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超速報!令和5年度(2023年度)税制改正大綱を徹底解説!

こんにちは。

税理士の山田です。

 

今回は令和5年12月16日に公表された『令和5年度税制改正大綱』の中から特に気になった項目を抜粋して解説をします。公表されたばかりの情報ですので、スピードと解り易さを重視して解説しております。正確性を担保するものではございませんので、予めご了承ください。内容に誤り等がございましたら随時訂正して参ります。

 

また、税制改正大綱は税制改正の素案となるものであり、おおむねこの通りの改正がされることがほとんどですが、100%確実ではございません。読みやすさを重視するために文中ではまだ予定であることを態々記載していませんが、確定事項ではない点はご理解ください。

 

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(2023年1月12日追記)

上記の税制改正解説テキストが完成しました!テキストにも収録している令和5年度税制改正の全体イメージをこちらにも掲載します。

 

Ⅰ 所得税(源泉所得税含む)

1.NISAの抜本的拡充と恒久化

令和6年1月より現行の制度を大幅に見直して、下記のように制度が生まれ変わります。

【その他のポイント】

■ ジュニアNISAは2023年で終了

■ 限度額の計算は簿価ベースで計算、上限に達するまで出し入れは自由で何度でも利用可

■ 過去の投資枠とは別枠で利用が可能

 

【実務上のポイントと私見】

■ 何度でも出し入れができる点は利便性が非常に高い

■ 中長期で預金に持っているくらいであれば、インデックスに投資をするメリットが高い

■ 成長投資枠をつみたて投資枠のように利用することも可能

 

【適用開始時期】 令和6年1月より

 

 

2.スタートアップへの再投資にかかる非課税措置の創設など

M&Aなどで多額の売却益が出た際に、売却資金を元手に創業する場合やエンジェル投資家としてプレシード・シード期のスタートアップに再投資する場合に、再投資金額をした金額を株式の売却益から控除することが出来る制度を創設されました。

投資額のうち20億円までについては完全に非課税となり、20億円を超えた投資についても投資株式の取得価額から控除をすることで課税の繰り延べが行われます。

また、エンジェル税制や創業5年未満の会社がストックオプションを発行する場合のストックオプション税制についても一定の要件の緩和が行われます。

 

【対象となる投資先の主な要件】

■ 設立以後1年未満

■ 販管費/出資金額が30%を超えること

■ 株式の99%以上を特定の株主グループが所有していないこと

■ 大企業の子会社等でないこと

 

【計算例】

5億円で購入した株式を30億円で売却、売却資金を元手に税制優遇が受けられるスタートアップに22億円を投資

「所得税の計算(復興特別所得税は除いて計算)

(売却額30億円 - 取得価額5億円 - 控除22億円) × 所得税率(15%) ⇒ 4500万円が課税

「スタートアップ株式の取得価額」

取得価額22億円 - (22億円 - 20億円) ⇒ 取得価額20億円

 

【実務上のポイントと私見】

■ 下記の「高所得者層に対する課税の強化」との兼ね合いが重要になると思われる

■ 「高所得者層に対する課税の強化」への課税回避のためにこの制度の利用が有効だと思われる

 

 

3.高所得者層に対する課税の強化

極めて所得が高い個人についての所得税の課税が強化されます。具体的には、下記の計算式で計算した金額が所得税額を上回る場合には、差額が上乗せされて課税されます。

【計算式】 (合計所得金額 - 特別控除3.3億円) × 22.5%

 

【計算例】

5億円で購入した株式を30億円で売却

「所得税の計算(復興特別所得税は除いて計算)

① (売却額30億円 - 取得価額5億円) × 所得税率(15%) = 3.75億円

② (合計所得金額25億円 - 特別控除3.3億円) × 22.5% = 4億8825万円

③ ②>① になるので、 ②の4億8825万円が課税

 

【実務上のポイントと私見】

■ 上記「スタートアップへの再投資にかかる非課税措置」を活用すれば、この制度の適用を回避することが可能だと思われる

■ 合計所得金額の計算からは源泉分離課税の所得は除かれるので、特定口座の株式の申告の有無で税額が変わることもあり得る (2022.12.18 11:43訂正) 合計所得金額の計算では『申告不要制度を適用しないで計算した金額』とあるので、特定口座の申告の有無によって税額が変わることは無いと思われる(ただし、源泉分離課税の所得は含めずに計算する)

 

【適用開始時期】 令和7年以降

 

 

4.個人事業者の各種届出等の手続きの簡素化

個人事業主の各種届出等の手続きが簡素化されます。

 

【ポイント】

■ 事業の開業・廃業時の届出書の様式が統一され、複数の届出書を一括で作成出来るようにする

■ 各種届出書の提出期限を「確定申告期限まで」とすることで、確定申告書へのチェックや追記などで届出書の提出が行えるようになる予定

 

【対象となる思われる届出書】

■ 個人事業の開業・廃業届出書

■ 青色申告承認申請書

■ 青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書

■ 青色申告の取りやめ届出書

■ 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

■ 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書

 

【適用開始時期】 令和8年~令和9年

 

 

5.その他

【源泉徴収票の提出方法等の見直し】

源泉徴収票の提出先が市区町村に一本化されます。つまり、法定調書の作成にあたって給与情報の記載が不要になると思われます。

 

【年末調整関係書類の記載事項の簡略化】

扶養控除等申告書や保険料控除等申告書の記載事項が簡略化されます。

 

 

 

Ⅱ 資産課税

1.資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築

相続時精算課税制度の使い勝手を向上し、次世代への資産移転をしやすくする狙いがあるようです。一方で暦年贈与については、相続対策としての利用が恒常化しており、バランスを取る形で生前贈与加算の期間が延長されます。

 

相続時精算課税制度について毎年110万円の基礎控除を創設

相続時精算課税制度により行われた贈与について、課税価格から毎年110万円の基礎控除が出来るようになります。また、相続税の計算において加算される金額も贈与財産の価額から過去の基礎控除額を控除した後の金額となります。

 

相続時精算課税制度による贈与財産が災害により被害を受けた場合の再計算】

精算課税制度による贈与後に、贈与財産である土地や建物が災害によって一定の被害を受けた場合には、相続税の計算において加算される金額は贈与財産の価額から災害を受けた金額を控除した金額とします。

 

【生前贈与加算制度の見直し(加算期間の延長)】

暦年贈与により生前に贈与を受けていた財産について、相続時に加算される贈与期間が相続前3年間から相続前7年間に延長されます。ただし、延長した4年間の贈与について総額100万円までは相続財産に加算しない措置が取られます。延長の期間は令和9年以降の相続から随時延長がされ、令和13年に7年間に達します。

 

【実務上のポイントと私見】

■ 暦年贈与による生前贈与加算制度では相続時に加算される際には基礎控除額が控除されない一方で、精算課税贈与では基礎控除額が控除されることになったため、相続前7年間の贈与は暦年贈与より精算課税贈与の方が有利になる

■ 基礎控除額を利用して相続税対策を行う場合には、精算課税贈与の選択が以前よりもしやすくなった。

■ 相続前7年間はいずれの制度を利用した贈与財産であっても相続財産への加算が必要となるため、相続時の預金調査が以前よりも重要になってくる

■ 災害をうけた場合の判定についての考え方はどうなるか?(雑損控除の考え方を引用するか?)

 

【適用開始時期】 令和6年1月以降

 

 

2.教育資金や結婚資金等の一括贈与に係る非課税措置の見直しと延長

【教育資金の一括贈与に係る非課税措置】

適用期限を3年間延長し、契約終了時に残高が残っていた場合にかかってくる贈与税の税率は本則の税率で計算をすることになりました。また、契約期間中に贈与者が死亡した場合で、贈与者の相続税の課税価格が5億円を超える場合には、受贈者の年齢に変わらず残高を相続財産に加算することになりました。

 

【結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税措置の見直し】

適用期限を2年間延長し、契約終了時に残高が残っていた場合にかかってくる贈与税の税率は本則の税率で計算をすることになりました。

 

 

Ⅲ 法人課税

1.オープンイノベーション促進税制の拡充

対象となる特定株式に発行法人からの株式発行以外に既存株主からの購入で一定の要件を満たすものを追加した一方で、取得価額の上限を100億円から50億円に引き下げます。また、購入から5年以内に一定の成長要件を満たせば減税効果が継続することになります。

 

【オープンイノベーション促進税制とは?】

オープンイノベーションを目的としてスタートアップ企業の株式を取得する場合に、取得価額の25%を課税所得から控除できる制度です。現行制度の詳細は経済産業省のHPを参照して下さい。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/open_innovation/open_innovation_zei.html

 

 

2.研究開発税制の見直しと延長

研究開発税制は次の見直しを行います。

 

【見直しのポイント】

■ 税額控除率を調整し、試験研究費の増加による控除率のカーブを見直された。

■ ビッグデータを活用した「サービス開発」のための試験研究費の範囲として、従来は新たにビッグデータを収集する場合のみが対象であったが、既存のビッグデータの活用も対象として認められた。

■ 従来はデザインに基づく「設計・試作」であって性能向上を目的としていなくても試験研究費の対象とされていたが、性能向上を目的としないことが明らかな「設計・試作」は対象から除外された。

 

3.中小企業投資促進税制等の見直しと延長

中小企業のための優遇税制である中小企業投資促進税制(7%税額控除・30%特別償却)と中小企業経営強化税制(10%税額控除・100%即時償却)の対象財産から一定のコインランドリー設備とマイニング設備が除外されることになりました。

 

