書を提出しなければなりません。

つまり前期末まではなく、前期末の1月前までに検討が必要になりますので注意が必要です。

 

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/300416.pdf

 

4 新設法人

設立事業年度末日までに、事業を開始した日の属する課税期間の初日から登録を受けようとする旨を記載した登録申請書を提出すれば、設立事業年度開始の日に登録を受けたとみなされます。つまり遡っての登録が可能です。

 

ただし、遡っての登録となる場合、登録される期間までは適格請求書は発行できませんので、取引先への説明や登録することになった際の請求書の再発行など、事後対応が煩雑になることが予想されます。いつから登録するかは、現実的には早めの選択が求められると考えられます。

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

5 登録の取りやめ

登録を取りやめたい場合は、取り消しを求める届出書を税務署長へ提出する必要があります。

この場合、届出を提出した翌課税期間から効力が発生しますが、提出のあった日の属する課税時間の末日から起算して30日前の日から、末日までの間に提出した場合は翌々課税期間から効力が発生します。

 

従って、翌課税期間から取りやめようとする場合は、課税期間末日までではなく、末日から30日前までに届出書を提出しておく必要が出ます。

 

 

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

なお、適格請求書発行事業者は基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも免税事業者にはなりませんので、免税事業者にするつもりで登録の取りやめを行う場合は課税期間末日から30日前という期日に注意が必要です。

また、課税事業者を選択して課税事業者となり、登録もしている事業者が免税に戻りたい場合には、「登録の取りやめ」と「課税事業者選択不適用届出」の両方を提出する必要があります。

いわば二重にロックが掛かっている状態ですので、両方を解除することが必要です。

 

6 登録番号

登録番号は法人、個人別に下記のように定められています。

 

法人:T+法人番号

個人:T+数字13桁

※通知を受けた登録番号は変更不可

※相続で事業を引き継いだ場合は、相続人は改めて登録する必要あり

※インボイス制度開始前に請求書に登録番号を記載することは特段問題なし

 

7 公表

適格請求書発行事業者は国税庁HPに情報が公表されます。具体的には、氏名、名称、本店住所、登録番号、登録年月日などです。

個人事業主の場合、本人申請により屋号なども加えることができます。

公表情報に変更が生じた場合は、「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」の提出が必要となります。

 

8 適格請求書の記載事項

適格請求書の記載事項は下記の表の通りです。

なお、小売業、飲食業、タクシー業など不特定多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合には、適格請求書に代えて適格簡易請求書の交付が可能です。

適格簡易請求書は、⑥の書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称が不要になる等、簡略化されたものです。なお、消費税額の端数処理は一つの適格請求書ごとに行う必要があります

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

適格請求書 記載例

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/300416.pdf

 

9 登録日から通知を受けるまでの取り扱い

登録申請から通知を受けるまでの間に請求書などを発行しなくてはならないケースも想定されます。

この場合、通知を受けるまでは適格請求書は発行できませんので、通知を受けた後に改めて適格請求書の交付が必要となります。

また、登録番号のみなど、不足する事項を相手方に書面等で通知することでも可能となりますが、既に交付した書類と相互の関連を明確にする必要があります。

 

10 適格請求書の例示

⑴仕入側が作成する書式でも記載事項が含まれていれば問題はありません。

例えば販売奨励金を支払う側が明細を作成するような場合

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

例えば仕入明細書を仕入側が作成して売手に送付している場合

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

⑵適格請求書を頭紙として、納品書を別紙のようにする形式でも問題ありません。

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

11 通常の取引で良くあるケース

⑴立替金

下図の例の場合、C社からB社への適格請求書のみですとA社は仕入税額控除を取ることができません。

B社から立替金精算書等により、A社のものであることが明らかにされる場合には可能です。

この場合、B社が適格請求書発行事業者以外であっても、C社が適格発行事業者であれば仕入税額控除を取ることができます。

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

⑵家賃口座振替

契約書に適格請求書として必要な記載事項の一部が記載されており、取引を行った事実を客観的に示す書類とともに保存があれば仕入税額控除は可能となります。

例えば、契約書(課税資産の譲渡等の年月日以外は記載あり)+通帳の写し(課税資産の譲渡等の年月日に相当)を併せて保存するといった対応が考えられます。

なお、令和5年9月30日以前からの契約については、適格請求書の記載項目のうち不足している事項の通知を受け、契約書と一緒に保存しておけば、改めて契約書を締結しなくても差し支えないとされています。

 

12 仕入税額控除 経過措置

基本は適格請求書、適格簡易請求書の保存が仕入税額控除の要件となりますが、経過措置として、以下の規定あり当面は全額控除できないわけではなく、部分的に仕入税額控除ができなくなります。合計6年間経過措置があり、段階的に仕入税額控除の金額が少なくなっていきます。

 

令和5年10月1日から令和8年9月30日まで :仕入税額相当額の80%

令和8年10月1日から令和11年9月30日まで:仕入税額相当額の50%

 

13 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるもの

適格請求書、適格簡易請求書がない場合であっても仕入税額控除が認められるものがあります。主なものは下記の通りです。

 

⑴公共交通機関の特例の対象として適格請求書が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送

→船舶、バス、鉄道。タクシーは入っていない。

→3万円は1回の取引で判定。複数人分を購入して3万以上の場合は対象外

⑵適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引

⑶古物営業を営む者の適格請求発行事業者でない者からの古物(古物営業者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

⑷質屋を営む者の適格発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

⑸宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

⑹適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

→⑶から⑹は棚卸資産として購入する場合に限る為、固定資産は不可

⑺適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等

→コインロッカー、コインランドリーなども含む。

→ATMの振込手数料なども該当。

⑻郵便ポストに差し出された郵便切手類を対価とする郵便・貨物サービス

⑼従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)⑼

  

14 税額計算

インボイス制度の導入に伴い、消費税の計算方法も一部変わります。従前の方法も認められていますので、企業の体制と影響額などを考慮して決めることになるかと思います。

 

