Category Archives: 消費税

超速報!令和6年度(2024年度)税制改正大綱を徹底解説!

 

こんにちは。

税理士の山田です。

 

今回は令和5年12月14日に公表された『令和6年度税制改正大綱』の中から主要な項目を抜粋して解説をします。公表されたばかりの情報ですので、スピードと解り易さを重視して解説しております。読みやすさを重視しており、正確性を担保するものではございませんので、予めご了承ください。内容に誤り等がございましたら随時訂正して参ります。

 

また、税制改正大綱は税制改正の骨組となるものであり、おおむねこの通りの改正がされる予定ですが、あくまで骨組みである点はご了承ください。

 

令和6年度税制改正解説テキストの販売を決定!!

お陰様で、本記事は大変好評頂いておりますが、令和5年度に続き令和6年度でもKACHIELさんで税制改正解説テキストを販売することになりました。 本記事以上に気合を入れて作成しますので、購入を検討頂けると幸いです。後悔させない内容に仕上げるように尽力します。12/22までのご購入で早割が効きますので、是非是非ご検討下さい。

テキストの特徴は下記の通りです。

■ 細かい論点なども含めて徹底的に解説した大ボリューム!(昨年度はワード100ページ以上)

■ 12月中にリリースされる追加情報(各省庁の情報など)を追加し、さらにレベルアップ

■ 出来る限り事例を交えて解り易く説明

■ テキストの内容を説明した動画付

テキストの詳細と申込はこちらより  

 

 

Ⅰ 個人所得課税

1.所得税・個人住民税の定額減税(12.18に一部記載を訂正

令和6年分の所得税と住民税について、定額による特別控除を実施する。

 

【制度概要】

① 対象者の要件

居住者であり令和6年分の所得税(住民税)の合計所得金額が1805万円以下(給与収入の場合には2000万円以下)である者(大綱を読む限り、住民税は令和6年分の住民税の合計所得金額とあるため、所得税ベースで言う令和5年分の所得で判定

 

② 特別控除の額

(所得税)

 本人分 3万円 + (同一生計配偶者扶養親族)の人数 × 3万円

(住民税)

 本人分 1万円 + (控除対象配偶者扶養親族)の人数 × 1万円

 

※ 人数のカウントは全て居住者に限定

※ 言葉の定義は下記の通り

同一生計配偶者:生計を一にする配偶者で合計所得金額が48 万円以下(青色・白色の事業専従者に該当しないもの)

扶養親族:生計を一にする親族で合計所得金額が48 万円以下(青色・白色の事業専従者に該当しないもの)

控除対象配偶者:同一生計配偶者に該当し、納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下のケース

※ 住民税については、対象が控除対象配偶者に限定されているが、居住者であって控除対象配偶者を除く同一生計配偶者である場合については、令和7年度分の住民税額から1万円を控除するため、結論としては所得税と同様に、同一生計配偶者に該当すれば1万円の控除はされることになる。

 

【ケース1 給与所得者に係る特別控除の額の控除】

① 毎月の給与からの所得税額の控除

■ 令和6年6月以後最初に支払いを受ける給与等(賞与含む)につき源泉徴収をされる所得税額から特別控除の額を控除する。

■ 控除しきれない控除の額がある場合には、それ以降に支払う給与等につき源泉徴収をされる所得税額から順次控除をしていく。

■ 毎月の源泉徴収をされる所得税額から控除する場合には、配偶者の情報は「源泉控除対象配偶者」でカウントをする。(「源泉控除対象配偶者」とは、同一生計配偶者に該当し、納税者本人の合計所得金額が900万円以下のケース)

⇒ これは、現時点での「扶養控除等申告書」の様式でカウントできる情報が「源泉控除対象配偶者」に限られてしまうため。

■ 扶養親族に異動が生じたことにより特別控除の額が変わるときは、年末調整により調整する。

■ 給与明細には、特別控除の額を記載する。

 

② 年末調整での所得税額の控除

■ 令和6年分の年末調整の際には、年税額から特別控除の額を控除する。

⇒ 年末調整で再度計算をして差額があれば精算される。つまり、合計所得金額の正しい計算はこの時点で行うことになると考えらえる

■ 源泉徴収票の摘要の欄に控除した額等を記載する。

 

③ 個人住民税の控除

■ 特別徴収義務者は、令和6年6月に支払う給与からの特別徴収を行わない。

■ 令和6年分の個人住民税の額から特別控除の額を控除した金額を11分割し(端数調整あり)、令和6年7月~令和7年5月のそれぞれの給与から毎月徴収する。

■ 上記の計算がされた住民税額が各自治体から通知されてくる。

■ 上記の通り、居住者であって控除対象配偶者を除く同一生計配偶者である場合については、令和7年度分の住民税額から1万円を控除

 

※所得税の控除イメージ

 

※住民税の控除イメージ

出典:総務省「令和6年度地方税制改正(案)について」

 

【ケース2 公的年金等の受給者に係る特別控除の額の控除】

■ 令和6年6月以降に支払いを受ける公的年金等につき源泉徴収をされる所得税額から特別控除の額を順次控除していく。(考え方はケース1の給与と同様)

■ 公的年金等の受給者で、扶養親族に異動が生じたことにより特別控除の額が変わるときは、令和6年分の確定申告により調整する。

■ 公的年金等の受給者については、住民税額からの控除は所得税と同様の考え方。

  

【ケース3 事業所得者等に係る特別控除の額の控除】

■ 第1期分予定納税額(7月)から本人分に係る特別控除の額を控除する。

■ 第1期分予定納税額から控除しきれない部分の金額は、第2期分予定納税額(11月)から控除する。

■ 予定納税額の減額の承認の申請をすることで、同一生計配偶者等に係る特別控除の額についても控除を受けることができる。

■ 令和6年分の期限の延期(令和6年分のみ)

項目

現行

延期

第1期分予定納税額の納付期限

7月31日

9月30日

予定納税額の減額の承認の申請の期限

7月15日

7月31日

■ 最終的には確定申告で所得税額から特別控除の額を控除して精算する。控除対象は住宅ローン控除後の所得税額からの控除。(控除しきれない場合には、交付金等で調整がされると思われる)

 

【ケース4 住民税の普通徴収の場合】

■ 第1期分の納付額から特別控除の額を控除し、控除しきれない場合には第2期分以降の納付額から順次控除する

 

【実務上のポイントと気になる点】

■ 特別控除の順番は下記の通り

① まずは6月以降の給与又は年金から順次控除(配偶者の人数カウントは暫定的

② その後に給与の場合は年末調整で計算をして差額があれば調整

③ 最後に確定申告で計算をして差額があれば再度調整

■ 合計所得金額の算定が年の途中では困難であるため年末調整や確定申告で判定をして超えることになる場合には、特別控除の額相当額の返還がされる形になると思われる

■ 大綱の記載では、「給与等の支払者が同一生計配偶者等を把握するための措置を講ずる」との記載がある。現行での「扶養控除等申告書」では、「源泉控除対象配偶者」の記載項目しかないため、「同一生計配偶者」を把握するために(詳細は続報で確認

■ 6月以降に転職で入社した人で控除していない特別控除の額があった場合の取扱いが不明(詳細は続報で確認

 

出典:「令和5年10月26日 政府与党政策懇談会資料」(首相官邸ホームページ)

 

 

2.ストックオプション税制の要件緩和

権利行使時に経済的利益が非課税となる税制適格ストックオプションの要件が、次の通り緩和される。

 

【改正内容】

①保管委託要件の撤廃

■ 権利行使で取得した株式を証券会社等に保管委託することが要件であったが、撤廃される(ただし、譲渡制限株式で発行会社自身が株式管理をすることが要件)

②年間の権利行使価額の限度額の引き上げ

項目

現行

改正

設立から5年未満の株式会社

1200万円

2400万円

設立以後5年以上20年未満の会社で、以下のいずれかに該当する会社・未上場の会社

・上場後5年未満の会社

1200万円

3600万円

 

③社外高度人材である特定従事者がストックオプション税制の適用を受けるための要件を緩和

■ 認定対象企業の要件のうち、ベンチャーキャピタルからの出資を受けた時点での要件(資本金5講演未満かつ従業員数900人以下)を撤廃する

■ 社外高度人材の要件のうち、上場企業役員の経験については3年以上の実務要件を1年以上に緩和し、それ以外の専門家については、実務要件を廃止する

■ 社外高度人材の要件に一定のもの(教授、一定の実務経験がある未上場企業役員・上場企業の重要な使用人、など)を追加する。

 

※現行の取扱い(出典:経済産業省HP)

https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/stock_option/sogaiyou3.pdf

 