【中小企業投資促進税制】

中小企業投資促進税制の対象設備からはコインランドリー業(主たる事業でない場合)の機械装置でその管理の大部分を外部に委託しているものを除外することになりました。

 

【中小企業経営強化税制】

中小企業経営強化税制の対象設備からはコインランドリー業か暗号通貨マイニング業(主たる事業でない場合)の機械装置でその管理の大部分を外部に委託しているものを除外することになりました。

中小企業経営強化税制の適用には一定の手続きが必要になるため詳細は中小企業庁のHPを確認してください。

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/

 

【実務上のポイントと私見】

■ コインランドリー設備やマイニング設備は設備投資を全額即時償却が出来ることで課税の繰り延べ策として利用される側面があったため、それを回避する改正

■ ここ数年、国としては課税の繰延策をブロックする意向が明らかにあるため、ギリギリを攻めているような繰延策については、強攻策に出てくる可能性もあると考える

 

【適用開始時期】 令和5年4月1日以降

 

 

4.株式交付税制の見直し(同族会社を対象から除外)

株式交付税制の対象となる株式交付親会社が同族会社(非同族の会社が株主のケースを除く)に該当する場合には税制の適用を受けられなくなります。

 

【実務上のポイントと私見】

■ 株式交付税制はどこの子会社でもない会社(50%支配を受けていない)が対象

■ 上場前などに一定の状態で資産管理会社を作る際にも株式交付制度の利用が出来てしまっていたために、それをブロックするための改正

 

【適用開始時期】 令和5年10月1日以後に行われるもの

 

 

5.暗号資産の評価方法等の見直し

暗号資産の発行会社が自社発行の暗号資産を発行時から継続して保有する場合等については、その暗号資産は時価評価から除外されることになりました。

 

【実務上のポイントと私見】

■ 多額の納税によって暗号通貨発行法人の資金が枯渇してしまい、事業継続が困難であったための措置

 

 

6.その他

【特定の資産の買換えの圧縮記帳の見直しと延長】

既成市街地等内から既成市街地等外への買換えが対象から除外されるなど、一定の見直しがされたうえで制度が3年間延長されました。

 

【DX投資促進税制の見直しと延長】

DX認定基準を改定し、人材促進・確保等に関連する事項を要件化するなど、一定の見直しがされたうえで制度が2年間延長されました。

 

 

 

Ⅳ 消費税(インボイス制度)

1.小規模事業者に対する納税額に係る負担軽減措置

一定の小規模事業者であるインボイス発行事業者は、消費税の納付税額を売上に係る消費税額の2割の金額とすることが出来ることとなります。

 

【適用対象事業者】

下記のいずれかに該当するインボイス発行事業者

■ 免税事業者が適格請求書発行事業者になった場合

■ 課税事業者選択届出書を提出したことにより課税事業者になっている場合

⇒ つまり、基準期間の課税売上高が1000万円以下であるインボイス発行事業者が対象

 

【その他のポイント】

■ 令和5年10月1日より前から課税事業者を選択している場合には、令和5年10月1日の属する課税期間では適用出来ない

■ 課税事業者選択届出書を提出したことで、令和5年10月1日の属する課税期間から課税事業者となる場合には、その課税期間中に選択不適用届出書を提出すれば、課税事業者選択届出書は効力を失う

■ 消費税の申告書に適用を受ける旨を付記するだけで適用が可能

■ 当該特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間中に簡易課税の選択届出書を提出すれば、提出をした課税期間から簡易課税の適用が可能(インボイス制度の適用初年度の課税期間については現行制度でも届出を提出をした課税期間から簡易課税の適用が可能なため、翌期についてもOKとなった)

 

【実務上のポイントと私見】

■ 原則課税と簡易課税と当該特例の3通りの計算が可能なため、より詳細なシミュレーションが必要となる

■ 当該特例は申告書への記載のみで適用が受けられるので、実際の消費税額の計算後に有利な選択が出来る

■ 逆に選択を誤ると税理士には賠償責任が発生する可能性が考えられる

■ 当該特例の更正の請求の可否は現時点では不明

 

【適用課税期間】 令和5年10月1日~令和8年9月30日までの日の属する課税期間

 

 

2.中小事業者等に対する事務負担の軽減措置

一定の中小事業者は、対価が1万円未満の課税仕入については、インボイスの保存が無くても帳簿の保存のみで仕入税額控除の適用を認めることになります。

 

【適用対象事業者】

下記のいずれかに該当する事業者

■ 基準期間における課税売上高が1億円以下である

■ 特定期間における課税売上高が5000万円以下である

 

【実務上のポイントと私見】

■ 逆に売上が1億円を超える事業者は少額なものについても全てインボイス番号の確認と書類の保存が必要になる

■ クレジットカードで決済した経費などについても全てインボイス番号の確認や書類の保存が必要になるために書類の管理やオペレーションが非常に煩雑になることが想定される

 

【適用時期】 令和5年10月1日~令和11年9月30日までの間に行う課税仕入

 

 

3.少額な返還インボイスの交付義務の見直し

税込価格が1万円未満の売上返還については、返還インボイスの交付義務が免除ことになります。

 

【実務上のポイントと私見】

■ 売上が入金される際に振込手数料などを控除して振り込まれる場合などが対象

 

【適用開始時期】 令和5年10月1日以後に行う課税資産の譲渡等に係る対価返還が対象

 

 

4.登録申請手続の柔軟化

インボイス制度に係る届出書の提出期限について柔軟化がされました。

 

【免税事業者が登録申請をする場合】

免税事業者が課税期間の初日からインボイス発行事業者として登録を受けようとする場合の提出期限について、現行の課税期間の初日から起算して1月前であったのものが15日前までに緩和されます。

 

【登録の取消しを求める場合】

インボイス発行事業者が登録の取消を求める場合の届出書の提出期限について、取消を受けようとする課税期間の初日から起算して30日前の日の前日であったのものが15日前までに緩和されます。

 

【経過措置により10月1日より後で登録を受けようとする場合】

10月1日より後の日付でインボイス発行事業者の登録を受けようとする場合の登録申請書について、登録を受けようとする日から起算して15日前までに提出していれば、希望日に登録が受けられることになります。

 

【令和5年10月1日からインボイス発行事業者の登録申請を受ける場合の申請期限】

本来の申請期限は令和5年3月31日であるものが、困難な事情がある場合に、令和5年9月 30 日までの間にその困難な事情を記載して提出し、税務署長により適格請求書発行事業者の登録を受けたときは、令和5年10月1日に登録を受けたこととみなされる措置が設けられていました。この措置について、困難な事情の記載が撤廃され、実質的に令和5年9月30日が期限になったことになります。

 

 

 

Ⅴ 国際課税

1.グローバルミニマム課税の創設

多国籍企業グループの総収入金額が7億5000万ユーロ相当以上である場合に、最低税率15%に至るまでの課税がされる仕組みが創設されます。

 

2.タックスヘイブン税制(CFC税制)の見直し

タックスヘイブン税制について下記の見直しがされます。

■ 合算課税から免除される特定外国関係会社の租税負担割合の判定が、現行の30%以上から27%以上に引き下げられます。

■ 申告書に添付する外国関係会社に関する書類で株主関係を記載する書類について、その書類に代えて株主関係図に記載事項を埋めたもので代用が出来ることになる

 

 

 

Ⅵ 電子帳簿保存制度

1.電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度の見直し

電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度について要件の緩和が行われました。

 

【検索要件を不要とする措置】

下記のいずれかの場合において、税務調査等の際にデータのダウンロードに応じることが出来る場合には、検索要件を不要とされます。

■ 判定期間における売上高が5000万円以下である場合

■ 出力書面が整然かつ明瞭な状態で、取引年月日や取引先ごとに整理がされている場合

 

【出力書面での保存について猶予措置について】

令和4年1月~令和5年12月までの期間については、税務署長がやむを得ない事情があると認め、税務調査等の際に整然かつ明瞭な状態で出力された書面の提示が可能であれば、書面での保存が認められていました。従前にプラスして、電子保管対応が出来ないことに相当の理由があり、データのダウンロードの求めにも応じることが出来るようにしておけば、電子帳簿保存の要件が充足されることになります。

つまり、実質的にはほぼ紙保管が認められることになると考えます。

 

 

2.その他

優良電子帳簿の範囲の見直し

優良電子帳簿の範囲が以前は全ての帳簿であったが、「その他必要な帳簿」について一定の補助帳簿に限るものとなりました。具体的には、売上帳、仕入帳、経費帳、売掛帳、買掛帳、手形記入帳、貸付帳、借入帳、未決済項目に係る帳簿、有価証券受け払い簿、固定資産台帳、繰延資産台帳などです。

 

【スキャナ保存制度の見直し】

国税関係書類について、下記の要件緩和がされることになりました。

■ 解像度や大きさなどの情報について保存要件が廃止

■ 入力者等情報の確認要件が廃止

■ 相互関連性の保持要件が契約書や領収書等の重要書類に限定

 

 

 

Ⅶその他の納税環境整備

1.高額な無申告に対する無申告加算税の割合の引上げ

納付すべき税額が300万円を超える場合には、超える部分の無申告加算税の割合を30%に引き上げることになりました。(現行では、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%)

また、更正の予知がない場合の期限後申告等については、300万円を超える部分の無申告加算税の割合を25%に引き上げることになりました。(現行では、50万円までは10%、50万円を超える部分は15%)

 

2.一定期間繰り返し行われる無申告行為に対する無申告加算税等の加重措置の整備

3回連続で期限後申告が行われる場合には、無申告加算税を10%加重する措置が取られることになります。

 

 

Ⅷ 次年度以降に持ち越しがされたもの

1.外形標準課税のあり方

資本金を1億円以下に減資すると外形標準課税の課税から逃れることが出来るため、以前と比べて課税対象となる法人数が3分の2まで減っているようです。外形標準課税の対象から外れている実質的な大規模法人については、制度の見直しを今後に検討する方針です。

 

2.マンションの相続税評価について

マンションについては、市場での売買価格と通達による相続税評価額に大きく乖離が見られるケースがあり、適正化について今後に検討をする方針です。

 

3.防衛力強化に係る財源確保のための税制措置

日本国の防衛力強化を目的として、安定的な財源を確保するために、令和6年以降に適切な時期で下記の内容で措置が講じられる予定です。

■ 法人税 法人税額に対して税率4~4.5%の付加税を課す

■ 所得税 所得税額に対して税率1%の付加税を課す

■ 復興特別所得税 課税期間を延長したうえで、税率を1%引き下げる

■ たばこ税 3円/1本相当の引き上げを行う


超速報!令和4年度(2022年度)税制改正大綱を徹底解説!