 <売上税額>

 原則:総額割戻し計算 (10%の場合。以下同じ)

税込金額 × 100/110 =課税標準額

課税標準額 × 7.8% =売上消費税額

 

特例:積上げ計算

発行する適格請求書等の消費税額の合計 ×78/100 =売上消費税額

 

<仕入税額>

原則:積上げ計算 

  • 請求書等積上げ方式

適格請求書等の消費税額の合計 ×78/100 =仕入消費税額

 

  • 帳簿積上げ方式

帳簿の仮払消費税額の合計 ×78/100 =仕入消費税額

一つの取引ごとに 取引金額×10/110=消費税額として集計する

 

特例:総額割戻し計算

税込金額 × 7.8/110 =仕入消費税額

 

・売上原則の場合、仕入は選択適用

・売上特例の場合、仕入は原則のみ(積上げのみ)

・売上併用の場合、仕入は原則のみ(積上げのみ)

 

売上は積上げ計算を行った方が切り捨ての関係から有利になります。

一方で仕入は逆に割り戻し計算を行った方が、仕入税額控除が大きくなり有利になります。有利になる方式同士を組み合わせる方法は認められません。

 

15 適格請求書発行事業者以外の事業者が請求書を発行する場合

適格請求書発行事業者の登録を受けていない事業者が、適格請求書と誤認される恐れのある書類を交付することは禁止されており、罰則規定も設けられています。

 

16 免税事業者の選択

免税事業者が適格請求書を出せないことで顧客離れにつながる可能性があります。例えば、同じタクシー代でも、適格請求書が発行できるタクシーとできないタクシーがあった場合、会社の経費としては仕入税額控除を取れる方が有利なので、金額が同じであれば適格請求書の発行ができるタクシーを選ぶのは自然なことです。

また、営業を行った際に適格請求書を発行できないので他社を選択されて取引に至らないというケースも想定されます。

 

現在は免税事業者で不自由がない場合でも、今後は課税事業者になることも選択肢として考えていく必要が出ると思われます。

 

国税庁 インボイス制度 Q&A

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_faq.htm

 


【社内勉強会④】消費税の簡易課税制度について学ぼう

 

こんにちは。スタッフの大滝です。

前回に引き続き、今回は消費税の簡易課税について整理していきます。

 

1 消費税の簡易課税制度とは

 

簡易課税制度とは、消費税申告の計算方法の一つです。

原則として、消費税は売上に係る消費税から仕入に係る消費税を差し引いて計算します。

それに対して、簡易課税の計算では、売上に係る消費税から売上に係る消費税にみなし仕入れ率を乗じた額を控除して、計算します。

つまり、簡易課税とは、仕入れに係る消費税を売上に係る消費税額から簡易的に求め、納める消費税額を計算できる制度です。

算式にある「みなし仕入れ率」とは、下図のように分類され、事業の種類によって適用される割合が定められています。

図にある通り、みなし仕入れ率は第1種事業~第6種事業に分かれており、それぞれ乗ずる割合が異なり、取引ごとに計算します。

複数の事業を行っている場合については、後のトピックスで整理します。

事業区分は、国税庁ホープページに記載されているフローチャートを参考いただくと、より理解しやすいと思います。

 

参考:国税庁ホームページ 簡易課税の事業区分について(フローチャート)

 

2 簡易課税制度の適用要件

 

前回の記事で、消費税の納税義務は、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合に、消費税の課税事業者と判定されると整理しました。

この場合は、自動的に課税事業者となり、選択の余地はありません。

一方で、簡易課税制度を選択する場合には、下記の適用要件があります。

 

⑴基準期間における課税売上高が5,000万円以下であること

⑵前課税期間末までに「消費税簡易課税制度選択届出書」(以降、選択届出書)を提出していること

 

図にあるように、2期目の期末までに選択届出書を提出すると、「翌課税期間以降の課税期間」から効力が発生するので、3期目から簡易課税となります。

 

例外として設立1期目の法人で、1期目に簡易課税を選択したい場合は、1期目の事業年度終了までに選択届出書を提出することとなります。

また、1期目から期首資本金、特定新規設立法人の要件で、強制的に課税事業者になっている場合でも、上記⑴⑵の要件を満たしていれば、簡易課税を選択できます。

 

一方で、簡易課税の選択を取りやめたい場合には、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」(以降、不適用届出書)を、その課税期間の初日の前日(=前期末)までに、所轄する税務署長へ提出します。

しかし、簡易課税制度を選択すると2年間は継続適用となるため、不適用届出書を提出できないこともあります。こちらは後のトピックで説明します。

 

3 複数の事業を行う場合における簡易課税の計算方法

 

先程、簡易課税を選択した場合の消費税の計算方法について整理しました。

この計算方法は、1つの種類の事業を行う企業に当てはまる原則的な計算方法です。

 

一方、世の中には複数の業種を行う企業も多々ありますので、特例の計算方法について、特例のケースごとに、原則と特例の計算方法を比較して、整理していきます。

なお、税額の計算については簡便法で計算します。

 

ケース①の場合は、卸売業が売上比率の75%以上を占めるので、

小売業の計算は、第1種のみなし仕入率(90%)で計算することができます。

結果として、原則で計算するより、特例の計算の方が、納税額は少なくなります。

 

ケース②の場合は、3種の事業を行っており、そのうち卸売業と小売業の合計が売上比率の75%以上を占めるので、それ以外の事業(この場合は、不動産業)は、卸売業と小売業のうち、低い方のみなし仕入れ率(小売業の80%)で計算することができます。

結果として、原則で計算するより、特例の計算の方が、納税額は少なくなります。

ケース③の場合は、複数の事業を行っていますが、その事業の比率が不明なので、卸売業(90%)と小売業(80%)のうち、低い方の80%で計算しています。

このように、特例を用いることで納税額が変わることもありますので、原則と特例の計算をシミュレーションする必要があります。

特例の計算方法を用いる際には、届出の提出などの提出の必要はありません。

 