【実務上のポイントと気になる点】

■ 改正内容①により未上場の状態での権利行使であっても税制適格ストックオプションが適用しやすくなり、活用の幅が広がる

 

 

3.子育て支援に関する政策税制(住宅ローン控除等)

子育て世帯に対する支援策として、住宅ローン控除と住宅リフォーム税制について一定の拡充を行う。令和6年度のみの暫定措置で、令和7年度以降については、次年度の税制改正にて検討を行う。

 

【子育て世帯とは】

以下のいずれかに該当する者=「子育て特例対象個人」

・ 自分の年齢が40歳未満で、かつ、配偶者を有する者

・ 自分の年齢が40歳以上で、かつ、40歳未満の配偶者を有する者

・ 年齢19歳未満の扶養親族を有する者

 

【住宅ローン控除の拡充】

① 子育て特例対象個人が、認定住宅等の新築等をして居住の用に供した場合の、借入限度額は次の通りとする。(控除率は0.7%)

住宅の区分

借入限度額(現行)

借入限度額(改正)

認定住宅

4,500万円

5,000万円

ZEH水準省エネ住

3,500万円

4,500万円

省エネ基準適合住宅

3,000万円

4,000万円

 

② 令和5年末までに建築確認を受けた認定住宅等の新築等については、床面積要件が緩和(通常は50㎡以上の床面積要件が、合計所得金額1,000万円以下に限り40㎡以上に緩和)されているが、これを令和6年末まで延長

③ 子育て特例対象個人である震災特例法の住宅被災者が、認定住宅等の新築等をして居住の用に供した場合の、借入限度額は次の通りとする。(控除率は0.9%)

住宅の区分

借入限度額(現行)

借入限度額(改正)

認定住宅等

4,500万円

5,000万円

 

出典:国土交通省「令和6年度国土交通省税制改正概要」

 

【住宅リフォーム税制】

子育て特例対象個人が、所有する居住用家屋について一定の子育て対応改修工事をして、令和6年4月~12月までに居住した場合、その工事に係る標準的な工事費用相当額(250万円を限度)の10%をその年分の所得税額から控除できる。

 

 

  

Ⅱ 資産課税

1.住宅資金贈与の非課税措置延長

以下の住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置等について、3年間延長する。

出典:国土交通省「令和6年度国土交通省税制改正概要」

 

 

2.法人版事業承継税制の特例承継計画の提出期限延長

非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度(法人版事業承継税制)について、現行では2024年3月末までである特例承継計画の提出期限を、2026年3月末まで延長する。(適用期限は令和9年12月末のまま)

 

 

 

Ⅲ 法人課税

1.賃上促進税制(大企業・中堅企業向け)

大企業・中堅企業向けの人材促進税制について、次の通り見直しをする。(適用期間:令和6年4月1日~令和9年3月31日)

 

【改正内容】

① 大企業向け控除率の改正

要件の内容

現行

改正

控除率差

トリガー

控除率

トリガー

控除率

【ベース部分】

継続雇用者給与等支給額の増加割合

3%以上

15% 3%以上

10%

△5%

4%以上

25% 4%以上 15% △10%

5%以上

20%

△5%

7%以上 25%

±0%

【上乗せ①】(※1)

教育訓練費の増加割合

20%以上

+5% 10%以上 +5%

±0%

【上乗せ②】(※2)

女性子育て支援

+5%

+5%

最大控除率

30% 35%

+5%

※1 上乗せ①の要件で、教育訓練費の額が雇用者給与等支給額の0.05%以上であることが要件に追加

※2 「プラチナくるみん認定(優良な子育てサポート企業の認定)」又は「プラチナえるぼし認定(優良な女性の活躍推進企業の認定)」を受けている場合

 

②中堅企業向け控除率の改正(大企業向けとの違い部分のみ)

■ 中堅企業は、「中小企業以外の企業」で「従業員数が2000人以下の企業」(その会社の子会社を含むグループ全体で従業員数が1万人を超える場合を除く)

■ ベース部分の控除率は、トリガー(継続雇用者給与等支給額の増加割合)4%以上になると、MAXの25%となる(大企業でいうトリガー7%以上の控除率)

■ 女性子育て支援上乗せ措置に「3段階目のえるぼし認定を受けている企業」を追加

 

③ マルチステークホルダー方針を公表しなければならない企業の範囲に従業員数2,000人超の企業を追加

現行

改正

資本金が10億円以上かつ従業員数が1,000人以上の企業のみ 従業員数2,000人を超える企業が追加

 

 

2.賃上促進税制(中小企業)

中小企業向けの人材促進税制について、次の通り見直しをする。(適用期間:令和6年4月1日~令和9年3月31日)

 

【改正内容】

① 控除率の改正

要件の内容

現行

改正

控除率差

トリガー 控除率 トリガー

控除率

【ベース部分】

全雇用者給与等支給額の増加割合

1.5%以上

15%

変更なし

±0%

2.5%以上

30%

±0%

【上乗せ①】(※1)

教育訓練費の増加割合

10%以上

+10% 5%以上 +10%

±0%

【上乗せ②】(※2)

女性子育て支援

+5%

+5%

最大控除率

40%

45%

+5%

※1 上乗せ①の要件で、教育訓練費の額が雇用者給与等支給額の0.05%以上であることが要件に追加

※2 以下のいずれかの認定を受けてる場合

・「プラチナくるみん認定(優良な子育てサポート企業の認定)」

・「プラチナえるぼし認定(優良な女性の活躍推進企業の認定)」

・「くるみん認定」又は「2段階目以上のえるぼし認定」

 

② 法人税額から控除がしきれない控除額があるときは、5年間の繰越が出来る制度を追加する。

 

【実務上のポイントと気になる点】

■ 5年間の繰越が出来るようになったために、赤字である場合や控除上限(法人税額の20%)に抵触しても、最大限の控除が取れるように申告をする必要がある

■ 従前では通常の税額控除率で計算して控除上限に抵触してしまえば、上乗せ措置を検討する必要もなかったが、今後は繰越が可能であるため、可能な範囲で上乗せ措置を適用するべき

 

 

3.特定税額控除不適用規定の見直し

大企業向けの特定税額控除不適用規定について見直しを行う。

 

【改正内容】

① 要件が強化される法人について、「資本金が10億円以上かつ従業員数が1,000人以上の企業」のみでなく、「従業員数2,000人を超える企業」を追加。なお、前年度が赤字の場合には、従前より要件強化の対象外。

② 要件が強化される法人についての要件(いずれかの要件に該当しないと特定税額控除規定の適用を受けることができない)

要件

現行

改正

所得金額 対前年比で減少 変更なし
継続雇用者の給与等支給額 対前年増加率1%以上 変更なし
国内設備投資額 減価償却費の30%超 減価償却費の40%超

 

【制限対象の特定税額控除規定】

・研究開発税制(総額型、オープンイノベーション型)

・地域未来促進税制

・5G投資促進税制

・カーボンニュートラルに向けた投資促進税制

・デジタルトランスフォーメーション投資促進税制

 

 

4.中小企業事業再編投資損失準備金制度の拡充

中小企業事業再編投資損失準備金制度について、現行制度に新制度を追加して、適用を令和9年3月末まで延長する。

 

【新制度の内容】

① 「特別事業再編計画(仮)」の認定を受けた事業者が対象

② 購入する株式の金額が1億円以上100億円以下であることが要件となる。

③ 準備金の積立が出来る金額は、初回が株式取得価額の90%二回目以降は100%

(現行制度では70%)

④ 準備金取崩の期間が積立から10年経過後(現行制度では積立から5年経過後)以降5年間に渡って取崩を行って益金に算入となる。

 

【現行制度と新制度の共通の改正】

① 一定の表明保障保険契約を締結している場合には本制度の適用が受けられなくなる。

② 準備金積立後も一定の表明保障保険契約を締結すると全額の取崩が必要になる。

 

※現行の制度概要

出典:中小企業庁HP(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/shigenshuyaku_zeisei.html

 

【実務上のポイントと気になる点】

■ 特別事業再編計画(仮)の認定手続きについて要確認(産業競争力強化法の改正)

■ 現行制度の経営力向上計画の認定に比べると、特別事業再編計画(仮)の認定手続きはかなりハードルが高いと考えらる。

■ 新制度の株式金額要件について、M&Aでは購入する株式対価の設定にあたっては、退職金の支給やM&A後の顧問料などを含めて金額の設定をするため、新制度の適用可否も含めてスキームを検討する必要がある。

■ 本制度の適用が受けられなくなる一定の表明保障保険契約について、どのような契約が該当するのか詳細の確認が必要(大綱には記載なし)

 

 

5.国内投資促進税制(戦略分野国内生産促進税制・イノベーションボックス税制)

 