こんにちは。

税理士の山田です。

 

今回は令和3年12月10日に公表された『令和4年度(2022年度)税制改正大綱』の中から特に気になった項目を抜粋して解説をします。公表されたばかりの情報ですので、スピードと解り易さを重視して解説しております。正確性を担保するものではございませんので、予めご了承ください。内容に誤り等がございましたら随時訂正して参ります。

また、税制改正大綱は税制改正の素案となるものであり、おおむねこの通りの改正がされることがほとんどですが、100%確実ではございません。読みやすさを重視するために文中ではまだ予定であることを態々記載していませんが、確定事項ではない点はご理解ください。

 

なお、一部で話題になっていた『相続税と贈与税の一体化』については、今回の改正では織り込まれていません。引き続き検討を進めるようですが、早くても再来年以降の税制改正項目ということになりますので、改正のタイミングとしても早くても令和5年4月以降になります。

 

※令和4年度(2022年度)税制改正大綱についてはこちらをご覧ください。

https://www.jimin.jp/news/policy/202382.html

 

Ⅰ個人所得税課税(地方税含む)・源泉所得税

  1. 住宅ローン控除の改正

従前では令和3年において住宅ローンを組んで自宅を購入した場合に、借入限度額を5000万円(住宅の取得等が特定取得以外の場合は3000万円)として、住宅借入金の年末残高に対して1%の税額控除を10年間適用出来る取扱いとなっていましたが、令和4年以降も延長はするもの主に増税傾向となります。具体的には下記の表の取扱いとなります。

種類

居住年

借入限度額

控除率

控除期間

認定住宅等以外の居住用家屋の新築等

令和4年~5年

3000万円

0.7%

13年

令和6年~7年

2000万円

10年

認定住宅等以外の中古家屋の取得等

令和4年~7年

認定住宅(認定長期優良住宅と認定低炭素住宅)の新築等

令和4年~5年

5000万円

13年

令和6年~7年

4500万円

ZEH水準省エネ住宅の新築等

令和4年~5年

4500万円

令和6年~7年

3500万円

省エネ水準適合住宅の新築等

令和4年~5年

4000万円

令和6年~7年

3000万円

認定住宅等の中古家屋の取得等

令和4年~7年

3000万円

10年

※ 本税制の適用対象者はその年の合計所得金額が3000万円以下であることが要件となっていましたが、令和4年以降は2000万円以下が要件に引き下げられます。

※ 中古住宅の取得については、従来設けられていた築件数要件が撤廃される一方で、新耐震基準に適合する住宅であることが要件となります。

 

控除率が下がるのは住宅ローンの金利が大幅に下がりいわゆる逆ザヤ状態になってしまっていたためにそれを解消する措置となります。つまり、住宅ローンの変動金利が0.5%を下回ることも珍しくなくなってしまうほどの低金利であり、支払う住宅ローンの金利よりも本税制の控除額の方が多くなってしまうという現象が生じてしまっていたためとなります。

従前の新型コロナ税特法においては一定の条件で借入限度額を5000万円、控除率1%、控除期間は13年間とする取扱いが令和4年まで可能ですが、その点は特に変更がないと思われます。(大綱に詳細はなし)

 

  1. 子会社等からの配当に係る源泉所得税を廃止

以下の会社からの配当については、所得税の源泉徴収を行わないこととします。適用時期としては、令和5年10月1日以降に支払いをすべき配当について適用されます。

・ 完全子法人株式等(100%保有の子会社)

・ 基準日に置いて直接保有する株式等の保有割合が3分の1超である子会社

 

  1. 配当が総合課税とされる大口株主の範囲を拡充

上場株式等の配当等については源泉分離課税が適用されるところですが、大口株主が受け取る配当についてはこの制度が適用されずに、非上場株式からの配当と同様の取扱いとして、20.42%の源泉徴収がされたうえで総合課税により確定申告が必要とされています。

従来はこの大口株主の範囲として、直接にその会社の発行済株式の3%以上が保有する方が対象となっていましたが、その方が支配関係を持つ同族会社がその会社の株式を持っている場合に、3%の判定に含めることになる予定です。この改正は、令和5年10月1日以後に支払うべき配当等について適用がされます。

なお、私見ですが3%の判定おいては分母である発行済株式総数に自己株式を含めて判定することになっており、この点についても本来は改正がされるべき点であると思われますが、今回の大綱には含まれていません。将来的に改正となる可能性は高い部分ではないかと考えます。

 

  1. 納税地の変更に関する届出書

納税地が変更した場合には、税務署長に届出書を提出するルールとなっておりましたが、令和5年以降については届出書の提出が不要となります。(個人消費税についても同様)

 

  1. 上場株式等の配当所得割に係る課税方式の改正

個人住民税において、特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得の課税方式を所得税と一致させることとなりました。恐らくですが、これは所得税と住民税について別々の課税方法を選択することで、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除額が所得税と住民税で不一致になってしまうことを防ぐ措置であると思われます。

 

Ⅱ資産課税

  1. 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税措置

適用期限(現行は令和3年12月31日)を令和5年12月31日までに延長し、限度額については下記の通りとなります。

・ 通常の住宅 500万円

・ 耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋 1000万円

 

  1. 非上場株式等に係る納税猶予の特例制度

特例承継計画の提出期限が現行は2023年3月末までとなっていますが、1年延長してい2024年3月末までとなります。

 

  1. 添付書面等記載事項の提供方法の見直し

相続税の申告書の添付書類の提供方法に、光ディスク及び磁気ディスクが追加されました。相続税の申告書の添付書類は膨大な量となりますが、電子申告の添付データについては容量が限られているために取られた措置であると推察します。

 

  1. 財産債務調書制度等の見直し

まずは提出義務者が拡大され、現行の提出義務者にプラスでその年の12月31日において有する財産の価額の合計額が10億円以上である居住者が追加されました。

一方で提出期限については、現行は翌年の3月15日までとされていたものが翌年の6月30日に延長がされました。こちらの改正は国外財産調書についても同様の改正となります。

 

Ⅲ法人課税(地方税含む)

  1. 人材確保等促進税制の改正(いわゆる大企業向け)

従来の人材確保等促進税制を改正し、下記の変更が行われます。対象となる給与額の計算については、令和3年3月31日以前の開始事業年度に対する取扱いに戻る形になると思われます。(この1年間は一体なんだったのか・・・)

改正項目

現行

改正

適用期間

令和3年4月1日から令和5年3月31日までに開始する事業年度 令和4年4月1日から令和6年3月31日までに開始する事業年度

適用要件

新規雇用者給与等支給額(※)が、前年度より2%以上増えていること

※    国内新規雇用者のうち雇用保険の一般被保険者に対してその雇用した日から1年以内に支給する給与等の支給額

継続雇用者給与等支給額(※)が、前年度より3%以上増えていること

※    当期及び前期の全期間の各月分の給与等の支給がある雇用者で一定のもの(おそらく雇用保険の一般被保険者)に対して支給する給与等の支給額

控除額計算

控除対象新規雇用者給与等支給額(※)の15%

※    国内新規雇用者に対してその雇用した日から1年以内に支給する給与等の支給額

控除対象雇用者給与等支給増加額(※)の15%

※    明記されていないが、おそらく役員と役員親族以外の全従業員に対する給与等の支給額についての前年からの増加額

上乗せ措置

①教育訓練費の額が、前年度より20%以上増えている場合には、税額控除率を5%加算

 

①継続雇用者給与等支給額の増加割合が4%以上である場合には、税額控除率を10%加算

②教育訓練費の額が、前年度より20%以上増えている場合には、税額控除率を5%加算(変わらず)

教育訓練費の明細書

確定申告書の添付 会社保管

※ 資本金の額が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1000人以上である場合には、一定の事項を経済産業大臣に届出が必要

※ 人材確保等促進税制について

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/syotokukakudaisokushin/syotokukakudai.html

 

  1. 所得拡大促進税制の改正(中小企業者限定)

従来の所得拡大促進税制を改正し、下記の変更が行われます。

改正項目 現行 改正
適用期間 令和3年4月1日から令和5年3月31日までに開始する事業年度 令和4年4月1日から令和6年3月31日までに開始する事業年度
上乗せ措置 雇用者給与等支給額の増加割合が2.5%以上であり、次のいずれかに該当する場合は税額控除率を10%加算