4 簡易課税制度を選択する際の注意点

 

最後に、簡易課税制度を選択する場合に、あらかじめ検討しておく点について整理します。

 

⑴2年継続適用

簡易課税制度を選択すると、2年間は簡易課税が継続します。

つまり、2年間を通じて、原則課税のままでいくよりも、簡易課税を選択すると有利になるのかを判断する必要があります。

しかし、簡易課税の要件は「基準期間における課税売上高が5,000万円以下であること」なので、選択届を提出してから2年間のうちに、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える事業年度がある場合には、簡易課税は外れ、原則課税になります。

 

下図を例にすると、3期目は、基準期間(1期目)の課税売上高が5,000万円以下なので、簡易課税を選択できます。

通常であれば、2年継続適用により、4期目も簡易課税となります。

しかし、4期目の判定をする際に、基準期間(2期目)の課税売上高が5,000万円を超えているので、簡易課税の要件から外れ、4期目は課税事業者になります。

 

よって、簡易課税を選択しても、必ずしも2年連続で簡易課税の計算がされるとは限りません。

このケースでは、3期目が原則課税か簡易課税かで、有利になる方を選択すれば良いことになります。

 

⑵簡易課税制度の選択ができない場合

調整対象固定資産の仕入れ等を行ったことにより、消費税の納税義務の免除がされない期間については、消費税の簡易課税を選択することができません。

具体的には、課税事業者の選択をしている場合や、基準期間がない法人で期首資本金額が1,000万円以上の場合等において、調整対象固定資産の仕入れ等を行っているケースが該当します。

また、高額特定資産の仕入等を行ったことにより、消費税の納税義務の免除がされない期間についても、消費税の簡易課税を選択することができません。

 

5 最後に

簡易課税の選択をする場合には、原則として課税期間が始まる前に選択をする必要がありますが、将来の消費税をシミュレーションすることは非常に困難であると思います。

簡易課税はあくまで特例であり損得が発生します。

 

例えば、預かった消費税が100、支払った消費税が30でみなし仕入れ率が50%だとすると、原則課税の納税は70、簡易課税での納税は50になります。この場合には簡易課税の方が得をしますが、原則課税が損をしているわけではなく、キャッシュベースでは実際に70の消費税を預かっていることになりますので損得という考えは発生しません。

 

つまり、簡易課税は特例計算であり実際の取引を一部無視して計算する方法であるため、ギャンブル的な要素があります。どちらを選択するか迷われる場合には、原則に立ち返って原則課税を選択されることをお勧めします。


電子帳簿保存法の改正~令和4年1月からこう変わる~

こんにちは。

税理士の大塚です。

電子帳簿保存法が令和4年1月1日より改正されます。

大きく分けると、「電子データ保存の要件が大幅に緩和される」「電子取引の紙出力での保存が認められなくなる」ということがポイントになります。

今回は改正される電子帳簿保存法の要点をまとめます。

 

1 保存方法の概要

区分ごとに認められる保存方法は下記の図の通りです。

改正前、電子取引については紙出力による保存が認められていましたが、改正後は電子データとして保存することが求められます。

2 区分1:電子的に作成した帳簿、請求書等の書類

対象となるのは、会計ソフトで作成している会計帳簿、請求管理ソフトで作成した自社発行の請求書などです。

元データがPC内に保存されているケースが該当します。

 

この場合、出力した紙で保存することが原則ですが、一定要件を満たせば電子データのまま保存することも認められます。

従来から電子データのまま保存する方法はありましたが、改正で要件が大幅に緩和されました。主な改正点は下記の通りです。

 

⑴税務署長への事前承認制度の廃止

 

⑵下記の3要件を満たす場合、電子データのまま保存が可能

①システム関係書類等の備付

②PC、ディスプレイ、プリンタ等を備え付け、画面・書面に整然とした形状及び明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと

③ダウンロードの求めに応じることができること

 

⑶優良な電子帳簿の要件を満たす場合は過少申告加算税が5%軽減される措置

事前に税務署へ届出書が必要となります。

事前承認制度がなくなり、最低限の要件で電子データのまま保存が可能になりましたので、従前よりも電子データのまま保存する企業が増加することが想定されます。

 

3 区分2:紙で受領・作成した請求書等の書類

対象となるのは、取引先から紙で受領した請求書、領収書、紙で取り交わした契約書、手書きで発行した請求書、領収書などです。

この場合、紙のまま保存することが原則ですが、一定要件を満たせばスキャンした上で電子データとして保存(スキャナ保存)することも認められます。

従来からスキャナ保存は認められていましたが、改正で要件が大幅に緩和されました。主な改正点は下記の通りです。

 

⑴税務署への事前承認制度の廃止

 

⑵タイムスタンプの付与期間が、最長約2か月と7営業日以内に延長

 

⑶受領者がスキャナで読み取る際の自署が不要

 

⑷タイムスタンプに代えて、訂正又は削除を行った場合に内容を確認できるクラウド等(訂正、削除ができないものを含む)での保存が可能

 

⑸検索要件の緩和 取引年月日、取引金額、取引先に限定

 

ダウンロードに応じられれば、範囲指定及び組み合わせ条件での検索は不要

 

⑹適正事務処理要件が廃止 相互けん制、定期的な検査等が不要

 

事前承認制度が廃止されたことに加え各要件も大幅に緩和されています。

改正前は受領者がスキャンする場合、タイムスタンプの付与期間が3営業日と非常に厳しいものでしたが、約2か月へ延長されます。

また、タイムスタンプに代えて、訂正又は削除の内容を確認できるシステム(訂正又は削除ができないものを含む)での保存が可能になりましたので、経費精算システムなどを利用されている企業は必然的に要件を満たしていくことも想定されます。

 

大きいのは適正事務処理要件が廃止されることです。

改正前は、スキャナした人と別の人による原本とデータの突合や、定期的に原本とデータを突合して不備がないか確認することが必要でした。

そのため、すぐに原本を廃棄することはできず、紙での保存も並行する必要がありました。

 

