解散、清算時の税務

解散、清算時の税務

こんにちは。

税理士の大塚です。

事業を廃止する場合や子会社を整理する目的で法人を消滅させたい為、解散、清算という手続きを踏むことがあります。

今回は会社を解散、清算した際の税務の取り扱いについて解説します。

法的な会社清算などもありますが、今回は、通常の解散、清算に限定します。

 

1 解散から清算までの流れ

 

(1)事業年度の考え方

 

法人を消滅させる場合、「解散」と「清算」という二段階を踏むことになります。

法人を解散した場合、期首から解散の日までの期間をみなし事業年度として、その時点で事業年度が区切れます。

ここで解散事業年度として、一度申告が必要となります。(図 みなし事業年度①)

その後、残った資産、債務を整理する期間があり、株主に分配すべき財産を確定させます。

この財産のことを残余財産と言います。残余財産が確定するまでに1年以上を要する場合は、

解散の日の翌日から1年毎に申告が必要となります。(図 みなし事業年度②)

残余財産が確定すると、残余財産の確定日までの期間がみなし事業年度となり、

これが最終事業年度となり、最後の申告が必要となります。(図 みなし事業年度③)

 

 

従って、解散・清算を行うと、解散事業年度、清算事業年度で最低2回は申告が必要となり、

残余財産が確定するまでに1年以上を要する場合は、申告回数もその分増加します。

申告期限は、原則事業年度終了の日の翌日から2か月以内であり、延長申請を出されている場合は延長も可能です。

但し、残余財産確定事業年度のみ、残余財産確定した日の翌日から1か月以内

(その期間に残余財産の最終分配が行われる場合は、行われる日の前日まで)となります。

 

(2)税金の計算方法

 

通常の損益計算(益金から損金を控除)により税金が計算されます。

会社清算にあたり、債務免除を受ける場合も想定されますが、債務免除益として収益認識される為、注意が必要です。

 

(3)残余財産の分配

 

株主に対して残余財産の分配があった場合、有価証券の譲渡損益のみならず、みなし配当が発生する場合があります。

みなし配当は、本来の配当ではないものの、配当を受けたとみなされる制度です。

清算時の資本金等の額を超える金額の分配があった場合には、

資本金等の額部分は有価証券の譲渡対価となりますが、その超える金額はみなし配当とされます。

個人株主の場合、みなし配当は総合課税となりますので、累進税率により税額が高額になる可能性があります。

 

 

また、清算される法人としては、みなし配当にかかる源泉所得税を徴収して納付する必要があります。

2 繰越欠損金の取り扱い

(1)概要

 

通常の事業年度と同じく繰越欠損金の利用は可能です。

資本金1億円超の会社や資本金5億円以上の完全子会社は繰越欠損金の利用につき

所得金額の50%までの使用制限が生じますが、それも同様です。

解散事業年度、清算事業年度につき特例で制限が生じないということはありません。

 

債務免除を受ける場合など、多額の利益が出る可能性もありますので、

特に欠損金の制限がある会社は納税も意識しないといけません。

 

(2)残余財産がないと見込まれる場合

 

清算事業年度については、残余財産がないと見込まれる場合は、期限切れ欠損金を利用することができます。

残余財産がないと見込まれるかどうかは、清算事業年度毎に判定を行う必要があります。

残余財産確定までに時間を要する場合は、複数回申告することが想定されますが、それぞれで判定を行います。

 

法人税基本通達12-3-8によると、債務超過であれば要件を満たすことになります。

但し、残余財産確定事業年度については債務超過の状態だと通常の清算はできませんので、

純資産が0円の状態であれば、残余財産はないこととなり、期限切れ欠損金を利用できると考えられます。

 

また、期限切れ欠損金を利用する場合は、残余財産がないと見込まれる書類を申告時に添付する必要があります。

実務上は、資産、負債を時価に修正した実態貸借対照表などを添付します。

時価については、事業年度終了時の処分価格によりますが、

事業譲渡を前提とした解散である場合で継続して他の法人で事業供用される見込みであるときは、

譲渡される場合に通常付される価額によります(法人税基本通達12-3-9)。

 

(3)期限切れ欠損金の計算方法

 

具体的な期限切れ欠損金の金額は①から②を控除した金額となります。

①適用年度終了の時における前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額

②青色欠損金額又は災害損失欠損金額

 

上記①は法人税法基本通達12-3-2において、別表5(1)の期首現在利益積立金額の合計額とされています。

期限切れ欠損金は俗称ですので、適用期限を経過した別表7(1)の繰越欠損金ということではなく、

別表5(1)を確認すれば損金可能限度額が分かります。

 

(4)欠損金の繰戻還付

 

通常は、中小企業者等以外は繰戻還付の適用は停止されていますが、

解散事業年度、清算事業年度に関しては、資本金の大きさに関わらず適用可能です。

 

3 繰越欠損金の引継

例えば100%子会社など完全支配関係のある会社が清算した場合、

親会社は子会社が使用し切れなかった繰越欠損金を引き継ぐことが可能です。

その代わり、親会社で子会社株式の清算損失を損金にすることはできません。

清算損失を損金にして繰越欠損金も引き継ぐと、二重で損失を取り込むことになりますので、制限を入れています。

また、繰越欠損金を全額引き継げるのは、支配関係が生じてから5年を経過している場合、

子会社設立から継続して支配関係がある場合などに限られます。

清算する子会社が過去5年以内に買収されたものである場合は、

買収した事業年度以降に生じた欠損金しか引継ぐことができないため注意が必要です。

 

4 その他の税金の取り扱い

(1)事業税

 

事業税は申告書を提出した日を含む事業年度の損金になります。

そうすると、残余財産確定事業年に生じる事業税は損金算入されるタイミングが失われてしまう為、

残余財産確定最終事業年度において事業税を損金算入させることができます。

 

また、外形標準対象法人については、解散の日における資本金が1億円を超える場合に適用されます。

この場合、解散後に減資をしたとしても、清算事業年度は外形標準の対象となります。

但し、清算事業年度中は資本割については課せられません。

加えて、残余財産確定した日を含む最終の清算事業年度は、付加価値割、資本割ともに課税されません。

 

(2)消費税

 

解散、清算中の事業年度であっても消費税の納税義務は通常通りです。

資産の整理による売却が多額になる場合などは、消費税の納税があることにも留意する必要があります。