①教育訓練費の額が、前年度より10%以上増えている場合

②経営力向上計画の認定を受けて、かつ証明がされた場合

①雇用者給与等支給額の増加割合が2.5%以上である場合には、税額控除率を15%加算

②教育訓練費の額が、前年度より10%以上増えている場合には、税額控除率を10%加算

※ 所得拡大促進税制について

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudai.html

 

  1. 大企業向けの税額控除制限措置の改正

大企業向けの研究開発税制等の特定税額控除規定の適用を受けることができないこととする措置について要件が改正されます。資本金の額が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1000人以上である場合で、かつ、前年度の課税所得金額がプラスであるときについては、継続雇用者給与等支給額の前年からの増加割合が1%以上(令和4年4月1日から令和5年3月31日までに開始する事業年度は0.5%以上)でなければ、特定税額控除規定の適用を受けることが出来ません。

 

  1. みなし配当の計算について

資本の払い戻しに係るみなし配当の額の計算について、払戻等対応資本金額等はその払い戻しにより減少した資本剰余金の額を限度とすることになりました。(従前は取扱い無)

また、種類株式を発行する法人の資本の払い戻しに係るみなし配当の額の計算について、種類資本金額を基礎と計算することになりました。(従前は取扱い無)

 

  1. 少額資産の損金算入制度について貸付用資産を除外

下記の規定について貸付の用に供する資産を対象から除外します。ただし、主要な事業として行われるものを除きます。

・ 少額の減価償却資産の取得価額の損金算入制度(10万円未満の少額資産)

・ 一括償却資産の損金算入制度(20万円未満の一括償却資産)

・ 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例(30万円未満の少額資産)

 

  1. グループ通算制度の投資簿価修正の改正

グループ通算制度ではグループ離脱時の、通算子法人株式の譲渡原価の計算を税務上の簿価純資産を元に計算するような仕組みとなっていましたが、これでは子法人買収時の買収プレミア相当額を税務上の損金として算入出来なくなってしまうことが問題視されていましたが、改正が行われました。

改正としては、グループ離脱時における各法人の確定申告において一定の計算明細を添付することで、子法人株式の帳簿価額に資産調整勘定等対応金額を加算するような調整計算が行われます。資産調整勘定等対応金額とはグループ通算開始時に時価取得をしたその子法人株式の取得価額のうち、仮にその時点で合併をしたものとした場合における資産調整勘定又は負債調整勘定相当額とされています。

個人的な意見として、負債調整勘定相当額が調整計算に含まれているのは、買収時の負ののれん相当額が離脱時に損金に算入されることを防ぐ措置であると思われますが、そもそもの取扱いが明細書の添付を要件としている規定となっており、不利な取扱いの場合には明細書の添付をあえてしないことで課税を免れることが出来るのか否か、という点が気になる点となります。

また、グループ離脱時の時価評価資産の取扱いで、帳簿価額が1000万円未満である資産については時価評価資産から除外されていますが、営業権については帳簿価額が1000万円未満であっても除外されないことになりました。

 

  1. ソフトバンクグループ対策税制の改正

ソフトバンクグループ対策税制とは、50%超の支配関係がある子会社からの配当を適用対象として、その株式等の簿価の10%を超える配当が行われた場合に、株式の簿価の切り下げを行う措置となります。ただ、適用除外要件として下記のような配当については対象から除外されます。複雑な制度となりますが、詳細は割愛しております。

① 設立以来90%以上国内資本のみの内国法人からの配当

② 買収後に発生した利益剰余金からの配当

③ 10年超支配継続している会社からの配当

④ 2000万円以下の配当

また、適用回避防止規定として、子法人が一定の孫法人(適用除外要件の①か③を満たす法人以外である法人)から1事業年度中に受ける配当等の額が、孫法人株式等の帳簿価額の10%を超え、かつ、2000万円を超える場合には、適用除外要件を満たさない措置が従来から取られています。

このソフトバンクグループ対策税制として、下記の2点の改正が行われます。こちらは令和2年4月1日以後の開始する事業年度から遡って適用するようです。

① 一点目として、上記適用除外要件の②について、従来は特定支配日の直前事業年度から配当決議等の直前事業年度までの利益剰余金額の増加額が配当金額を超えている場合には適用除外とされる措置が取られていました。ただし、このルールでは『配当決議等の直前事業年度から配当決議等までの間に増減した利益剰余金額』を原資として配当した場合には、適用除外要件を満たすことが出来ないことから、一定の書類保存を要件として上記の金額を計算に反映させることが可能となります。ただし、その場合には『特定支配日の直前事業年度から特定支配日までの間に増減した利益剰余金額』についても調整が必要となります。

② 二点目として、適用回避防止規定については孫法人が以下の要件を満たす場合には適用しないこととします。つまり、子法人は適用除外要件を満たせば本税制の適用を回避出来ます。

・ 配当等の基準時以前10年以内に子法人との間に特定支配関係があった孫法人の全てが、孫法人の設立時からその基準時まで継続してその子法人の特定支配関係にあった場合

・ 親法人と孫法人の間に、その孫法人の設立時から孫法人から子法人への配当等の基準時まで継続して親法人による特定支配関係がある場合で、かつ、その基準時以前10年以内に孫法人との間に特定支配関係があったひ孫法人の全てが、ひ孫法人の設立時からその基準時まで継続してその孫法人の特定支配関係にあった場合

 

  1. 大法人に対する事業税所得割の税率の見直し

外形標準課税適用法人については、令和4年4月1日以後の開始事業年度から軽減税率適用法人に該当しないことになり、所得割の標準税率は一律で1%となりました。

 

Ⅵその他

  1. 隠蔽仮装行為があって確定申告書が提出された場合等の措置

隠蔽仮装行為があって確定申告書が提出された場合や確定申告書の提出が無い場合には、帳簿書類や明らかな証拠書類等が無い限りは、その明らかなエビデンスが準備出来ない経費については損金の額に算入しないような措置が取られるようです。これは証拠書類が無い場合に調査で水掛け論になることを防ぐために取られた措置であると思われます。

 

  1. 修正申告書や更正の請求書の記載事項の整備

修正申告書や更正の請求書の記載事項より、申告前又は更正前の「課税標準等」「納付すべき税額の計算上控除する金額」「還付金の額の計算の基礎となる税額」を除外することになりました。これにより様式が簡略化されると思われます。

 

  1. 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存の宥恕措置

電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度について、令和4年1月~令和5年12月までの期間については、税務署長が保存できないことにつきやむを得ない事情があると認め、保存義務者が税務調査を受けた際に印刷した書面の提出が出来る状況にある場合には、保存要件を満たすこととなります。この趣旨としては、保存要件への対応が困難な事業者の実情に配慮し、税務署長への手続きを要せずに出力書面等による保存を可能とするためのものである旨が大綱に明記されています。

ここからは私見となりますが、上記の『税務署長が保存できないことにつきやむを得ない事情があると認め』という部分については全ての法人について(又は中小企業限定か)、一律でやむを得ない事情があると認めるものと考えます。つまり、法律が施行された後に国税庁よりその旨の案内がされるのではないかと推察します。そうでなければ、上記の大綱の趣旨にそぐわないと考えます。

 

  1. 消費税の適格請求書等保存方式に係る見直し

免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に適格請求書発行事業者の登録を受ける場合には、その登録日から発行事業者になれるような措置が取られます。また、この適用を受けて登録日から課税事業者となる適格請求書発行事業者については、2年間は課税事業者が強制される措置が取られるようです。

※ 本制度の概要については当社の別記事をご確認下さい。

適格請求書保存方式(インボイス制度)の概要

 

  1. 税理士制度の見直し

税理士事務所に該当するかどうかの判定について、設備又は使用人の有無等の物理的な事実により行わないことにするようです。リモートワーク等の柔軟な対応が出来るようにすることへの配慮であると思われます。

また、税理士試験の会計科目(簿記論と財務諸表論)の受験資格について、不要となります。つまり、高校生や大学低学年であっても会計学の試験は柔軟に受検が出来るようになると思われます。これは令和5年の試験から適用がされるようです。個人的には業界の発展のために非常に嬉しい改正です。


必見!合併時の税務申告

こんにちは!公認会計士の岸です。

 

現状のコロナ禍において、業績悪化に悩まれている中小企業様は多いかと思われます。

その中で、事業の継続が困難になり、会社や事業を他社に売却するM&Aの動きが徐々に活発になってくるものと思われます。

 

M&Aを実行する際には、様々な税務論点の検討が必要となり、特にメインの論点となる

組織再編の適格判定や欠損金の引継ぎに関しては多くの書籍や文献が存在します。

 

一方で、実際の申告書をどう書くか、といった部分を解説している媒体はそこまで多くないように見受けられたため、

私自身の備忘も兼ねて、組織再編時の申告書作成の実務的な留意点をご紹介いたします。

 

組織再編には様々な形態がありますが、ここでは、ある会社が他社を吸収合併した場合を想定します。

※ 2022.6.2追記 一部内容に誤りがあることが解り、訂正させて頂きました。大変失礼しました。

※ 2022.6.2追記 一部の様式が変更されていますが、古い様式での記載例となっています。

 

1.想定条件

以下の条件を想定して、申告書の記載例などを紹介していきます。

簡単な吸収合併のケースを想定します。

 

2.法人税申告(被合併法人)

被合併法人の最終事業年度の申告といっても、基本的には通常の期の申告と同様に税務処理を行えば問題ありません。

ただし、申告書の記載上、いくつかの留意点があります。

 

■国税申告書(別表一)