今回適正事務処理要件が廃止されることで、理論上はスキャナしてすぐに原本を廃棄することが可能となります。

但し、問題なくスキャンされているかの確認や、同じ領収書の使いまわしを防止するために原本の提出を求めるといった対応も考えられ、企業ごとに検討が必要と思われます。

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021005-038.pdf

 

4 区分3:電子取引

対象となるのは、紙を通さずに授受する電子データになります。請求書をメール添付して送受信するようなものや、ネットからダウンロードして証憑を入手するものが該当します。

電子で完結する取引を言いますので、メールで送った後に原本を紙で郵送を行うようなケースは電子取引には該当しません。

 

電子取引は、出力しての紙保存か電子データのまま保存かを選択できましたが、改正後は紙保存ができなくなり、電子データのまま保存することが求めれます。

 

電子データのまま保存する為には、「真実性の要件」と「可視性の要件」を満たす必要があります。検索機能など一部要件はスキャナ保存同様に緩和されています。

 

⑴真実性の要件

いずれか一つを満たす必要があります。

①タイムスタンプが付与されたデータを授受

②データ受領後、タイムスタンプを付与する

③訂正又は削除を行った場合に内容を確認できるシステム(訂正又は削除ができないシステムを含む)での授受及び保存

④「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規定」の策定、運用、備付

 

最も簡単に要件を満たすのは、④の規定を整備することにあります。国税庁に規定の例がありますので、作成する際にはこちらをご参照下さい。

国税庁 各種規定等のサンプル

 

⑵可視性の要件

全ての要件を満たす必要があります。

①システムの概要を記した書類の備付 ※自社開発プログラムを利用する場合に限る

②見読可能装置の備付 ※ディスプレイ、プリンタなどの備付が必要

③検索機能の備付 ※取引年月日、取引金額、取引先に限定

ダウンロードに応じられれば、範囲指定及び組み合わせ条件での検索は不要

 

問題となるのは検索機能の備付です。検索機能は、取引年月日、取引金額、取引先のそれぞれで検索できる必要があります。

 

文書管理システムなどを利用していれば要件を満たすことは難しくないと思われますが、特にシステムなどの利用がない場合は困難です。

 

但し、別途Excelで管理台帳のようなものを作成してこれらの検索項目を網羅する方法や、PDFなどのファイル名自体に取引年月日、取引金額、取引先を入れて保存するといった方法も認められています。

※以下出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021006-031_03.pdf

 

5.まとめ

区分1の電子データのまま保存する方法、区分2のスキャナ保存については、従前の要件が大幅に緩和されたことにより使用しやすくなりました。

ただ、こちらは紙での保存も認められますので、企業の必要性に応じて検討すれば良い事項かと思います。

一方で、電子取引は紙保存が認められなくなりますので、企業として対応が必要になります。

実際のところ、税務署がどこまで確認又は指摘をしてくるのか分からない部分もありますが、対応できる準備を進めていくに越したことはありません。

改正全般の細かい要件などは下記の国税庁のQ&Aをご参照下さい。

国税庁 電子帳簿保存法Q&A(一問一答)


【社内勉強会③】消費税の納税義務について学ぼう

こんにちは。

スタッフの大滝です。

あっという間に入社して1年が経ちました。この1年で、様々なテーマで行われた勉強会を経験してきました。

早速ですが、第3回は消費税の納税義務について整理してまいります。

 

1 消費税の納税義務とは

 

第1回の社内勉強会の記事にて、消費税の基本的な仕組みについて整理しました通り、

消費税の特徴として、「事業者が申告・納付すること」が挙げられます。

第1回の記事はこちら

しかし、消費税は全ての事業者に対して納税義務があるわけではありません。

消費税の納付義務がある事業者を「課税事業者」、納付義務がない事業者を「免税事業者」と言います。

「課税事業者」と「免税事業者」の判定について、いくつかのパターンに分けて、整理していきます。

 

⑴基準期間による判別

①基本的な考え方

まずは、納税義務の判定に使う用語の意味を見ていきます。

 

課税期間…消費税の申告対象となる期間

基準期間…納税義務の判定基準となる期間

 

課税期間と基準期間について、法人と個人事業主のケースで、それぞれについて図にまとめました。

法人と個人それぞれ、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合に、消費税の課税事業者となります。

課税売上高とは、消費税がかかる売上の合計額 + 輸出取引等の免税となる売上の合計額を指します。

 

基準期間が課税事業者の場合には、税抜金額で1,000万円の判定を行い、免税事業者の場合は税込金額で1,000万円の判定を行います。

よって、基準期間が課税事業者か免税事業者のどちらなのか確認する必要があります。

 

②基準期間が1年未満の場合

消費税納税義務の判定をする際に、会社設立1期目や決算期の変更等により、基準期間が1年未満の場合が考えられます。

このように、基準期間が1年未満の場合は、原則として、1年相当に換算した金額により判定をすることになります。

具体的には、基準期間中の課税売上高を、基準期間に含まれる事業年度の月数で割った額に12を掛けて計算した金額により判定します。

例の場合では、調整計算をすると1期目の課税売上高は1,400万円となり、3期目は課税事業者という判定となります。

3期目になる法人は、基準期間である1期目が1年未満の場合が多いため、消費税の判定には留意する必要があります。

なお、個人事業主は、仮に年の途中で開業したとしても、上記の調整計算は行いません。

 

⑵特定期間

基準期間の判定で納税義務がない場合でも、特定期間の判定により納税義務が生じる場合があります。

特定期間とは、原則として前事業年度(下記の例だと1期目)の開始の日以後6ヶ月の期間を指します。

特定期間については、課税売上高と給与支払額のいずれかを選択して、その金額が1,000万円を超える場合には、その課税期間は課税事業者となります。

実務的には。課税売上高と給与支払額の両方が1,000万円を超えたら、課税事業者に該当すると整理しましょう。

特定期間の判定については、以下のようにパターン分けをして判定することができます。

なお、特定期間が7か月以下の場合は、特定期間の判定は不要となります。

詳しくは、国税庁ホームページをご覧ください。

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/22/10.htm

 