【戦略分野国内生産促進税制の創設】

■ 産業競争力強化法の改正を前提に事業適応計画の認定が必要

■ 計画に基づいて産業競争力基盤強化商品の生産をするための設備(産業競争力基盤強化商品生産用資産)の購入が対象

■ 認定後10年間に渡って販売数量に応じて税額控除を行っていく

■ 控除が出来ない場合についても3年間~4年間の繰越控除がある

 

【イノベーションボックス税制の創設】

■ 無形資産への国内投資を後押しするための制度

■ 内国法人等に対して特定特許検討の譲渡・貸付を行った場合に、その事業から発生する一定の課税所得の30%相当額を損金に算入する

■ 国外への投資については制度対象外であり、国内投資のみが対象

 

  

6.交際費の損金不算入制度の除外措置拡大

損金不算入となる交際費等から除外されるいわゆる5,000円以下飲食費(社外との飲食に限る)の範囲について、金額要件を1人当たり5,000円以下から10,000円以下に引き上げる。

  

【実務上のポイントと気になる点】

■ 中小企業についてはいずれにしても年間800万円までの損金算入枠があるため影響は少ない

■ インボイス制度の適格請求書に該当しない飲食費の場合には、控除対象外消費税も上乗せした金額で単価判定が必要になるため注意が必要

 

 

7.外形標準課税制度の対象拡大

外形標準課税制度の適用対象法人の範囲について、現行の基準(資本金の額が1億円超の法人)を維持したうえで、範囲を拡大する

 

【減資への対応】

当分の間、以下の全てに該当する法人を外形標準課税の対象とする。

① 前事業年度に外形標準課税の対象であること(※)

② 当該事業年度に資本金が1億円以下であること

③ 当該事業年度に資本金と資本剰余金の合計額が 10 億円を超えること

※公布日(令和6年3月末を想定)以後に減資をして資本金が1億円以下になった法人については、①に該当するものとして扱われる。

※適用開始時期:令和7年4月1日に施行し、同日以後に開始する事業年度から適用

出典:総務省「令和6年度地方税制改正(案)について」

  

【100%子法人等への対応】

以下の全てに該当する法人を外形標準課税の対象とする。

① 資本金と資本剰余金の合計額が 50 億円を超える外形対象法人の100%子法人等

② 当該事業年度に資本金が1億円以下であること

③ 当該事業年度に資本金と資本剰余金の合計額(※)が 2億円を超えること

※公布日以後に、子会社から親会社への資本剰余金配当等があった場合には、加算した金額で判定する

※適用開始時期:令和8年4月1日に施行し、同日以後に開始する事業年度から適用

※上記改正により、新たに外形標準課税の対象となる法人に係る税負担の緩和措置が講じられる。(初年度:増差税額の3分の2を控除 次年度:増差税額の3分の1を控除)

出典:総務省「令和6年度地方税制改正(案)について」

 

【実務上のポイントと気になる点】

■ 公布日までの対応であれば適用対象から外れることも可能と思われる

■ 資本金と資本剰余金は会計上の金額を利用するが、監査法人の監査等が行われていない企業においては、会計処理で誤りがある可能性も十分考えられるので、資本取引の会計処理について精査が必要

 

8.その他

【倒産防止共済の掛け金の損金算入の特例】

■ 共済契約の解除があった後に再度共済契約を締結した場合には損金算入に一定の制限がされる

■ その解除の日から同日以後2年を経過する日までの間に支出する当該共済契約に係る掛金については損金算入できない

 

  

Ⅳ 消費税(インボイス制度)

1.国外事業者に係る消費税の課税の適正化(プラットフォーム課税など)

 【プラットフォーム課税の導入】

■ 国外事業者がデジタルプラットフォームを介して行う消費者向けの電気通信利用役務の提供のうち、特定プラットフォーム事業者を介したものについては、その特定プラットフォーム事業者が行ったものとみなす。

■ その課税期間における上記の取引金額が50億円を超える場合には、特定プラットフォーム事業者として指定される。

■ 適用開始時期:令和7年4月1日以後に行われる電気通信利用役務の提供

 

【事業者免税点制度の特例の見直し】

■ 特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例について、給与支払額による判定の対象から国外事業者を除外する。

■ 資本金1,000万円以上の新設法人に対する納税義務の免除の特例について、外国法人は基準期間を有する場合も、国内事業開始時点で本特例の適用の判定を行う。

 

【簡易課税制度等の見直し】

■ その課税期間の初日において恒久的施設を有しない国外事業者については、簡易課税制度の適用を認めない。

 

2.その他

 【高額特定資産の範囲拡大】

■ 高額特定資産を取得した場合の事業者免税点制度等の制限措置の対象に、その課税期間において取得した金地金等の合計額が200万円以上である場合を加える。

 

【免税購入された物品の課税仕入れについて仕入税額控除の制限】

■ 外国人旅行者向け消費税免税制度により免税購入された物品と知りながら行った課税仕入れについては、仕入税額控除制度の適用を認めないこととする。

 

【インボイス制度の自販機特例についての帳簿記載要件を緩和】

■ 帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められるインボイス制度の自販機特例については、帳簿へ住所等の記載が必要であったが、不要とする。(令和5年10月まで遡って不要とする)

 

 

Ⅴ その他

1.GビズIDとの連携によって電子署名等の省略

法人が、GビズIDを入力して、e-Taxにより申請等を行う場合には、ID・PWの入力、電子署名・電子証明書の送信を要しないこととする。

 


超速報!令和5年度(2023年度)税制改正大綱を徹底解説!

こんにちは。

税理士の山田です。

今回は令和4年12月16日に公表された『令和5年度税制改正大綱』の中から特に気になった項目を抜粋して解説をします。公表されたばかりの情報ですので、スピードと解り易さを重視して解説しております。正確性を担保するものではございませんので、予めご了承ください。内容に誤り等がございましたら随時訂正して参ります。

また、税制改正大綱は税制改正の素案となるものであり、おおむねこの通りの改正がされることがほとんどですが、100%確実ではございません。読みやすさを重視するために文中ではまだ予定であることを態々記載していませんが、確定事項ではない点はご理解ください。

税制改正解説テキストの販売を決定!!

お陰様で、本記事は大変好評頂いておりますが、ご縁ありましてKACHIELさんで税制改正解説テキストを販売することになりました。 本記事以上に気合を入れて作成しますので、購入を検討頂けると幸いです。後悔させない内容に仕上げるように尽力します。12/25までのご購入で早割が効きますので、是非是非ご検討下さい。

テキストの詳細はこちらより

(2023年1月12日追記)

上記の税制改正解説テキストが完成しました!テキストにも収録している令和5年度税制改正の全体イメージをこちらにも掲載します。

Ⅰ 所得税(源泉所得税含む)

1.NISAの抜本的拡充と恒久化

令和6年1月より現行の制度を大幅に見直して、下記のように制度が生まれ変わります。

【その他のポイント】

■ ジュニアNISAは2023年で終了

■ 限度額の計算は簿価ベースで計算、上限に達するまで出し入れは自由で何度でも利用可

■ 過去の投資枠とは別枠で利用が可能

 

【実務上のポイントと私見】

■ 何度でも出し入れができる点は利便性が非常に高い

■ 中長期で預金に持っているくらいであれば、インデックスに投資をするメリットが高い

■ 成長投資枠をつみたて投資枠のように利用することも可能

【適用開始時期】 令和6年1月より

2.スタートアップへの再投資にかかる非課税措置の創設など

M&Aなどで多額の売却益が出た際に、売却資金を元手に創業する場合やエンジェル投資家としてプレシード・シード期のスタートアップに再投資する場合に、再投資金額をした金額を株式の売却益から控除することが出来る制度を創設されました。

投資額のうち20億円までについては完全に非課税となり、20億円を超えた投資についても投資株式の取得価額から控除をすることで課税の繰り延べが行われます。

また、エンジェル税制や創業5年未満の会社がストックオプションを発行する場合のストックオプション税制についても一定の要件の緩和が行われます。

 

【対象となる投資先の主な要件】

■ 設立以後1年未満

■ 販管費/出資金額が30%を超えること

■ 株式の99%以上を特定の株主グループが所有していないこと

■ 大企業の子会社等でないこと

 

【計算例】

5億円で購入した株式を30億円で売却、売却資金を元手に税制優遇が受けられるスタートアップに22億円を投資

「所得税の計算(復興特別所得税は除いて計算)