主な記載欄ごとの情報は以下の通りです。

記載例は以下の通りです。

 

提出先等

被合併法人の情報ではなく、合併法人の情報を記載する点に注意しましょう。

被合併法人の最終事業年度の税金の申告、納付時には、被合併法人は合併により消滅してしまっていることから、

合併法人が申告、納付を行うためです。

なお、法人名の欄では、合併法人名の後ろに、被合併法人名を併せて記載します。

 

旧納税地及び旧法人名等

被合併法人の納税地及び法人名を記載します。

 

添付書類

以下の書類にチェックを付けます。

通常の申告ではチェックが付かない場所かと思いますので、チェック漏れに注意しましょう。

また、チェックするだけではなく、書類の申告書への添付も忘れないようにしましょう。

 

◆“組織再編成に係る契約書の等の写し“

:合併の場合には合併契約書の写しです。

◆“組織再編成に係る移転資産等の明細書”

:(2)で説明する付表のことです。

 

利用者識別番号(e-Tax)

電子申告を行う法人限定の注意点ですが、利用者識別番号も合併法人の番号を使用しますので注意してください。

 

■組織再編成に係る主な事項の明細書(付表)

組織再編を行った際にはこの付表の添付が求められます。

当該付表は2020年12月時点において、電子申告に対応していないため、電子申告の達人などで

電子申告を行う際には、申告書の添付資料として、別ファイルで送付する必要があります。

 

記載例は以下の通りです。(当該附表は2020年12月時点のものです)

 

組織再編成の態様

該当する組織再編の形態をチェックします。

また、組織再編成の日には、合併契約書に記載されている組織再編の効力発生日を記載します。

 

適格区分

法人税法上の適格組織再編に該当するかどうかをチェックします。

適格組織再編に該当する場合には、根拠条文を併せて記載します。

適格要件の条文は複雑なので、参照条文を誤らないよう注意しましょう。

 

●組織再編成に係る関連法人

合併法人及び被合併法人の情報を記載します。

(名称及び所在地)

 

●株式保有関係等

適格組織再編の判定の基礎となる、株式の保有関係や割合、事業関連性などを記載します。

該当する適格要件の形態によって、記載の必要な箇所が異なってきます。

記載例は、最も要件が多い、共同で事業を行うための合併による適格合併を想定しています。

 

■地方税申告書

地方税の申告書の各欄に記載する情報は以下の通りとなります。

記載例は以下の通りです。

提出先等

提出先や法人番号、所在地については、被合併法人の情報を記載します。

それ以外の法人名などの欄は、合併法人の情報を記載します。

 

利用者ID(eLTAX)

利用者IDは、東京都については被合併法人のIDを使うように回答がありましたが、

自治体によって運用が異なる可能性があります。

そのため、申告書の提出前に、各自治体へ合併法人と被合併法人のどちらの利用者IDを使用すべきか、

電話で確認するようにしましょう。

 

3.消費税申告(被合併法人)

法人税と同様のため、省略します。

提出先や納税地は全て合併法人のものを記載します。

 

4.税務届出関係

吸収合併の際に提出する税務届出で基本的なものは以下の通りです。

 

この他にも、被合併法人が課税事業者選択届出書を提出している場合で、

合併法人が課税事業者の選択の特例を適用したい場合には、合併法人として改めて届出書を提出する必要があるなど、

個々の事例によって求められる届出が変わります。

また、特に会社分割の場合には、下記の国税庁のHPにもあるように、提出を検討する届出書が多岐に渡るため、

慎重な検討が必要になります。

届出の提出漏れが生じないように注意しましょう。

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/kigyosaihen/mokuji.htm

 

5.合併における税務論点

以上では、申告書の記載について重点的に解説しましたが、合併における税務論点についても簡単に解説していきます。

 

合併にあたっては、そもそもその合併が適格合併に該当するのかどうか、

また適格合併に該当しても繰越欠損金が引き継げるのかどうか、といった点が最も重要な税務論点になるかと思います。

適格組織再編の判定や、繰越欠損金の取扱いについては非常に論点が多く、

それだけで本が1冊書けるような難解な税制になりますので、改めて記事にしたいと思います。

 

下記では、その他の合併における税務論点について俯瞰していきます。

 

◆適格合併の取扱い:

合併が税法上の適格合併に該当する場合には、被合併法人の資産負債は全て税務上の“簿価”で

合併法人に引き継ぐことになります。

そのため、いわゆる別表五(一)上の税務調整項目も、全て合併法人に引き継ぐことになります。

純資産部分についても、税務上の利益積立金額と資本金等の額をそのまま引き継ぐことになりますが、

親子間の合併などの場合には、抱き合わせ株式の調整が必要となりますので、注意が必要です。

他にも、法人税法では様々な規定に影響があり、過去の数値を使用して限度額計算や判定計算が

行われるような規定では、原則として被合併法人の数値と合併法人の数値の合計額で判定を行うことになります。

 

◆非適格合併の取扱い:

合併が税法上の非適格合併にが該当する場合には、被合併法人の資産負債は全て“時価”で

合併法人に譲渡されたものとして取り扱います。

被合併法人では時価譲渡により譲渡損益を認識する必要がありますし、

合併法人側ではいわゆるのれん相当額を 資産(負債)調整勘定という形で、

税務上の資産(負債)として認識します。

 

◆被合併法人のみなし事業年度:

合併を行った場合には、被合併法人は合併により消滅するため、合併が期中に行われた場合には

被合併法人の事業年度が1年を経過しない途中で途切れることになります。

この、途中で途切れた被合併法人の最終事業年度を、みなし事業年度といいます。

合併の効力発生日の前日が、被合併法人のみなし事業年度の末日となります。

 

◆事業年度が1年未満の場合の各種取扱い:

減価償却資産の償却率については、事業年度が1年存在することを前提として設定されています。

そのため、みなし事業年度が1年未満となる場合には、みなし事業年度の月数で償却率を調整することが必要となります。

また、交際費の定額控除限度額、法人税の税率判定、地方税の均等割、なども年額をベースとしているため、

月数による調整を行う必要があります。

 

◆納税義務判定と簡易課税判定(消費税):

合併により被合併法人を吸収した合併法人については、被合併法人の基準期間に相当する期間の課税売上高を考慮して、

納税義務判定を行う規定が設けられています。

課税事業者の判定漏れがないように注意しましょう。

一方で、簡易課税制度の適用判定における基準期間における課税売上高は、合併があったとしても

合併法人の課税売上高のみを使用して判定します。

納税義務判定の計算と混同しないように注意が必要です。

 

◆調整対象固定資産(消費税):

被合併法人が調整対象固定資産を取得しており、その調整対象固定資産を合併により合併法人が引き継いでいる場合には、

調整対象固定資産の調整計算に係る通算課税売上割合の判定を、合併法人で引き続き行う必要があります。

 

6.さいごに

今回は、吸収合併の場合を想定し、主に申告書の記載方法についてメインに解説いたしました。

M&Aは検討すべき論点が非常に多岐にわたり、税務業務の中でも高度な知識が求められる分野です。

事前に組織再編業務に精通した税理士に、組織再編実行時だけではなく、

事前のスキーム策定まで含めて相談することが非常に重要です。

 

弊社でもM&Aのスキーム提案などを数多く行っており、M&Aのマッチングサイトのアドバイザーとしての登録も行っています。

M&Aに興味がある方は、弊社でも様々なアドバイスや提案が可能ですので、お気軽にご相談いただければと思います。


電子取引における証憑の保存について

こんにちは。

税理士の大塚です。

 

最近は請求書や領収書などの書類を、メールやシステムでやり取りするケースも増えてきました。特にコロナの影響からテレワークを推進されている企業も多く、極力紙ベースではなくデータでのやり取りへのシフトすることを検討されている方もいらっしゃると思います。今回は電子取引による書類の保存方法について解説します。

 

1 電子取引とは

電子取引とは、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいいます。取引情報は、契約書、請求書、領収書等の書類に通常記載される事項であり、これらの情報を電子上でやり取りする取引になります。

具体的には、以下のようなものが該当します。

 

(1)電子メールによる請求書、領収書のPDFファイル等の受領
(2)インターネットのホームページから請求書、領収書のデータをダウンロードすることでの受領
(3)電子請求書や電子領収書の授受に係るクラウドサービスを利用
(4)クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードの支払データ等を活用したクラウドサービスの利用
(5)特定の取引に係るEDIシステムを利用

 

2 電子取引による書類の保存は税務署の承認が不要

電子データでの書類の授受がされた場合、大きく以下の二つに分けられます。

 

(1)電子データでも行うが、紙も発行されるケース
(2)電子データで完結するケース

 

(1)については、例えばメールで請求書を送った後に、原本を紙で郵送するようなケースです。紙が出る以上は、その紙を保存する義務が出てしまいます。紙ではなく電子データで保存をしたい場合は、3か月前までに税務署へ承認申請が必要です。相手から受領する請求書や領収書を電子データとして保存する場合は、スキャナ保存といって、タイムスタンプを付与する必要があります。

(2)については、①紙に出力したものを保存、②電子データのまま保存、のいずれかを選択することになります。ここが重要なポイントですが、②電子データのまま保存を選択した場合でも、税務署への承認申請は不要です。

 

簡潔にまとめると以下の通りです。

 

但し、電子取引につき無条件で電子データのまま保存することを認めているわけではなく、一定の要件を満たす必要があります。逆に言えば、一定の要件を満たすのが難しい場合は、①紙に出力したものを保存することが求められます。

 