⑶基準期間がない場合

会社を設立して、1期目、2期目には、前々事業年度がないので、基準期間はありません。

しかし、基準期間がない事業年度であっても、以下の①、②いずれにも該当する場合は消費税の納税義務は免除されずに、課税事業者になります。

 

①期首の資本金または出資金の額が1,000万円以上の場合

…この場合の判定には、資本準備金は含みません。

よって、例として、1,500万円の出資で会社を設立しようとする場合、資本金の2分の1の金額までは資本準備金に積み立てることができますので、

資本金750万円、資本準備金750万円とすると、1期目は免税事業者となります。

また、資本金の額はそれぞれの期首の時点で判定するので、1期目が免税事業者であっても、増資をすることで、2期目は課税事業者になる場合があります。

 

②特定新規設立法人に該当する場合

…特定新規設立法人とは、平成26年4月1日以後に新規で設立した法人のうち、下記のAかつBに該当する法人を言います。

 

A その基準期間がない事業年度開始日に他の者によりその法人の株式等の50%超を直接又は間接に保有されている場合など一定の場合(特定要件)に該当すること。

 

B Aの判定の基礎となったその他の者及び他の者と特殊な関係にある法人のうち、

いずれかの者(判定対象者)のその新規設立法人の基準期間相当期間の課税売上高が5億円を超えていること。

 

簡単に図解するとこのようになります。

 

 

特定新規設立法人については、弊社のホームページ記事でも以前取り上げておりますので、こちらもご覧ください。

特定新規設立法人の記事はこちら

 

③特定期間

設立2期目は基準期間がありませんが、先ほど、⑵で整理した特定期間の判定で課税事業者になる可能性があるので、注意が必要です。

 

⑷その他

相続や組織再編があった場合、または高額特定資産(一つの取引単位の価額が1,000万円以上の固定資産)を取得した場合は、上記に限らず、課税事業者になる場合があります。

 

2 課税事業者の選択

 

今まで整理してきた内容は、要件に該当する場合に、強制的に課税事業者となる例でした。

一方で、免税事業者であっても、課税事業者となることを選択することもできます。

 

消費税は、売上に係る消費税から仕入に係る消費税を引いて計算した金額を納税します。

仕入に係る消費税が売上に係る消費税より大きい場合は、還付されます。

 

免税事業者の場合は、還付を受けることができませんが、課税事業者を選択することによって、還付を受けることができます。

 

課税事業者を選択する場合の手続きは、「消費税課税事業者選択届出書」を、適用しようとする課税期間の開始の日の前日(=前期末)までに、所轄する税務署長へ提出します。

なお、設立1期目の場合は、事業年度の終了までが提出期限となります。

 

一方で、免税事業者に戻りたい場合は、「消費税課税事業者選択不適用届出書」(以降、不適用届出書)を提出します。

 

一度、課税事業者を選択すると、不適用届出書を提出しない限り、課税売上高に関係なく、ずっと課税事業者となりますので、注意が必要です。

ただし、不適用届出書を提出するにあたり、いくつか注意点があります。

 

⑴2年継続適用

「消費税課税事業者選択届出書」を提出した課税期間の、翌課税期間の初日(設立1期目から課税事業者を選択する場合は、1期目の初日)から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ不適用届出を提出することができません。

つまり、2年間は課税事業者になります。

 

⑵調整対象固定資産の仕入等を行った場合

⑴の期間までに、調整対象固定資産の仕入等を行った場合には、その仕入れなどの属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出することができません。

つまり、調整対象固定資産を購入した課税期間から、3年間は課税事業者になります。

※期首資本金判定、特定新規設立法人の判定により、課税事業者となっている期間に調整対象固定資産を購入すると、同様に一定期間課税事業者が継続します。

 

調整固定資産とは、棚卸資産以外の資産で、建物、構築物、器具及び備品などの固定資産で、一つの取引単位の価額が100万円以上の固定資産を指します。

この一連の流れを図で整理してみます。

 

届出を提出するタイミングは、条文を読解すると難しく見えますので、このように図解しながら判定すると解りやすいと思います。

 

3 まとめ

 

法人や個人事業主が事業を行う際に発生する消費税は、私たちが日常生活で何気なく目にしている消費税とは考え方が異なります。

課税事業者となる条件を確認することは実務ではとても重要です。

1期目、2期目と創業まもない会社の場合には、基準期間がなくても課税事業者となる条件に該当しないか、今一度確認する必要がありますね。


【社内勉強会②】固定資産の基本的な考え方と償却資産について学ぼう

こんにちは。

スタッフの大滝です。

梅雨の時期となり、蒸し暑い日々の中にも、夏の強い日差しを感じる日も増えてきましたね。

社内での私の座席は、冷房直下のベストポジションなので季節を問わず快適なのですが、ふと目の前にあるエアコンを見て、「業務用エアコンは固定資産かな。耐用年数は…。」と思う時があります。

会計業務に携わる方にはお馴染みの「固定資産」という用語ですが、日常生活では中々耳にしない言葉ではないでしょうか。

早速ですが、第2回は固定資産の基本的な考え方と償却資産について整理してまいります。

 

1 固定資産とは

固定資産とは、一言でまとめると「事業活動において1年を超えて使用する目的で保有する資産」と説明できます。

資産とは、会社が保有する財産を指します。

これだけでは、わかりにくいのでまずは《資産》を分類した図をご覧ください。

1年以内に換金できる流動資産に対し、1年を超えて所有する資産を固定資産と言います。

また、固定資産はさらに有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産に分類されます。

 

2 固定資産の管理方法

会社にとって固定資産は財産であり、経営を行う上で固定資産を正しく管理し、把握する必要があります。

自社が所有する固定資産の実態(どのくらいあるか、どのような状況か)を管理するための帳簿を「固定資産台帳」と言います。

 