(売却額30億円 - 取得価額5億円 - 控除22億円) × 所得税率(15%) ⇒ 4500万円が課税

「スタートアップ株式の取得価額」

取得価額22億円 - (22億円 - 20億円) ⇒ 取得価額20億円

【実務上のポイントと私見】

■ 下記の「高所得者層に対する課税の強化」との兼ね合いが重要になると思われる

■ 「高所得者層に対する課税の強化」への課税回避のためにこの制度の利用が有効だと思われる

3.高所得者層に対する課税の強化

極めて所得が高い個人についての所得税の課税が強化されます。具体的には、下記の計算式で計算した金額が所得税額を上回る場合には、差額が上乗せされて課税されます。

【計算式】 (合計所得金額 - 特別控除3.3億円) × 22.5%

【計算例】

5億円で購入した株式を30億円で売却

「所得税の計算(復興特別所得税は除いて計算)

① (売却額30億円 - 取得価額5億円) × 所得税率(15%) = 3.75億円

② (合計所得金額25億円 - 特別控除3.3億円) × 22.5% = 4億8825万円

③ ②>① になるので、 ②の4億8825万円が課税

【実務上のポイントと私見】

■ 上記「スタートアップへの再投資にかかる非課税措置」を活用すれば、この制度の適用を回避することが可能だと思われる

■ 合計所得金額の計算からは源泉分離課税の所得は除かれるので、特定口座の株式の申告の有無で税額が変わることもあり得る (2022.12.18 11:43訂正) 合計所得金額の計算では『申告不要制度を適用しないで計算した金額』とあるので、特定口座の申告の有無によって税額が変わることは無いと思われる(ただし、源泉分離課税の所得は含めずに計算する)

【適用開始時期】 令和7年以降

4.個人事業者の各種届出等の手続きの簡素化

個人事業主の各種届出等の手続きが簡素化されます。

 

【ポイント】

■ 事業の開業・廃業時の届出書の様式が統一され、複数の届出書を一括で作成出来るようにする

■ 各種届出書の提出期限を「確定申告期限まで」とすることで、確定申告書へのチェックや追記などで届出書の提出が行えるようになる予定

 

【対象となる思われる届出書】

■ 個人事業の開業・廃業届出書

■ 青色申告承認申請書

■ 青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書

■ 青色申告の取りやめ届出書

■ 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

■ 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書

 

【適用開始時期】 令和8年~令和9年

5.その他

【源泉徴収票の提出方法等の見直し】

源泉徴収票の提出先が市区町村に一本化されます。つまり、法定調書の作成にあたって給与情報の記載が不要になると思われます。

 

【年末調整関係書類の記載事項の簡略化】

扶養控除等申告書や保険料控除等申告書の記載事項が簡略化されます。

Ⅱ 資産課税

1.資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築

相続時精算課税制度の使い勝手を向上し、次世代への資産移転をしやすくする狙いがあるようです。一方で暦年贈与については、相続対策としての利用が恒常化しており、バランスを取る形で生前贈与加算の期間が延長されます。

相続時精算課税制度について毎年110万円の基礎控除を創設

相続時精算課税制度により行われた贈与について、課税価格から毎年110万円の基礎控除が出来るようになります。また、相続税の計算において加算される金額も贈与財産の価額から過去の基礎控除額を控除した後の金額となります。

 

相続時精算課税制度による贈与財産が災害により被害を受けた場合の再計算】

精算課税制度による贈与後に、贈与財産である土地や建物が災害によって一定の被害を受けた場合には、相続税の計算において加算される金額は贈与財産の価額から災害を受けた金額を控除した金額とします。

 

【生前贈与加算制度の見直し(加算期間の延長)】

暦年贈与により生前に贈与を受けていた財産について、相続時に加算される贈与期間が相続前3年間から相続前7年間に延長されます。ただし、延長した4年間の贈与について総額100万円までは相続財産に加算しない措置が取られます。延長の期間は令和9年以降の相続から随時延長がされ、令和13年に7年間に達します。

 

【実務上のポイントと私見】

■ 暦年贈与による生前贈与加算制度では相続時に加算される際には基礎控除額が控除されない一方で、精算課税贈与では基礎控除額が控除されることになったため、相続前7年間の贈与は暦年贈与より精算課税贈与の方が有利になる

■ 基礎控除額を利用して相続税対策を行う場合には、精算課税贈与の選択が以前よりもしやすくなった。

■ 相続前7年間はいずれの制度を利用した贈与財産であっても相続財産への加算が必要となるため、相続時の預金調査が以前よりも重要になってくる

■ 災害をうけた場合の判定についての考え方はどうなるか?(雑損控除の考え方を引用するか?)

 

【適用開始時期】 令和6年1月以降

2.教育資金や結婚資金等の一括贈与に係る非課税措置の見直しと延長

【教育資金の一括贈与に係る非課税措置】

適用期限を3年間延長し、契約終了時に残高が残っていた場合にかかってくる贈与税の税率は本則の税率で計算をすることになりました。また、契約期間中に贈与者が死亡した場合で、贈与者の相続税の課税価格が5億円を超える場合には、受贈者の年齢に変わらず残高を相続財産に加算することになりました。

【結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税措置の見直し】

適用期限を2年間延長し、契約終了時に残高が残っていた場合にかかってくる贈与税の税率は本則の税率で計算をすることになりました。

Ⅲ 法人課税

1.オープンイノベーション促進税制の拡充

対象となる特定株式に発行法人からの株式発行以外に既存株主からの購入で一定の要件を満たすものを追加した一方で、取得価額の上限を100億円から50億円に引き下げます。また、購入から5年以内に一定の成長要件を満たせば減税効果が継続することになります。

【オープンイノベーション促進税制とは?】

オープンイノベーションを目的としてスタートアップ企業の株式を取得する場合に、取得価額の25%を課税所得から控除できる制度です。現行制度の詳細は経済産業省のHPを参照して下さい。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/open_innovation/open_innovation_zei.html

2.研究開発税制の見直しと延長

研究開発税制は次の見直しを行います。

【見直しのポイント】

■ 税額控除率を調整し、試験研究費の増加による控除率のカーブを見直された。

■ ビッグデータを活用した「サービス開発」のための試験研究費の範囲として、従来は新たにビッグデータを収集する場合のみが対象であったが、既存のビッグデータの活用も対象として認められた。

■ 従来はデザインに基づく「設計・試作」であって性能向上を目的としていなくても試験研究費の対象とされていたが、性能向上を目的としないことが明らかな「設計・試作」は対象から除外された。

3.中小企業投資促進税制等の見直しと延長

中小企業のための優遇税制である中小企業投資促進税制(7%税額控除・30%特別償却)と中小企業経営強化税制(10%税額控除・100%即時償却)の対象財産から一定のコインランドリー設備とマイニング設備が除外されることになりました。

【中小企業投資促進税制】

中小企業投資促進税制の対象設備からはコインランドリー業(主たる事業でない場合)の機械装置でその管理の大部分を外部に委託しているものを除外することになりました。

【中小企業経営強化税制】

中小企業経営強化税制の対象設備からはコインランドリー業か暗号通貨マイニング業(主たる事業でない場合)の機械装置でその管理の大部分を外部に委託しているものを除外することになりました。

中小企業経営強化税制の適用には一定の手続きが必要になるため詳細は中小企業庁のHPを確認してください。

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/

 

【実務上のポイントと私見】

■ コインランドリー設備やマイニング設備は設備投資を全額即時償却が出来ることで課税の繰り延べ策として利用される側面があったため、それを回避する改正

■ ここ数年、国としては課税の繰延策をブロックする意向が明らかにあるため、ギリギリを攻めているような繰延策については、強攻策に出てくる可能性もあると考える

【適用開始時期】 令和5年4月1日以降

4.株式交付税制の見直し(同族会社を対象から除外)

株式交付税制の対象となる株式交付親会社が同族会社(非同族の会社が株主のケースを除く)に該当する場合には税制の適用を受けられなくなります。

【実務上のポイントと私見】

■ 株式交付税制はどこの子会社でもない会社(50%支配を受けていない)が対象

■ 上場前などに一定の状態で資産管理会社を作る際にも株式交付制度の利用が出来てしまっていたために、それをブロックするための改正

【適用開始時期】 令和5年10月1日以後に行われるもの

5.暗号資産の評価方法等の見直し

暗号資産の発行会社が自社発行の暗号資産を発行時から継続して保有する場合等については、その暗号資産は時価評価から除外されることになりました。

【実務上のポイントと私見】

■ 多額の納税によって暗号通貨発行法人の資金が枯渇してしまい、事業継続が困難であったための措置

6.その他

【特定の資産の買換えの圧縮記帳の見直しと延長】

既成市街地等内から既成市街地等外への買換えが対象から除外されるなど、一定の見直しがされたうえで制度が3年間延長されました。

【DX投資促進税制の見直しと延長】

DX認定基準を改定し、人材促進・確保等に関連する事項を要件化するなど、一定の見直しがされたうえで制度が2年間延長されました。

Ⅳ 消費税(インボイス制度)