3 電子データのまま保存する要件

電子取引を行った際に、電子データのまま保存を行う要件は以下の通りです。これら全ての要件を満たす必要があります。

 

(1)システムの概要を記した書類の備付

自社開発プログラムを利用する場合に限ります。

(2)見読可能装置の備付

ディスプレイ、プリンターなどの備付が必要です。

(3)検索機能の備付

取引年月日、取引金額など主要な項目につき検索ができることに加えて、例えば1月から3月の間といった範囲を指定しての条件設定が可能であること、任意の二以上の項目を組み合わせて条件設定が可能であること、が必要となります。

(4)その他以下のいずれかの要件を満たす

①タイムスタンプが付与されたデータを授受

②授受後遅滞なくタイムスタンプを付与

③訂正、削除ができない(行った場合確認ができる)システムを利用しての授受、保存

④「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規定」の策定、運用、備付

 

電子データのまま保存と一口に言っても、例えばメールで送られてきたPDFの請求書をサーバーに保存しておけば良いというわけではなく、これらの4要件を満たしていくことが必要です。従って、現実的には外部システムを導入して保存していく以外は難しいかと思います。

(1)から(3)までの要件は保存のためのシステム面の規定です。外部システムを導入される場合は、(1)の要件は不要ですので、(2)(3)を満たす必要があります。特に(3)の検索機能の備付については、ある項目を単純に検索できるだけでなく、範囲指定や任意の二以上の項目指定も必要など細かい要件が求められます。

 

それに対して、実際の電子データの授受につきどのような措置が必要かというのが(4)の部分です。従来は②、④しか認められていませんでしたが、改正により2020年10月1日以降は①、③が加わることになりました。この改正により、例えば業者からの請求書にタイムスタンプがあらかじめ付与されていれば、①の要件を満たすことになります。

 

また、訂正や削除ができないクラウドサービスのシステムを通じて請求書等を授受する場合は③の要件を満たします。このようなサービスは今後増加していくことが予想されますが、保存要件に合致するかは、事前にシステム会社に確認することをお勧めします。

タイムスタンプや、訂正・削除に制限を持たせたシステムを利用することが難しい場合でも、④の事務処理の規定があれば電子データのまま保存することが可能です。国税庁が公表している「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」の問19に具体的な規定の例文がありますので、参考にしてみて下さい。

※国税庁 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07denshi/02.htm#a019

国税庁が公表している規定は、自社の規定により訂正、削除を防止する規定になっておりますが、取引相手と契約によって防止する方法も認められています。この場合は、事前に訂正、削除の防止に関する条項を含む契約を締結する必要があります。


解散、清算時の税務

こんにちは。

税理士の大塚です。

事業を廃止する場合や子会社を整理する目的で法人を消滅させたい為、解散、清算という手続きを踏むことがあります。

今回は会社を解散、清算した際の税務の取り扱いについて解説します。

法的な会社清算などもありますが、今回は、通常の解散、清算に限定します。

 

1 解散から清算までの流れ

 

(1)事業年度の考え方

 

法人を消滅させる場合、「解散」と「清算」という二段階を踏むことになります。

法人を解散した場合、期首から解散の日までの期間をみなし事業年度として、その時点で事業年度が区切れます。

ここで解散事業年度として、一度申告が必要となります。(図 みなし事業年度①)

その後、残った資産、債務を整理する期間があり、株主に分配すべき財産を確定させます。

この財産のことを残余財産と言います。残余財産が確定するまでに1年以上を要する場合は、

解散の日の翌日から1年毎に申告が必要となります。(図 みなし事業年度②)

残余財産が確定すると、残余財産の確定日までの期間がみなし事業年度となり、

これが最終事業年度となり、最後の申告が必要となります。(図 みなし事業年度③)

 

 

従って、解散・清算を行うと、解散事業年度、清算事業年度で最低2回は申告が必要となり、

残余財産が確定するまでに1年以上を要する場合は、申告回数もその分増加します。

申告期限は、原則事業年度終了の日の翌日から2か月以内であり、延長申請を出されている場合は延長も可能です。

但し、残余財産確定事業年度のみ、残余財産確定した日の翌日から1か月以内

(その期間に残余財産の最終分配が行われる場合は、行われる日の前日まで)となります。

 

(2)税金の計算方法

 

通常の損益計算(益金から損金を控除)により税金が計算されます。

会社清算にあたり、債務免除を受ける場合も想定されますが、債務免除益として収益認識される為、注意が必要です。

 

(3)残余財産の分配

 

株主に対して残余財産の分配があった場合、有価証券の譲渡損益のみならず、みなし配当が発生する場合があります。

みなし配当は、本来の配当ではないものの、配当を受けたとみなされる制度です。

清算時の資本金等の額を超える金額の分配があった場合には、

資本金等の額部分は有価証券の譲渡対価となりますが、その超える金額はみなし配当とされます。

個人株主の場合、みなし配当は総合課税となりますので、累進税率により税額が高額になる可能性があります。

 

 

また、清算される法人としては、みなし配当にかかる源泉所得税を徴収して納付する必要があります。

2 繰越欠損金の取り扱い

(1)概要

 

通常の事業年度と同じく繰越欠損金の利用は可能です。

資本金1億円超の会社や資本金5億円以上の完全子会社は繰越欠損金の利用につき

所得金額の50%までの使用制限が生じますが、それも同様です。

解散事業年度、清算事業年度につき特例で制限が生じないということはありません。

 

債務免除を受ける場合など、多額の利益が出る可能性もありますので、

特に欠損金の制限がある会社は納税も意識しないといけません。

 

(2)残余財産がないと見込まれる場合

 

清算事業年度については、残余財産がないと見込まれる場合は、期限切れ欠損金を利用することができます。

残余財産がないと見込まれるかどうかは、清算事業年度毎に判定を行う必要があります。

残余財産確定までに時間を要する場合は、複数回申告することが想定されますが、それぞれで判定を行います。

 

法人税基本通達12-3-8によると、債務超過であれば要件を満たすことになります。

但し、残余財産確定事業年度については債務超過の状態だと通常の清算はできませんので、

純資産が0円の状態であれば、残余財産はないこととなり、期限切れ欠損金を利用できると考えられます。

 

また、期限切れ欠損金を利用する場合は、残余財産がないと見込まれる書類を申告時に添付する必要があります。

実務上は、資産、負債を時価に修正した実態貸借対照表などを添付します。

時価については、事業年度終了時の処分価格によりますが、

事業譲渡を前提とした解散である場合で継続して他の法人で事業供用される見込みであるときは、

譲渡される場合に通常付される価額によります(法人税基本通達12-3-9)。

 

(3)期限切れ欠損金の計算方法

 

具体的な期限切れ欠損金の金額は①から②を控除した金額となります。

①適用年度終了の時における前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額

②青色欠損金額又は災害損失欠損金額

 

上記①は法人税法基本通達12-3-2において、別表5(1)の期首現在利益積立金額の合計額とされています。

期限切れ欠損金は俗称ですので、適用期限を経過した別表7(1)の繰越欠損金ということではなく、

別表5(1)を確認すれば損金可能限度額が分かります。

 

(4)欠損金の繰戻還付

 

通常は、中小企業者等以外は繰戻還付の適用は停止されていますが、

解散事業年度、清算事業年度に関しては、資本金の大きさに関わらず適用可能です。

 

3 繰越欠損金の引継

例えば100%子会社など完全支配関係のある会社が清算した場合、

親会社は子会社が使用し切れなかった繰越欠損金を引き継ぐことが可能です。

その代わり、親会社で子会社株式の清算損失を損金にすることはできません。

清算損失を損金にして繰越欠損金も引き継ぐと、二重で損失を取り込むことになりますので、制限を入れています。

また、繰越欠損金を全額引き継げるのは、支配関係が生じてから5年を経過している場合、

子会社設立から継続して支配関係がある場合などに限られます。

清算する子会社が過去5年以内に買収されたものである場合は、

買収した事業年度以降に生じた欠損金しか引継ぐことができないため注意が必要です。

 

4 その他の税金の取り扱い

(1)事業税

 

事業税は申告書を提出した日を含む事業年度の損金になります。

そうすると、残余財産確定事業年に生じる事業税は損金算入されるタイミングが失われてしまう為、

残余財産確定最終事業年度において事業税を損金算入させることができます。

 

また、外形標準対象法人については、解散の日における資本金が1億円を超える場合に適用されます。

この場合、解散後に減資をしたとしても、清算事業年度は外形標準の対象となります。

但し、清算事業年度中は資本割については課せられません。

加えて、残余財産確定した日を含む最終の清算事業年度は、付加価値割、資本割ともに課税されません。

 

(2)消費税

 

解散、清算中の事業年度であっても消費税の納税義務は通常通りです。

資産の整理による売却が多額になる場合などは、消費税の納税があることにも留意する必要があります。

 


災害により損害を受けたときの所得税の軽減措置とは!?【雑損控除~ポイント編~】

こんにちは。

税理士の山田です。

 

いよいよ2019年度の確定申告の時期となりました。

昨年は台風15号と19号で被害を受けられた方が多くいらっしゃるかと思います。

そのような方のために、以前に雑損控除の制度概要についてまとめました。

まず、そもそも雑損控除とはどのような制度なのか、下記の記事をご覧になって概要を抑えて下さい。

 

災害により損害を受けたときの所得税の軽減措置とは!?【雑損控除~制度概要~】

 

今回はもう一歩踏み込んで、雑損控除の適用にあたり、不利益な処理をしてしまわないように特に重要なポイントを整理します。

雑損控除は非常に複雑な制度でして、グレーな範囲も多い制度ですので、税務署の方に任せるだけではなく、ご自身で是非ポイントは抑えておいてください。

 

ポイント① 雑損控除の申告はいつまで出来るか?