固定資産台帳には、資産の種類、耐用年数、資産名称、取得年月日、取得価額、償却方法等を記載します。

決算の時には、固定資産の棚卸を行い、廃棄している物がないか確認します。

こちらの台帳は、総勘定元帳や現金出納帳などの会計帳簿、貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)などの決算書類と同様に、税法上では7年、会社法では10年保存する必要がある、と定められています。

 

また最近では、パソコン等が低価格にあり、固定資産として管理されなくなってきました。

しかし、パソコンのスペック等を管理するために、パソコン管理台帳を作成している企業も増えてきています。

 

3 減価償却とその目的

固定資産の会計処理に必要不可欠なのが、「減価償却」という処理です。

 

減価とは、「購入時の値段から下がること」、

償却とは、「どのくらいでその価値がなくなるか」と言うことです。

 

事業で用いられる建物、器具備品、車両運搬具などの固定資産は、一般的には時の経過によってその価値が減っていくという考え方をします。

このような資産を、減価償却資産と言います。

一方で、土地や美術品等、時の経過により価値が減りにくい資産は減価償却資産とは言いません。

土地や美術品は、価値が上がる可能性がある為です。

 

では、価値の減少はどのように決めるのでしょうか。

例えば、会社ごとに「うちの車はまだ傷んでいないから10年で償却しよう!」、「最近パソコンの動きが悪くなってきたから2年で償却しようかな…」等と償却年数を勝手に決めることはできません。

 

そこで、価値が減少していく期間=法定耐用年数が償却資産ごとに定められています。

この考え方に基づいて、軽自動車を購入した例をご覧ください。

 

軽自動車を400万円で購入しました。購入にかかる金額のことを、「取得価額」と言います。

軽自動車の法定耐用年数は4年ですので、4年間で償却していきます。

今回は、定額法という償却方法の前提で考えます。

そうすると、400万円÷4年間で毎年100万円ずつを減価償却費で計上する処理になります。

 

通常、何か物品を購入した場合には、購入日に全額を費用計上しますが、

高額で1年を超えて所有する資産である固定資産も同じく取得した日に、全額を費用計上してしまうと、購入した年(1年目)に多額の費用が計上され、2年目以降は費用が計上できません。

 

それでは、会社の利益を正しく計算することが出来なくなり、適正な利益を把握することが難しくなります。

減価償却をする最も重要な目的は、適正に費用を配分し、毎年の正しい損益計算を行うことにあります。

 

4 定額法と定率法

先程の、400万円で購入した軽自動車の償却方法は、「定額法」を前提に計算しました。

減価償却の方法には、「定額法」「定率法」という計算方法があります。

 

定額法とは、文字通り、毎年同額を減価償却していく方法です。

一方、定率法とは、毎年残った金額(簿価)に同じ割合(定率)を乗じて減価償却していく方法です。

毎年同額を費用計上する定額法に対して、定率法では年々、減価償却費が減少していきます。

 

なお、どちらの方法でも費用となる総額は同じですが、法人の場合は、原則として、建物・建物付属設備・構築物・ソフトウェアの償却は定額法を用いることが決められていますが、一方で機械装置・車両運搬具・器具備品はどちらの償却方法を採用するか選択できます。

 

具体的な計算方法は、国税庁のホームページを参考にしてください。

参考:国税庁 タックスアンサー No.2106 定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2106.htm

 

5 償却資産税

 ここまで、固定資産と減価償却について整理してきました。ここでは、固定資産にかかる税金についても触れていきます。

 

土地や不動産を所有している方は、毎年、固定資産税を納付していると思いますが、不動産以外の固定資産で減価償却が必要なものには償却資産税がかかります。

償却資産税とは、減価償却の対象となる償却資産に対して課される固定資産税の一部です。

 

よって、具体的には、事業で使っているエアコン、冷蔵庫などの器具備品などが対象となります。

これらの償却資産を所有している場合、毎年1月1日時点の所有内容を、1月31日までに都税事務所に申告する必要があります。

 

償却資産税の税額は、所有資産の課税標準額に税率1.4%を掛けて算出しますが、課税標準額の合計が150万円未満の場合は、課税されません。

 

会計業界、そして経理業務に従事している方にとって、1月は繁忙期と言える時期ですね。

源泉所得税の納期特例、税務署への法定調書、各市区町村へ給与支払報告書等、各方面に提出する書類も多いですが、償却資産の申告も忘れずにタスクに入れておくことが重要ですね。

 

6 金額ごとの減価償却の特例

ここでは、購入した金額ごとに適用することができる減価償却の特例について、まとめたいと思います。

 

一般的には、取得価額が10万円以上のものが固定資産であるという認識が多いと思いますが、一括償却資産と言って、購入した金額を3年で均等に損金算入するものや、

中小企業者等を対象に、取得価額30万円未満の減価償却資産を、一定の要件のもとに、損金算入することができる特例があります。

 

取得額別に、法人税上の取り扱い、償却資産の申告有無を図解しました。

 

⑴少額減価償却資産

取得価額が10万円未満の少額減価償却資産は、耐用年数によらず事業供用日に全額経費で処理できます。その場合は、固定資産台帳への登録も不要です。

 

⑵一括償却資産

取得価額20万円未満の減価償却は、一律3年間で減価償却することができます。事業年度ごとに一括償却資産の合計額で固定資産台帳へ登録が必要です。

3年間の償却ですが、月割の概念はありません。

つまり、取得価額×事業年度の月数/36月の金額を損金に算入します。

「一括」とは全部まとめるという意味と考えられます。

 

⑶中小少額減価償却資産

中小企業の場合、取得価額10万円以上30万円未満の減価償却資産であれば、事業供用日に全額経費にできます。

ただし、事業年度ごとの取得価額の合計は300万円を限度としており、固定資産台帳への登録も必要となります。

 

この特例の対象となる法人は、青色申告法人である中小企業者等で、常時使用する従業員が1,000人以下の法人に限られています。

 