1.小規模事業者に対する納税額に係る負担軽減措置

一定の小規模事業者であるインボイス発行事業者は、消費税の納付税額を売上に係る消費税額の2割の金額とすることが出来ることとなります。

【適用対象事業者】

下記のいずれかに該当するインボイス発行事業者

■ 免税事業者が適格請求書発行事業者になった場合

■ 課税事業者選択届出書を提出したことにより課税事業者になっている場合

⇒ つまり、基準期間の課税売上高が1000万円以下であるインボイス発行事業者が対象

【その他のポイント】

■ 令和5年10月1日より前から課税事業者を選択している場合には、令和5年10月1日の属する課税期間では適用出来ない

■ 課税事業者選択届出書を提出したことで、令和5年10月1日の属する課税期間から課税事業者となる場合には、その課税期間中に選択不適用届出書を提出すれば、課税事業者選択届出書は効力を失う

■ 消費税の申告書に適用を受ける旨を付記するだけで適用が可能

■ 当該特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間中に簡易課税の選択届出書を提出すれば、提出をした課税期間から簡易課税の適用が可能(インボイス制度の適用初年度の課税期間については現行制度でも届出を提出をした課税期間から簡易課税の適用が可能なため、翌期についてもOKとなった)

【実務上のポイントと私見】

■ 原則課税と簡易課税と当該特例の3通りの計算が可能なため、より詳細なシミュレーションが必要となる

■ 当該特例は申告書への記載のみで適用が受けられるので、実際の消費税額の計算後に有利な選択が出来る

■ 逆に選択を誤ると税理士には賠償責任が発生する可能性が考えられる

■ 当該特例の更正の請求の可否は現時点では不明

【適用課税期間】 令和5年10月1日~令和8年9月30日までの日の属する課税期間

2.中小事業者等に対する事務負担の軽減措置

一定の中小事業者は、対価が1万円未満の課税仕入については、インボイスの保存が無くても帳簿の保存のみで仕入税額控除の適用を認めることになります。

【適用対象事業者】

下記のいずれかに該当する事業者

■ 基準期間における課税売上高が1億円以下である

■ 特定期間における課税売上高が5000万円以下である

【実務上のポイントと私見】

■ 逆に売上が1億円を超える事業者は少額なものについても全てインボイス番号の確認と書類の保存が必要になる

■ クレジットカードで決済した経費などについても全てインボイス番号の確認や書類の保存が必要になるために書類の管理やオペレーションが非常に煩雑になることが想定される

【適用時期】 令和5年10月1日~令和11年9月30日までの間に行う課税仕入

3.少額な返還インボイスの交付義務の見直し

税込価格が1万円未満の売上返還については、返還インボイスの交付義務が免除ことになります。

【実務上のポイントと私見】

■ 売上が入金される際に振込手数料などを控除して振り込まれる場合などが対象

【適用開始時期】 令和5年10月1日以後に行う課税資産の譲渡等に係る対価返還が対象

4.登録申請手続の柔軟化

インボイス制度に係る届出書の提出期限について柔軟化がされました。

【免税事業者が登録申請をする場合】

免税事業者が課税期間の初日からインボイス発行事業者として登録を受けようとする場合の提出期限について、現行の課税期間の初日から起算して1月前であったのものが15日前までに緩和されます。

【登録の取消しを求める場合】

インボイス発行事業者が登録の取消を求める場合の届出書の提出期限について、取消を受けようとする課税期間の初日から起算して30日前の日の前日であったのものが15日前までに緩和されます。

【経過措置により10月1日より後で登録を受けようとする場合】

10月1日より後の日付でインボイス発行事業者の登録を受けようとする場合の登録申請書について、登録を受けようとする日から起算して15日前までに提出していれば、希望日に登録が受けられることになります。

【令和5年10月1日からインボイス発行事業者の登録申請を受ける場合の申請期限】

本来の申請期限は令和5年3月31日であるものが、困難な事情がある場合に、令和5年9月 30 日までの間にその困難な事情を記載して提出し、税務署長により適格請求書発行事業者の登録を受けたときは、令和5年10月1日に登録を受けたこととみなされる措置が設けられていました。この措置について、困難な事情の記載が撤廃され、実質的に令和5年9月30日が期限になったことになります。

Ⅴ 国際課税

1.グローバルミニマム課税の創設

多国籍企業グループの総収入金額が7億5000万ユーロ相当以上である場合に、最低税率15%に至るまでの課税がされる仕組みが創設されます。

2.タックスヘイブン税制(CFC税制)の見直し

タックスヘイブン税制について下記の見直しがされます。

■ 合算課税から免除される特定外国関係会社の租税負担割合の判定が、現行の30%以上から27%以上に引き下げられます。

■ 申告書に添付する外国関係会社に関する書類で株主関係を記載する書類について、その書類に代えて株主関係図に記載事項を埋めたもので代用が出来ることになる

Ⅵ 電子帳簿保存制度

1.電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度の見直し

電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度について要件の緩和が行われました。

【検索要件を不要とする措置】

下記のいずれかの場合において、税務調査等の際にデータのダウンロードに応じることが出来る場合には、検索要件を不要とされます。

■ 判定期間における売上高が5000万円以下である場合

■ 出力書面が整然かつ明瞭な状態で、取引年月日や取引先ごとに整理がされている場合

【出力書面での保存について猶予措置について】

令和4年1月~令和5年12月までの期間については、税務署長がやむを得ない事情があると認め、税務調査等の際に整然かつ明瞭な状態で出力された書面の提示が可能であれば、書面での保存が認められていました。従前にプラスして、電子保管対応が出来ないことに相当の理由があり、データのダウンロードの求めにも応じることが出来るようにしておけば、電子帳簿保存の要件が充足されることになります。

つまり、実質的にはほぼ紙保管が認められることになると考えます。

2.その他

優良電子帳簿の範囲の見直し

優良電子帳簿の範囲が以前は全ての帳簿であったが、「その他必要な帳簿」について一定の補助帳簿に限るものとなりました。具体的には、売上帳、仕入帳、経費帳、売掛帳、買掛帳、手形記入帳、貸付帳、借入帳、未決済項目に係る帳簿、有価証券受け払い簿、固定資産台帳、繰延資産台帳などです。

【スキャナ保存制度の見直し】

国税関係書類について、下記の要件緩和がされることになりました。

■ 解像度や大きさなどの情報について保存要件が廃止

■ 入力者等情報の確認要件が廃止

■ 相互関連性の保持要件が契約書や領収書等の重要書類に限定

Ⅶその他の納税環境整備

1.高額な無申告に対する無申告加算税の割合の引上げ

納付すべき税額が300万円を超える場合には、超える部分の無申告加算税の割合を30%に引き上げることになりました。(現行では、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%)

また、更正の予知がない場合の期限後申告等については、300万円を超える部分の無申告加算税の割合を25%に引き上げることになりました。(現行では、50万円までは10%、50万円を超える部分は15%)

2.一定期間繰り返し行われる無申告行為に対する無申告加算税等の加重措置の整備

3回連続で期限後申告が行われる場合には、無申告加算税を10%加重する措置が取られることになります。

Ⅷ 次年度以降に持ち越しがされたもの

1.外形標準課税のあり方

資本金を1億円以下に減資すると外形標準課税の課税から逃れることが出来るため、以前と比べて課税対象となる法人数が3分の2まで減っているようです。外形標準課税の対象から外れている実質的な大規模法人については、制度の見直しを今後に検討する方針です。

2.マンションの相続税評価について

マンションについては、市場での売買価格と通達による相続税評価額に大きく乖離が見られるケースがあり、適正化について今後に検討をする方針です。

3.防衛力強化に係る財源確保のための税制措置

日本国の防衛力強化を目的として、安定的な財源を確保するために、令和6年以降に適切な時期で下記の内容で措置が講じられる予定です。

■ 法人税 法人税額に対して税率4~4.5%の付加税を課す

■ 所得税 所得税額に対して税率1%の付加税を課す

■ 復興特別所得税 課税期間を延長したうえで、税率を1%引き下げる

■ たばこ税 3円/1本相当の引き上げを行う


【インボイス制度】独禁法・税法の検討事項と課題点

こんにちは。税理士の山田です。

 

今回は2023年10月より開始するインボイス制度の概要と課題点についてまとめていきたいと思います。(2022年9月21日時点の開示情報の基づいて作成してあります。)

 

今の状態でインボイス制度の仕組が開始すると経済では大きな混乱が起き兼ねないと考えております。そのため偉そうなことを申し上げますが、現状の制度の課題点をまとめてみました。税務に限らず取引価格の決定においても独占禁止法の取扱いが曖昧であり、私見も交えて会社がとるべき方向性を整理してみました。