まずは、そもそも雑損控除の申告はいつまで行うことが出来るのでしょうか?

実は、還付申告や更正の請求という手続きを行うことで、5年前まで遡って手続きを行うことが出来ます。

具体的には、申告期限から5年間は手続きが出来ます。つまり、2014年度以降の更正の請求であれば、2020年の3月15日(還付申告の場合には、2020年1月1日)までの間に手続きをすることで、雑損控除の適用を受けることが出来ます。

 

なお、一度も確定申告を行っていない年度の申告をする場合には、期限後申告という手続きになり、一度確定申告を行った年度について雑損控除の適用をする場合には、更正の請求という手続きになります。

過去の雑損控除が出来たのに、手続きをしていなかったという方がいらっしゃればまだチャンスがあるかもしれないので、是非確認してみてください。

ただし、雑損控除の繰越控除については連続して確定申告をすることが要件となっており、一度でも申告をしてしまっていると、適用が受けられない可能性があります。

 

ポイント② 損失額の計算方法を抑える~特に家財に注意!~

雑損控除の損失額の計算は大まかにいうと『資産の時価 × 被害割合』で計算します。まずはこの資産の時価の考え方を抑えましょう。

時価の計算方法は、『住宅』『家財』『車両』でそれぞれ異なるとともに、『取得価額が明らかな場合』『取得価額が明らかでない場合』で異なります。

特に家財の計算方法は取得価額が明らかであるか、そうでないか、によって大きく異なります。また、家財の取得価額が明らかでない場合には、下記の表に当てはめて計算をすることになります。

上記に当てはめてみると解りますが、40歳以上の夫婦であれば、家財の時価が1000万円を超えてきます。これだけの家財を持っていらっしゃるご家庭をそうそうないのではないでしょうか?しかも、この金額は減価償却をした後の金額となります。

また、実際にご自宅の家財をいつ頃にいくらで購入したか、という情報を残していらっしゃる方はほとんどいないのではないでしょうか?

家財の情報は解らなければ上記の有利な計算をすることが出来ます。その点を踏まえて是非計算をしてみてくださいませ。

 

ポイント③ 被害割合の考え方を抑える~割合の合算とは?~

まず、国税庁が公表している被害割合の表を見てポイントを抑えましょう。表は下記の通りです。

被害割合の判定とり災証明書

上記の被害割合の判定にあたっては、『り災証明書』を参考にして行うことになっていますが、これはあくまで参考にするだけで、り災証明書の被害区分とは必ずしも一致しないことになります。

これは国税庁が公表している下記の資料にも明記してあります。

東日本大震災により損害を受けた場合の所得税の取扱い

第2 雑損控除(共通)

23 「り災証明書」の必要性

問 雑損控除による還付申告書を提出するに当たって、「り災証明書」のような被害を証明する書類の提出は必要ですか。

「り災証明書」は、大震災により家屋に被害を受けた場合、その被害を受けた方が市区町村に被害の状況を申告した後、その市区町村がその状況を確認した上で発行されるものです。
この証明書には、例えば、り災害原因や、全壊や半壊などの家屋についての被害状況等が表示されていることから、損失額の合理的な計算方法の被害割合を判定する際の目安になるものです。
したがって、税務署では、申告書等を提出する際に「り災証明書」(コピーでも可)を添付していただくか、又は提示していただくよう、お願いしているところです。
しかし、津波による被害を受け、その方の住所地などから地域全域の建物等が全壊するなどその被害の規模や状況が明らかな場合にはご提示いただかなくても差し支えありません。
また、個々の事情により証明書を添付又は提示ができない場合には、被害の実情を十分お聞きした上で被害状況を判断することとしています。
(注) り災証明書に記載される被害の程度(証明内容)と損失額の合理的な計算方法における「被害区分」は一致するものではないことに留意が必要です。
例えば、液状化被害の認定は、一般的に家屋の傾斜や基礎等の地盤面下への潜り込みの状況を基に行われますが、家屋に係る損失額の合理的な計算方法は、その家屋の主要構造部に損壊がある場合に利用できます。また、この計算における被害区分の判定においても、その被害の状況を十分お聴きして判断することになります。

損壊で言うと、『一部損壊』で被害割合5%、『半壊』で被害割合50%と大きく異なります。り災証明書の区分が一部損壊となっていても、上記表の半壊摘要欄の状況に合致しているようであれば、写真などの根拠資料を集めて、税務署に相談してみましょう。

 

被害割合の合算

これもあまり知られていないことですが、上記表の損壊と浸水の被害割合はいずれか片方を当てはめるのではなく、両方該当する場合には、両方の被害割合を合算することが出来ます。

こちらについても国税庁が公表している下記の資料に明記してあります。

東日本大震災により損害を受けた場合の所得税の取扱い

第3 雑損控除における損失額の合理的な計算方法

21 被害割合の考え方(損壊+浸水の場合)

問 住宅の一部が津波により損壊した上、浸水(床上 30 ㎝・二階建住宅)しました。この場合、被害割合はどのように計算しますか。
(答)
被害の種類ごとに被害割合を加算していくため、一部損壊した上、海水による浸水(床上 30 ㎝・二階建住宅)した場合は、

一部破損(5%) + 床上 50 ㎝未満・二階建住宅(35%) = 40%

となり、40%がその住宅の被害割合となります。
(注) 24 時間以上の長期浸水の場合は、その割合にさらに 15%を加算した割合となります。

上記のように被害割合の考え方は非常に複雑です。税務署でもわかっていない可能性が考えられますが、国税庁が公表している情報であれば、税務署でもその通りに処理しなければいけないはずです。

上記で引用している国税庁の資料は下記のリンクより見ることが出来ますので、是非参考にしてみてください。

東日本大震災により損害を受けた場合の所得税の取扱い

ポイント④ 雑損控除の適用は自分の家でなくても大丈夫!

これが一番最後のポイントです。

ご自身が被害を受けていないから関係ないと思っていらっしゃる方がいたら気を付けてください。

雑損控除は自分でなくても、同一生計の親族が被害に遭われていれば、適用をすることが出来ます。

では、同一生計の親族とは、①総所得金額等が38万円以下(令和元年のケース)である、②生計を一にする親族、を指します。特に②の生計を一にする、とは下記のことを言います。

日常の生活の資を共にすることをいいます。
会社員、公務員などが勤務の都合により家族と別居している又は親族が修学、療養などのために別居している場合でも、1生活費、学資金又は療養費などを常に送金しているときや、2日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には他の親族のもとで起居を共にしているときは、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki2017/a/03/order3/yogo/3-3_y03.htm

つまり、両親に対して仕送りをしているケースは同一生計親族に当てはまる可能性があります。

ということは、仕送りをしているご両親が今回の台風の被害に遭われていて、なおかつ年金生活をされているケースですと、同一生計親族にあたる可能性が非常に高くなります。

その場合には、税務署または顧問の税理士の方に相談して見てください。

 

最後に

今回は雑損控除の適用に当たって特に重要と思われるポイントを重点的に説明しました。

雑損控除の申告は、専門家である税理士でも滅多に行うことはありません。

実際に私も雑損控除の申告をしたことは一度もありません。

今回の災害で被害に遭われた方々に少しでも支援になればと思い、制度のポイントを整理してみました。

この内容が少しでも多くの方の目に触れて、制度を有効に活用できる方が増えることを祈っております。


消費税の納税義務判定で注意!特定新規設立法人とは?

こんにちは。

税理士の大塚です。

 

消費税の納税義務の有無については、基本は基準期間(前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以上あったかで判定を行います。

従って、基準期間が存在することのない設立してから2年間は、消費税の納税義務は生じないところです。

ただし、資本金、特定期間、組織再編、特定新規設立法人など、設立から2年以内の法人であっても、消費税納税義務となりうる規定が幾つか設けられています。

 

中でも複雑なのが特定新規設立法人による判定です。

平成26年4月1日以降設立の法人が対象となる比較的新しい税制ですが、特定新規設立法人に該当しているのを失念してしまっているケースや、反対に特定新規設立法人に該当していると思っていたら該当していなかったというケースも見聞きします。

 

今回は特定新規設立法人につき、ポイントを整理していきます。

 

1 2つの要件

 

特定新規設立法人に該当するかどうかは、以下の2つの要件を満たす場合に限られます。

(1)特定要件に該当するか

特定要件とは、その新規設立法人が他の者により株式総数の50%超支配されている場合を言います。

 

(2)基準期間相当の課税売上高が5億円を超えているか

特定要件の判定となった「他の者」と他の者の「特殊関係法人」のいずれかの、基準期間相当の課税売上高が5億円を超えている場合に該当します。

 

2 特定要件

特定要件のポイントは以下の通りです。

(1)個人株主は親族も含めて考える

個人甲40%、甲の配偶者である乙20%保有しているようなケースも、甲とその親族で50%超保有していますので該当します。

親族の範囲は広くとられており、法的な親族でなくても、事実婚の方や金銭の支援を受けて生計を立てられている方も含みます。

●特定要件に該当するケース

 

(2)100%支配している法人も含めて考える

他の者により100%支配している法人は、他の者と同一グループとして考えます。個人甲が100%出資のA社を所有している場合、個人甲の保有割合だけでなく、A社の保有割合も含んで判定を行います。