10万円以上の場合は、取得価額によって選択することが出来ます。

例えば、15万円のパソコンを購入した場合、⑵か⑶の処理を、選択することになります。

 

⑷通常の減価償却資産

上記のいずれでも処理をしなかった物については、通常の減価償却資産として、主に定額法か定率法で減価償却を行っていきます。

 

7 まとめ

 

今回は、固定資産の基本的な考え方と償却資産税、そして金額ごとの減価償却の特例について整理いたしました。

固定資産、減価償却、耐用年数…など、聞きなれない用語が多いと、難しいように思いますが、会社の利益を正しく把握するために必要不可欠な処理です。

 

取得時の処理に注目しがちですが、除却時にも会計処理が必要となります。

私は実務上、除却処理を失念していたことがあり、決算時に慌てて計上した経験があります。

 

そのようなミスをなくすためにも、固定資産台帳での管理も重要ですね。


解散、清算時の税務

こんにちは。

税理士の大塚です。

事業を廃止する場合や子会社を整理する目的で法人を消滅させたい為、解散、清算という手続きを踏むことがあります。

今回は会社を解散、清算した際の税務の取り扱いについて解説します。

法的な会社清算などもありますが、今回は、通常の解散、清算に限定します。

 

1 解散から清算までの流れ

 

(1)事業年度の考え方

 

法人を消滅させる場合、「解散」と「清算」という二段階を踏むことになります。

法人を解散した場合、期首から解散の日までの期間をみなし事業年度として、その時点で事業年度が区切れます。

ここで解散事業年度として、一度申告が必要となります。(図 みなし事業年度①)

その後、残った資産、債務を整理する期間があり、株主に分配すべき財産を確定させます。

この財産のことを残余財産と言います。残余財産が確定するまでに1年以上を要する場合は、

解散の日の翌日から1年毎に申告が必要となります。(図 みなし事業年度②)

残余財産が確定すると、残余財産の確定日までの期間がみなし事業年度となり、

これが最終事業年度となり、最後の申告が必要となります。(図 みなし事業年度③)

 

 

従って、解散・清算を行うと、解散事業年度、清算事業年度で最低2回は申告が必要となり、

残余財産が確定するまでに1年以上を要する場合は、申告回数もその分増加します。

申告期限は、原則事業年度終了の日の翌日から2か月以内であり、延長申請を出されている場合は延長も可能です。

但し、残余財産確定事業年度のみ、残余財産確定した日の翌日から1か月以内

(その期間に残余財産の最終分配が行われる場合は、行われる日の前日まで)となります。

 

(2)税金の計算方法

 

通常の損益計算(益金から損金を控除)により税金が計算されます。

会社清算にあたり、債務免除を受ける場合も想定されますが、債務免除益として収益認識される為、注意が必要です。

 

(3)残余財産の分配

 

株主に対して残余財産の分配があった場合、有価証券の譲渡損益のみならず、みなし配当が発生する場合があります。

みなし配当は、本来の配当ではないものの、配当を受けたとみなされる制度です。

清算時の資本金等の額を超える金額の分配があった場合には、

資本金等の額部分は有価証券の譲渡対価となりますが、その超える金額はみなし配当とされます。

個人株主の場合、みなし配当は総合課税となりますので、累進税率により税額が高額になる可能性があります。

 

 

また、清算される法人としては、みなし配当にかかる源泉所得税を徴収して納付する必要があります。

2 繰越欠損金の取り扱い

(1)概要

 

通常の事業年度と同じく繰越欠損金の利用は可能です。

資本金1億円超の会社や資本金5億円以上の完全子会社は繰越欠損金の利用につき

所得金額の50%までの使用制限が生じますが、それも同様です。

解散事業年度、清算事業年度につき特例で制限が生じないということはありません。

 

債務免除を受ける場合など、多額の利益が出る可能性もありますので、

特に欠損金の制限がある会社は納税も意識しないといけません。

 

(2)残余財産がないと見込まれる場合

 

清算事業年度については、残余財産がないと見込まれる場合は、期限切れ欠損金を利用することができます。

残余財産がないと見込まれるかどうかは、清算事業年度毎に判定を行う必要があります。

残余財産確定までに時間を要する場合は、複数回申告することが想定されますが、それぞれで判定を行います。

 

法人税基本通達12-3-8によると、債務超過であれば要件を満たすことになります。

但し、残余財産確定事業年度については債務超過の状態だと通常の清算はできませんので、

純資産が0円の状態であれば、残余財産はないこととなり、期限切れ欠損金を利用できると考えられます。

 

また、期限切れ欠損金を利用する場合は、残余財産がないと見込まれる書類を申告時に添付する必要があります。

実務上は、資産、負債を時価に修正した実態貸借対照表などを添付します。

時価については、事業年度終了時の処分価格によりますが、

事業譲渡を前提とした解散である場合で継続して他の法人で事業供用される見込みであるときは、

譲渡される場合に通常付される価額によります(法人税基本通達12-3-9)。

 

(3)期限切れ欠損金の計算方法

 

具体的な期限切れ欠損金の金額は①から②を控除した金額となります。

①適用年度終了の時における前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額

②青色欠損金額又は災害損失欠損金額

 

上記①は法人税法基本通達12-3-2において、別表5(1)の期首現在利益積立金額の合計額とされています。

期限切れ欠損金は俗称ですので、適用期限を経過した別表7(1)の繰越欠損金ということではなく、

別表5(1)を確認すれば損金可能限度額が分かります。

 

(4)欠損金の繰戻還付

 

通常は、中小企業者等以外は繰戻還付の適用は停止されていますが、

解散事業年度、清算事業年度に関しては、資本金の大きさに関わらず適用可能です。

 