 

また、デジタル庁も参画する中で「Peppol」(※)をベースとした電子インボイスのプラットフォームも開始する予定です。その中でインボイス制度がデジタル化に対応しきれていなければ、結局のところ現場ではアナログ対応が必要になってしまい、日本全体のデジタル化を著しく阻害すると考えています。

※「Peppol」とは、電子文書をネットワーク上でやり取りするための「文書仕様」「ネットワーク」「運用ルール」に関するグローバルな標準仕様です。

 

本記事の内容が制度の改正や国が方針を明確にしていく一助となりましたら幸いです。

ただし、何度も申し上げますが、完全に私見を交えている内容である点をくれぐれもご留意ください。

 

 

1.消費税とインボイス制度について

① 消費税制度の概要

預かった消費税から払った消費税を控除して差額を納付、これが消費税制度の大原則です。

払った消費税を控除する制度を仕入税額控除といいます。現行制度の仕入税額控除では、免税事業者に対して支払った消費税までも控除が可能でした。

(出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要パンフレット(令和3年7月)」)

 

例えば下記の例でいうと、卸売業者が免税事業者であれば、製造業者の消費税5,000円小売業者の消費税3,000円しか納付がないため、国は消費税の税収が8,000円になってしまい、国は2,000円を損することになります。

(出典:国税庁「適格請求書等保存方式の概要パンフレット(令和3年7月)」)

 

② 適格請求書保存方式(いわゆるインボイス制度)の概要

インボイス制度のポイントを箇条書きにしてみます。

■ 原則、適格請求書等の保存がなければ仕入税額控除が受けられない(例外あり)

■ 適格請求書等は「適格請求書発行事業者」との取引でしか発行されない

■ 「適格請求書発行事業者」になるには税務署長の登録を受けることが必要

■ 「適格請求書発行事業者」は消費税の課税事業者が強制される

■ 3万円未満の交通料金、自販機、郵便代、など一定の場合には、適格請求書等の保存は不要

■ 経過措置で一定期間は免税事業者からの仕入でも一部(50~80%)の仕入税額控除が可能

(出典:国税庁「適格請求書等保存方式リーフレット(令和4年7月改訂)」)

 

※インボイス制度の詳細な内容については、こちらの記事も是非参考にしてください。

適格請求書保存方式(インボイス制度)の概要

 

2.インボイス制度の課題点<独禁法・下請法編>

① 免税事業者との取引価格を引き下げて問題ないか?

課税事業者が免税事業者に作業を委託しているときに、従前は免税事業者からの請求であっても取引価格に消費税を上乗せすることが一般的でした。

例えば10万円の作業を委託した場合に、相手が免税事業者であっても消費税を請求して11万円を請求されることが通常です。これは支払側にとっては取引先が免税事業者であっても消費税の控除を受けることが出来た、つまりコストとしては税抜金額である10万円だけを負担する形になっていた上に、取引先が免税事業者であるかどうかを判断するすべもなかったためです。

ですが、インボイス制度が始まると免税事業者=「適格請求書発行事業者ではない事業者」ということですので、免税事業者から消費税を請求されると支払側の事業者が損をしてしまうことになります。そうすると、免税事業者に対して消費税相当の取引価格の引下げを求めることによって、自身の損を回避しようとすることが考えられます。この引き下げが法律上で可能かどうかについて検討してみます。

 

本件については、公正取引委員会の資料「インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え⽅」にて下記の事例が掲載されています。

 

また、同じく公正取引委員会の資料「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」のQ7に下記の記載があります。

Q&A(抜粋)

仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。

再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。

「仕入税額控除が制限される分」について、双方納得の上で引き下げを設定すればOKとあります。「仕入税額控除が制限される分」とあるのは本来では消費税の全額ですが、インボイス制度の経過措置で一定期間は80%ないしは50%の仕入税額控除が認められていますので、制限は段階的に20%⇒50%⇒100%となっていきます。

また、「免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格」の設定についても独占禁止法で問題になる可能性があると書いてあります。

引き下げ額について事例で考えてみましょう。前提として、免税事業者との取引価格は10万円(税込11万円)、免税事業者側の経費負担が6万円(税込6.6万円)と仮定します。

 

事例A 経過措置による仕入税額控除が取れる割合が80% 取引価格108,000円(税込)

a 従来の消費税額10,000円-引き下げ額2,000円=8,000円

b 制限後の仕入税額控除額 108,000円×10/110×80%=7,854円

c 免税事業者が負担していた消費税額 6,000円

(結論)上記aでbとcは内包されるため独占禁止法上とならない

 

事例B 経過措置による仕入税額控除が取れる割合が50% 取引価格105,000円(税込)

a 従来の消費税額10,000円-引き下げ額5,000円=5,000円

b 制限後の仕入税額控除額 105,000円×10/110×50%=4,772円

c 免税事業者が負担していた消費税額 6,000円

(結論)上記aよりcの方が大きいため独占禁止法上となる可能性がある

上記の事例はあくまでイメージであり、正しい計算方法が公表されているわけではありませんので、あくまでQ&Aから私見を交えて推察したものである点をご了承ください。また、実際のところは免税事業者が負担していた消費税額というのは知るすべはありませんので、上記のような判定を行うことも困難です。ではどのように考えればよいのでしょうか?

 

これも私見となりますが、業界平均のようなものがあればそういった数値を使う方法や、消費税の簡易課税制度において、業種ごとにみなし仕入れ率(サービス業であれば50%)が設定されておりますが、例えばこの割合を利用して判定する方法などが考えられます。

いずれにしても判断過程として出来うる限りの客観的な情報を残して判断をしておくことで、一定のリスクヘッジと取引先への納得感を持ってもらうことは出来るのではないかと考えます。

 

② 免税事業者との取引は停止して問題ないか?

課税事業者が免税事業者に作業を委託しているときに、免税事業者との取引は停止して問題ないかについて検討してみます。こちらについては、同じく公正取引委員会の資料「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」のQ7に下記の記載があります。

Q&A(抜粋)

事業者がどの事業者と取引するかは基本的に自由ですが、・・・免税事業者である仕入先に対して、一方的に、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格など著しく低い取引価格を設定し、不当に不利益を与えることとなる場合であって、これに応じない相手方との取引を停止した場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあります。 

上記のQ&Aから判断すると、「無条件で一方的に免税事業者との取引を停止する場合」「免税事業者との取引価格は消費税相当額を全額引き下げる要請をし、要請を受けない場合には取引を停止する場合」については、独占禁止法上問題となるおそれが考えられます。

取引価格を例えば、上記①の事例のように「仕入税額控除が制限される分」に応じて段階的に引き下げる場合(かつ免税事業者が負担していた消費税額を下回らないケース)のように段階的に消費税相当額を引き下げることを要請し、それに応じない場合の取引停止については、認められるのではないかと解されます。(あくまでQ&Aの記載のみからの判断です)

 

③ 課税事業者を要請して 問題ないか?

課税事業者が免税事業者に作業を委託しているときに、相手先に課税事業者になることを要請して問題ないか、について検討してみます。

本件については、公正取引委員会の資料「インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え⽅」にて下記の事例が掲載されています。

 

こちらについても、同じく公正取引委員会の資料「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」のQ7に下記のように詳しく記載があります。

Q&A(抜粋)

課税事業者が、インボイスに対応するために、取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請することがあります。このような要請を行うこと自体は、独占禁止法上問題となるものではありません

しかし、課税事業者になるよう要請することにとどまらず、課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、それにも応じなければ取引を打ち切ることにするなどと一方的に通告することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあります。

また、免税事業者が、当該要請に応じて課税事業者となるに際し、例えば、消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置く場合についても同様です

 

つまり、委託先の免税事業者に課税事業者を要請することは問題ないですが、課税事業者になる場合には、委託先の業者では消費税の負担が増加することになりますので、その負担が増える部分について取引価格への反映については検討の必要がありそうです。

 

④ まとめ

どの取扱いについても、一方的な通知については、独占禁止法上で問題になる可能性がありえますので、取引先との対話を重ねて取引価格の設定をしていく必要がありそうです。

完全な私見となりますが、上記にも記載した消費税の簡易課税におけるみなし仕入れ率を一つの参考地として捉え、下記のような対応をしておけば独占禁止法上においても問題になり難いのではないかと考えます。前提として、委託先はサービス業(消費税簡易課税のみなし仕入れ率は50%の業種)であるとします。