また、親族グループで100%支配している法人も、これらの親族と同一グループとして判定の対象になります。

100%支配であって、50%超でないところがポイントです。

● 特定要件に該当するケース

 

 

(3)議決権判定もある

組織再編や役員の選任等の重要事項の議決権で考えた際に、これらの議決権を50%超保有している場合も特定要件になります。

保有割合を50%以下にして、種類株式などで議決権だけは特定の親族で50%超保有しているようなケースは対象となります。

 

(4)誰を「他の者」とするのか

50%超支配を考える際の「他の者」が誰なのかは次のステップで重要な意味を持ちます。

「他の者」は株主の頂点にいる人のみが該当するわけではありません。

例えば、A社の100%子会社にB社があり、B社が新規設立法人に対して50%超出資していたとします。

新規設立法人が特定要件に該当するかを考えた場合、A社を「他の者」とすると、A社とA社の100%支配しているB社を含めて判定を行うため、特定要件に該当します。

一方で、B社を「他の者」として考えた場合は、B社単独で50%支配していますので、C社は特定要件に該当します。

この場合では、A社もB社も「他の者」になる状況となります。

 

 

(5)判定の対象時期

期首時点での判定となります。

 

3 基準期間相当の課税売上高が5憶円を超えるか

特定要件に該当した場合は、こちらのステップへと進みます。

特定要件の判定の基礎となった「他の者」と他の者の「特殊関係法人」につき、基準期間相当の課税売上高が5億円を超えるかの判定を行います。

「他の者」が複数いる場合は、全て確認していく必要があります。

 

(1)他の者は、株主もしくは議決権所有者に制限される

ここは特徴的なポイントです。特定要件の際に「他の者」に該当したもの全てが対象となるわけではなく、5億円超判定に用いる「他の者」は直接株式を保有している者、もしくは議決権判定により特定要件に該当した場合は直接議決権を有している者に限定されます。

A社の100%子会社にB社があり、B社が新規設立法人に対して50%超出資したケースでは、A社、B社ともに特定要件の際の「他の者」に該当しますが、A社は新規設立法人の株式を直接保有していませんので、5億円超判定には入らないことになります。

 

 

(2)特殊関係法人とは何か

特殊関係法人とは、「他の者」又は「他の者」とその親族(それらの者に100%支配されている法人含む)により100%支配されている法人を言います。

特殊関係法人自体が判定対象となる法人の株式を所有しているかは問われません。

A社の100%子会社にB社があったとして、新しくA社100%出資で法人を設立したとします。B社と新設法人は兄弟会社になります。

新設法人はA社を「他の者」として特定要件に該当しますが、5億円超判定は、A社が完全支配しているB社は特殊関係法人となり、A社、B社双方により判定を行います。

 

「他の者」により100%支配されているという定義の、「他の者」ですが、これは(1)同様、直接株式、議決権を保有している者に限定されます。

下図のような場合、A社が別のC社を100%支配していても、特殊関係法人にはならずに、C社は5億円超判定には入りません。

 

4 非特殊関係法人とは

特殊関係法人にならない法人というのも定義されています。

 

特殊関係法人で説明したように兄弟会社でも5億円超の判定対象になり得ます。「他の者」が個人株主である場合、親族も含めることになりますが、例えば、兄が100%出資で設立したA社があったとして、弟が50%超の出資で新設法人を設立した場合、A社を判定に入れなくてはならないのかという疑問が生じます。

兄弟別々に人生を歩んでいれば、会社を所有していたことすら知らなかったというケースもあるでしょう。

そこで非特殊関係法人として、別生計の親族が完全支配している法人は特殊関係法人には該当しないというルールがあります。

従って、兄と弟が別生計であれば特定新規設立法人の適用はありません。

 

別生計親族が100%支配している場合が対象外になりますので、弟が数%でも法人Aに出資していれば、法人Aは特殊関係法人に該当するので注意が必要です。

 

また、逆に兄が新設法人に数%でも出資をすれば、兄は「他の者」に該当しますので、法人Aは「他の者」の100%支配法人となり、特殊関係法人に該当し判定対象となります。

 

5 基準期間相当の判定は3段階に分かれている

基準期間相当の判定は、「他の者」「特殊関係法人」の前々事業年度相当だけを確認すれば良いわけではありません。

基準期間相当は、以下の3段階に分けられています。前々事業年度相当のみで判断してしまわないように留意する必要があります。

 

(1)新規設立法人の開始日の2年前の日の前日から1年経過までに終了する各事業年度

(2)新規設立法人の開始日の1年前の日の前日から当該開始日の前日までに終了する各事業年度

(3)新規設立法人の開始日の1年前の日の前日から当該新設開始日の前日までに、判定者の事業年度で6か月経過している場合 その6か月

※(2)、(3)判定において、判定対象となる事業年度の終了日から、新設法人の開始日までの期間が2か月未満の場合は除かれます。

 

6 その他の留意事項

(1)調整対象固定資産

特定新規設立法人に該当して納税義務が生じた事業年度に調整対象固定資産(棚卸資産を除く100万円以上の一定の資産。)を購入した場合は、いわゆる3年縛りのルールが適用されます。

(2)簡易課税

特定新規設立法人に該当した場合でも簡易課税の選択は可能です。


競走馬オーナーの所得税について

こんにちは。

税理士の大塚です。

 

12月22日は競馬の有馬記念でした。優勝賞金は3億円にもなるそうです。

歌手の北島三郎さんが所有するキタサンブラックが2017年に優勝したことも記憶に新しいところです。

 

今回は競走馬のオーナー、いわゆる「馬主」についての税金について解説します。

法人で馬主になることもありますが、個人のお話に限定します。

 

1 収益と費用

収益は、レースに出た際に貰える賞金や出走手当、もしくは競技中にケガを負った場合などにもらえる給付金といったものがあります。

 

費用としては、調教師に支払う委託料、騎手に支払う進上金、馬の輸送料などです。

通常の事業と同様、交際費や旅費交通費なども馬主事業に関するものであれば経費計上が可能です。

 

特徴的と言えるのは、競走馬の減価償却です。

器具備品や機械装置と同じように、競走馬も資産計上した上で、減価償却費として毎年徐々に費用化します。

競走馬の耐用年数は4年と決められています。

 

減価償却は、原則的には競走馬登録が完了した日から開始するのですが、継続適用することにより、馬齢二歳の4月から開始することも認められています。

 

2 事業所得か雑所得か

馬主の税金で、最も重要なのが事業所得になるか雑所得になるかという点です。

両者の最大の違いは、事業所得であれば損益通算ができますが、雑所得では損益通算ができないことです。

 

事業所得で赤字となった場合、他に給与所得などがあれば相殺することが可能です。

雑所得では赤字は切り捨てられて終わりです。

 

所有している馬があまり勝てないと赤字になる年も多くなりますので、事業所得として損益通算ができることは大きなメリットです。

その他、青色申告による最大65万円の青色申告控除など、事業所得の方が優遇されている規定が多くなっています。

 

事業所得になるかは、競走馬の保有数や出走回数によって決まります。

具体的には下記のような取り扱いです。

 

(1)保有頭数による判定

①その年において、登録期間が6月以上である競走馬を5頭以上保有している場合

②その年以前3年以内の各年において、登録期間が6月以上の競走馬を2頭以上保有し、かつ、その年の前年以前3年以内のうちに、競走馬の保有に係る所得の金額が黒字の金額である年が1年以上ある場合

 

(2)出走回数による判定

その年の前3年間の各年において競馬賞金等の収入があり、その各年のうち年間5回以上(2歳馬については年間3回以上)出走している競走馬を保有する年が1年以上ある場合

 

※事業所得として認められためには、日本中央競馬会や各地方競馬組合が発行する証明書の添付が必要となります。

 

一口馬主という制度もありますが、これは組合に対して出資をし、組合が競走馬を持つような仕組みで、賞金の配当なども口数に応じて受け取れますが、出資の配当という位置づけになり、雑所得になります。

 

3 消費税の納税義務者になることも

馬主事業で消費税の納税義務者になることもあります。

競馬の賞金は競走馬を出走したことによる対価であり、通常の事業の売上と同じく消費税がかかっています。

 

消費税は、幾つか例外規定はありますが、原則として前々年の課税売上が1,000万円以上の場合に納税義務が生じます。

 

賞金や出走手当などで、1,000万円以上あった場合は、翌々年に消費税納税義務が出ることに注意が必要です。

 

消費税は、賞金などの収入に対する消費税から、競走馬購入や経費など支払った消費税を控除して納付します。

競走馬の購入金額が大きいような場合は、還付となることもあり得ます。

 

納税義務がない場合でも、届出を出すことで敢えて消費税の納税義務者となり、還付を取ることもできます。

この場合、一定年数消費税の納税義務が生じますので、翌年以降の計画を検討して決める必要があります。

 

4 その他の税金

競馬の賞金については75万円を超えた場合、源泉所得税が引かれて入金されます。

源泉所得税はあくまで所得税の前払ですので、確定申告をすることで精算されます。

 

雑所得で赤字だった場合、損益通算もできないので確定申告をしても意味がないかと思いがちですが、源泉所得税が引かれている場合は申告することで還付を受けられる可能性があります。

 

個人事業税については、対象業種に入っていないためかかりません。

 

5 最後に

競走馬のオーナーにかかる税金は、事業所得になるか雑所得になるかでも取り扱いが大きく異なりますし、消費税の納税などもあり、奥が深いものです。

是非、今回解説したことを参考にして、税金面の検討もしてみて下さい。