3 繰越欠損金の引継

例えば100%子会社など完全支配関係のある会社が清算した場合、

親会社は子会社が使用し切れなかった繰越欠損金を引き継ぐことが可能です。

その代わり、親会社で子会社株式の清算損失を損金にすることはできません。

清算損失を損金にして繰越欠損金も引き継ぐと、二重で損失を取り込むことになりますので、制限を入れています。

また、繰越欠損金を全額引き継げるのは、支配関係が生じてから5年を経過している場合、

子会社設立から継続して支配関係がある場合などに限られます。

清算する子会社が過去5年以内に買収されたものである場合は、

買収した事業年度以降に生じた欠損金しか引継ぐことができないため注意が必要です。

 

4 その他の税金の取り扱い

(1)事業税

 

事業税は申告書を提出した日を含む事業年度の損金になります。

そうすると、残余財産確定事業年に生じる事業税は損金算入されるタイミングが失われてしまう為、

残余財産確定最終事業年度において事業税を損金算入させることができます。

 

また、外形標準対象法人については、解散の日における資本金が1億円を超える場合に適用されます。

この場合、解散後に減資をしたとしても、清算事業年度は外形標準の対象となります。

但し、清算事業年度中は資本割については課せられません。

加えて、残余財産確定した日を含む最終の清算事業年度は、付加価値割、資本割ともに課税されません。

 

(2)消費税

 

解散、清算中の事業年度であっても消費税の納税義務は通常通りです。

資産の整理による売却が多額になる場合などは、消費税の納税があることにも留意する必要があります。

 


《社内交流会①》第1回 寄附情報交換会を開催しました!

 

こんにちは。

スタッフの大滝です。

With コロナの時代において、リモートワークが当たり前になり、職員全員が顔を合わせて仕事をする機会が少なくなりました。

職員同士のコミュニケーションが希薄化してしまうのではないかという思いから、

この度、任意参加型の社内交流会を発案いたしました。

今回は、「第1回寄附情報交換会」の模様をお伝えしてまいります。

寄附情報交換会といたしましたが、なぜこのテーマを選んだかと申しますと、

 

①弊社独自の寄附手当制度の趣旨を理解したい。

②職員各自の寄附手当の使い道(寄附先)を知りたい。

③職員がどんなことに関心があるのか知りたい。

 

という3点の目的がございました。

 

寄附手当ってなんだろう?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

まずは、弊社の寄附手当制度について、簡単にご説明いたします。

 

~寄附手当とは~

アンパサンド独自の制度で、毎月1,000円~3,000円の手当が全職員に支給され、各自が好きな任意の団体へ寄附する制度です。

弊社では、公平で豊かな社会を構築するための社会への価値提供を最大のミッションとしており、

寄附という行為を通して全職員に社会への貢献を意識する。という代表の想いがあります。

また、公益団体への寄附税制の対象となるため、それにより全職員が自ら確定申告を経験する。という意図もあります。

 

 

1.寄附金税制について

まず初めに、寄附金税制について整理していきました。

個人が支出した寄附金は、確定申告を行うことで、所得税・住民税の還付を受けることができる場合があります。

一方、法人が支出した寄附金は寄附先の区分により、一定の限度額または全額が損金に算入できます。

整理した内容を表にまとめましたので、参考にしてください。

 

【所得税・法人税・住民税の寄附金税制の比較】

「どんな団体への寄付」かによって、税額控除の計算方法や金額が異なる仕組みになっています。

 

 

2.寄附手当の使途先と職員の関心ジャンル

 

続いて、参加した職員より、

 

⑴職員が行っている寄附

⑵今後寄附を考えている寄附先・関心のあるジャンル

 

を発表していただきました。

その中のいくつかをご紹介いたします。

 

⑴職員が行っている寄附先

 

地方団体への寄附(ふるさと納税)

特定NPO法人Learning for All … 子ども・教育関係

NPO法人KATARIBA … 子ども・教育関係

若者メンタルサポート …メンタル支援

一般社団法人たからばこ … 障害児支援

ダイアログ・イン・ザ・ダーク …視覚障がい体験イベント企画

一般社団法人震災復興支援協会つながり …災害救援活動

一般社団法人ペットの里 … 動物保護

NPO法人HERO … カンボジア支援

社会福祉法人墨田区社会福祉協議会

などなど

 

 

印象的でしたのが、参加者の半数以上が地方団体への寄附(ふるさと納税)を行っていたことです。

目的はそれぞれですが、「ふるさと納税を通して団体への寄附ができるから」、「自分または家族の出身地だから」、

また「返礼品が魅力的だから!」などが挙がりました。

 

ちなみに、私もふるさと納税を3年ほど行っておりますが、

直近では「アザラシの保護」に使っていただけることを知り、北海道紋別市へのふるさと納税を行いました。

 

⑵今後寄附を考えている寄付先・関心のあるジャンル

 

上記をうけて、弊社職員が関心のあるジャンルを集計して、図にいたしました。

 

 

実際に行っている寄附先と結びついていることがよくわかります。

普段から、「困っている人、場所、もの」に対して自分は何ができるか。という意識や、

自身の実体験から支援をしたいという考えを持つ職員が多いように思います。

 

3 寄附情報交換会を終えて

アンパサンドの寄附手当制度に惹かれ、ここで働きたい!と強く思い、

入社してから3か月が経ち、このような会を開催することができました。

寄附先の情報交換はもちろん、職員の関心事を知るきっかけとなり、

情報交換会+交流会の2つの要素を満たすとても有意義な時間となりました。

 

また、本会でも話題に挙がりましたが、日本では、寄附という文化があまり浸透していないように感じます。

寄附に興味があっても、「どこに寄附したらいいかわからない」、「手続きが大変なのではないか」、

「きちんとした目的で使ってもらえるのか」等、様々な不安により行動できない方もいらっしゃると思います。

私もその一人で、寄附情報交換会を発案しておきながら、寄附活動はまだ行えていませんが、

まずは自分の関心のあることを調べることから始めてみます。

寄附はあくまで手段であり、目的を持つこと、そして社会で何が起こっているかを理解することを、

自分の寄附活動への指標として掲げようと思います。

 

今回の交流会は、任意参加型で終始、和やかな雰囲気で楽しい交流ができました。

また、機会を見つけ、ぜひ開催したいと思います。