■ 免税事業者に対しては、経過措置に応じて段階的に取引価格を引き下げて経過措置(50%の控除期間)が終了した場合には、その後の引き下げについては個別検討を行う。

■ インボイス制度への登録要請に応じた課税事業者に対しては、最大で5%(消費税簡易課税制度におけるみなし仕入れ率50%である場合の消費税額の負担相当)まで価格の交渉には応じる。

 

ただ、この辺りの考え方についても認識のズレなどから混乱が生じることは容易に考えられますので、混乱が起きないように国の指針をより明確にして欲しいものであると考えます。

 

 

3.インボイス制度の課題点<税法編>

① クレジット経費

消費税法上においてクレジットの利用明細は、現行制度においても仕入税額控除の保存要件がある請求書等に当たらず、また改正後のインボイス制度においても適格請求書等に当たりません。

ただし、現行制度では、税込支払額が30,000円未満の場合には、請求書等の保存を要せず、帳簿の保存のみでよいために、クレジット決済を利用した経費について、消費税法上は30,000円未満のものは領収書の保存をする必要がありませんでした。(法人税法上は別の書類保存の規定がありますが、クレジット利用経費はクレジット明細があるため実質的に問題になり難いです)(※1)

だが、インボイス制度開始後は30,000円未満であっても全ての取引について適格請求書等の保存が必要となります。

インボイス制度においては、クレジットで使った経費についてまで、態々すべて領収書などを保管しなければいけなくなってしまい、非常に管理が煩雑となることが予想されます。対策として、①インボイス制度の例外として帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合(※2)があるが、これに30,000円未満の取引を追加する、②そもそもクレジット会社から発行する利用明細をインボイスとして認める、などを是非検討して貰いたいものであると考えます。

 

※1 国税庁 No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6496.htm

※2 国税庁 Q&A 問82 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf#page=116

 

② ETC利用料の証明書

ETCクレジットカードを利用して高速道路を利用した場合に、インボイス制度においては、「ETC利用証明書」(※3)が電子適格簡易請求書に該当することになり保管が義務づけられます。「ETC利用証明書」は電子データでの発行になるため電子帳簿保存法の対象となります。つまり、令和6年からは紙での検索機能などを備えた状態で電子データを保管しなければなりません。

例えば、運送業の社員などは、高速代立替分の精算にあたってETCの利用証明書を添付して精算をしたうえで検索機能まで兼ね揃えなければなりません。このような少額な取引についてまで、一つ一つのインボイスを保存することは非常に非合理であると考えます。

※3 ETC利用照会サービス 利用証明書の発行

https://www.etc-meisai.jp/tebiki/tebiki_03.html

 

③ インターネットバンキングの振込手数料

インターネットバンキングで振り込んだ際の振込手数料について、消費税の仕入税額控除を取るためには、適格請求書等の保存が義務になります。また、ATMでの手数料は自動販売機の特例で3万円未満は帳簿のみの保存で良いですが、ATM設置場所の住所を帳簿に記載する必要があります。

これらの対応をしなければならないのは非常に非効率です。そもそも振込手数料を払うような銀行において、インボイス制度の登録をしないような事業者は存在するのでしょうか。例えば、一定の大企業については、インボイス制度の登録を義務化して、継続的に適格請求書等の保存を無しに仕入税額控除を認めてほしいと考えます。

 

④ タクシー利用料金

年間売上が1000万円に満たない個人タクシーの運転手は適格請求書発行事業者として登録しないケースも多いと想定されます。

タクシーの利用料金を経費精算する場合に、適格請求書発行事業者として登録されているタクシー会社のタクシーであれば、利用料金のうち消費税相当について消費税の控除が可能ですが、適格請求書発行事業者の登録をしていない個人タクシーを利用してしまうと、消費税の控除が取れずに損をしてしまう状態になります。

上記の全てに言えることでもありますが、少額で影響が軽微な取引については、消費税の税収に与える影響も軽微であると思いますので、少額の領収書(例えば3万円未満)については、適格請求書等の保存を無しに仕入税額控除を認めるなどの措置を講じてほしいと考えます。

 

<参考サイト>

国税庁 インボイス制度の概要

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_about.htm

国税庁 インボイス制度に関するQ&A目次一覧

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/qa_invoice_mokuji.htm

公正取引委員会 免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A

https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/invoice_qanda.html

「消費税インボイス制度」と「バックオフィス業務のデジタル化」等に関する実態調査結果について

https://www.jcci.or.jp/news/jcci-news/2022/0908110000.html

 

<その他問題点 Twitterアンケート回答>

また、同問題点についてTwitterにおいて取ったアンケートの回答もいくつか抜粋して掲載をさせて頂きます。

■ インボイス登録事業者のリストが誰でもDL出来るのは問題ではないか?会社名や住所などがリスト化されているためDM業者のリストとして利用されてしまう可能性が考えられる。

■ 経理システムを導入している会社は社員が経費精算をするときに消費税コードなども登録をしているが、インボイスの取扱いが難しくて、混乱が生じる。社員と管理部門との軋轢がさらに開くのではないか?

■ 内職者もインボイス制度の対象になるので、現実的には適格請求書発行事業者の申請をして課税事業者として今後手続きをするのは困難であると考えられる。タダでさえ単価が安いのにさらに厳しくなる。


超速報!令和4年度(2022年度)税制改正大綱を徹底解説!

こんにちは。

税理士の山田です。

 

今回は令和3年12月10日に公表された『令和4年度(2022年度)税制改正大綱』の中から特に気になった項目を抜粋して解説をします。公表されたばかりの情報ですので、スピードと解り易さを重視して解説しております。正確性を担保するものではございませんので、予めご了承ください。内容に誤り等がございましたら随時訂正して参ります。

また、税制改正大綱は税制改正の素案となるものであり、おおむねこの通りの改正がされることがほとんどですが、100%確実ではございません。読みやすさを重視するために文中ではまだ予定であることを態々記載していませんが、確定事項ではない点はご理解ください。

 

なお、一部で話題になっていた『相続税と贈与税の一体化』については、今回の改正では織り込まれていません。引き続き検討を進めるようですが、早くても再来年以降の税制改正項目ということになりますので、改正のタイミングとしても早くても令和5年4月以降になります。

 

※令和4年度(2022年度)税制改正大綱についてはこちらをご覧ください。

https://www.jimin.jp/news/policy/202382.html

 

Ⅰ個人所得税課税(地方税含む)・源泉所得税

  1. 住宅ローン控除の改正

従前では令和3年において住宅ローンを組んで自宅を購入した場合に、借入限度額を5000万円(住宅の取得等が特定取得以外の場合は3000万円)として、住宅借入金の年末残高に対して1%の税額控除を10年間適用出来る取扱いとなっていましたが、令和4年以降も延長はするもの主に増税傾向となります。具体的には下記の表の取扱いとなります。

種類

居住年

借入限度額

控除率

控除期間

認定住宅等以外の居住用家屋の新築等

令和4年~5年

3000万円

0.7%

13年

令和6年~7年

2000万円

10年

認定住宅等以外の中古家屋の取得等

令和4年~7年

認定住宅(認定長期優良住宅と認定低炭素住宅)の新築等

令和4年~5年

5000万円

13年

令和6年~7年

4500万円

ZEH水準省エネ住宅の新築等

令和4年~5年

4500万円

令和6年~7年

3500万円

省エネ水準適合住宅の新築等

令和4年~5年

4000万円

令和6年~7年

3000万円

認定住宅等の中古家屋の取得等

令和4年~7年

3000万円

10年

※ 本税制の適用対象者はその年の合計所得金額が3000万円以下であることが要件となっていましたが、令和4年以降は2000万円以下が要件に引き下げられます。

※ 中古住宅の取得については、従来設けられていた築件数要件が撤廃される一方で、新耐震基準に適合する住宅であることが要件となります。

 

控除率が下がるのは住宅ローンの金利が大幅に下がりいわゆる逆ザヤ状態になってしまっていたためにそれを解消する措置となります。つまり、住宅ローンの変動金利が0.5%を下回ることも珍しくなくなってしまうほどの低金利であり、支払う住宅ローンの金利よりも本税制の控除額の方が多くなってしまうという現象が生じてしまっていたためとなります。

従前の新型コロナ税特法においては一定の条件で借入限度額を5000万円、控除率1%、控除期間は13年間とする取扱いが令和4年まで可能ですが、その点は特に変更がないと思われます。(大綱に詳細はなし)

 

  1. 子会社等からの配当に係る源泉所得税を廃止

以下の会社からの配当については、所得税の源泉徴収を行わないこととします。適用時期としては、令和5年10月1日以降に支払いをすべき配当について適用されます。

・ 完全子法人株式等(100%保有の子会社)

・ 基準日に置いて直接保有する株式等の保有割合が3分の1超である子会社

 

  1. 配当が総合課税とされる大口株主の範囲を拡充

上場株式等の配当等については源泉分離課税が適用されるところですが、大口株主が受け取る配当についてはこの制度が適用されずに、非上場株式からの配当と同様の取扱いとして、20.42%の源泉徴収がされたうえで総合課税により確定申告が必要とされています。

従来はこの大口株主の範囲として、直接にその会社の発行済株式の3%以上が保有する方が対象となっていましたが、その方が支配関係を持つ同族会社がその会社の株式を持っている場合に、3%の判定に含めることになる予定です。この改正は、令和5年10月1日以後に支払うべき配当等について適用がされます。

なお、私見ですが3%の判定おいては分母である発行済株式総数に自己株式を含めて判定することになっており、この点についても本来は改正がされるべき点であると思われますが、今回の大綱には含まれていません。将来的に改正となる可能性は高い部分ではないかと考えます。

 

  1. 納税地の変更に関する届出書

納税地が変更した場合には、税務署長に届出書を提出するルールとなっておりましたが、令和5年以降については届出書の提出が不要となります。(個人消費税についても同様)

 

  1. 上場株式等の配当所得割に係る課税方式の改正

個人住民税において、特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得の課税方式を所得税と一致させることとなりました。恐らくですが、これは所得税と住民税について別々の課税方法を選択することで、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除額が所得税と住民税で不一致になってしまうことを防ぐ措置であると思われます。

 

Ⅱ資産課税

  1. 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税措置

適用期限(現行は令和3年12月31日)を令和5年12月31日までに延長し、限度額については下記の通りとなります。

・ 通常の住宅 500万円

・ 耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋 1000万円

 

  1. 非上場株式等に係る納税猶予の特例制度

特例承継計画の提出期限が現行は2023年3月末までとなっていますが、1年延長してい2024年3月末までとなります。

 

  1. 添付書面等記載事項の提供方法の見直し

相続税の申告書の添付書類の提供方法に、光ディスク及び磁気ディスクが追加されました。相続税の申告書の添付書類は膨大な量となりますが、電子申告の添付データについては容量が限られているために取られた措置であると推察します。

 

  1. 財産債務調書制度等の見直し

まずは提出義務者が拡大され、現行の提出義務者にプラスでその年の12月31日において有する財産の価額の合計額が10億円以上である居住者が追加されました。

一方で提出期限については、現行は翌年の3月15日までとされていたものが翌年の6月30日に延長がされました。こちらの改正は国外財産調書についても同様の改正となります。

 

Ⅲ法人課税(地方税含む)

  1. 人材確保等促進税制の改正(いわゆる大企業向け)

従来の人材確保等促進税制を改正し、下記の変更が行われます。対象となる給与額の計算については、令和3年3月31日以前の開始事業年度に対する取扱いに戻る形になると思われます。(この1年間は一体なんだったのか・・・)

改正項目

現行

改正

適用期間

令和3年4月1日から令和5年3月31日までに開始する事業年度 令和4年4月1日から令和6年3月31日までに開始する事業年度

適用要件

新規雇用者給与等支給額(※)が、前年度より2%以上増えていること

※    国内新規雇用者のうち雇用保険の一般被保険者に対してその雇用した日から1年以内に支給する給与等の支給額

継続雇用者給与等支給額(※)が、前年度より3%以上増えていること

※    当期及び前期の全期間の各月分の給与等の支給がある雇用者で一定のもの(おそらく雇用保険の一般被保険者)に対して支給する給与等の支給額

控除額計算

控除対象新規雇用者給与等支給額(※)の15%

※    国内新規雇用者に対してその雇用した日から1年以内に支給する給与等の支給額

控除対象雇用者給与等支給増加額(※)の15%

※    明記されていないが、おそらく役員と役員親族以外の全従業員に対する給与等の支給額についての前年からの増加額

上乗せ措置

①教育訓練費の額が、前年度より20%以上増えている場合には、税額控除率を5%加算

 

①継続雇用者給与等支給額の増加割合が4%以上である場合には、税額控除率を10%加算

②教育訓練費の額が、前年度より20%以上増えている場合には、税額控除率を5%加算(変わらず)

教育訓練費の明細書

確定申告書の添付 会社保管

※ 資本金の額が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1000人以上である場合には、一定の事項を経済産業大臣に届出が必要

※ 人材確保等促進税制について

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/syotokukakudaisokushin/syotokukakudai.html

 

  1. 所得拡大促進税制の改正(中小企業者限定)

従来の所得拡大促進税制を改正し、下記の変更が行われます。

改正項目 現行 改正
適用期間 令和3年4月1日から令和5年3月31日までに開始する事業年度 令和4年4月1日から令和6年3月31日までに開始する事業年度
上乗せ措置 雇用者給与等支給額の増加割合が2.5%以上であり、次のいずれかに該当する場合は税額控除率を10%加算

①教育訓練費の額が、前年度より10%以上増えている場合

②経営力向上計画の認定を受けて、かつ証明がされた場合

①雇用者給与等支給額の増加割合が2.5%以上である場合には、税額控除率を15%加算

②教育訓練費の額が、前年度より10%以上増えている場合には、税額控除率を10%加算

※ 所得拡大促進税制について

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudai.html

 

  1. 大企業向けの税額控除制限措置の改正

大企業向けの研究開発税制等の特定税額控除規定の適用を受けることができないこととする措置について要件が改正されます。資本金の額が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1000人以上である場合で、かつ、前年度の課税所得金額がプラスであるときについては、継続雇用者給与等支給額の前年からの増加割合が1%以上(令和4年4月1日から令和5年3月31日までに開始する事業年度は0.5%以上)でなければ、特定税額控除規定の適用を受けることが出来ません。

 

  1. みなし配当の計算について

資本の払い戻しに係るみなし配当の額の計算について、払戻等対応資本金額等はその払い戻しにより減少した資本剰余金の額を限度とすることになりました。(従前は取扱い無)

また、種類株式を発行する法人の資本の払い戻しに係るみなし配当の額の計算について、種類資本金額を基礎と計算することになりました。(従前は取扱い無)

 

  1. 少額資産の損金算入制度について貸付用資産を除外

下記の規定について貸付の用に供する資産を対象から除外します。ただし、主要な事業として行われるものを除きます。

・ 少額の減価償却資産の取得価額の損金算入制度(10万円未満の少額資産)

・ 一括償却資産の損金算入制度(20万円未満の一括償却資産)

・ 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例(30万円未満の少額資産)

 

  1. グループ通算制度の投資簿価修正の改正

グループ通算制度ではグループ離脱時の、通算子法人株式の譲渡原価の計算を税務上の簿価純資産を元に計算するような仕組みとなっていましたが、これでは子法人買収時の買収プレミア相当額を税務上の損金として算入出来なくなってしまうことが問題視されていましたが、改正が行われました。

改正としては、グループ離脱時における各法人の確定申告において一定の計算明細を添付することで、子法人株式の帳簿価額に資産調整勘定等対応金額を加算するような調整計算が行われます。資産調整勘定等対応金額とはグループ通算開始時に時価取得をしたその子法人株式の取得価額のうち、仮にその時点で合併をしたものとした場合における資産調整勘定又は負債調整勘定相当額とされています。

個人的な意見として、負債調整勘定相当額が調整計算に含まれているのは、買収時の負ののれん相当額が離脱時に損金に算入されることを防ぐ措置であると思われますが、そもそもの取扱いが明細書の添付を要件としている規定となっており、不利な取扱いの場合には明細書の添付をあえてしないことで課税を免れることが出来るのか否か、という点が気になる点となります。

また、グループ離脱時の時価評価資産の取扱いで、帳簿価額が1000万円未満である資産については時価評価資産から除外されていますが、営業権については帳簿価額が1000万円未満であっても除外されないことになりました。

 

  1. ソフトバンクグループ対策税制の改正

ソフトバンクグループ対策税制とは、50%超の支配関係がある子会社からの配当を適用対象として、その株式等の簿価の10%を超える配当が行われた場合に、株式の簿価の切り下げを行う措置となります。ただ、適用除外要件として下記のような配当については対象から除外されます。複雑な制度となりますが、詳細は割愛しております。

① 設立以来90%以上国内資本のみの内国法人からの配当

② 買収後に発生した利益剰余金からの配当

③ 10年超支配継続している会社からの配当

④ 2000万円以下の配当

また、適用回避防止規定として、子法人が一定の孫法人(適用除外要件の①か③を満たす法人以外である法人)から1事業年度中に受ける配当等の額が、孫法人株式等の帳簿価額の10%を超え、かつ、2000万円を超える場合には、適用除外要件を満たさない措置が従来から取られています。

このソフトバンクグループ対策税制として、下記の2点の改正が行われます。こちらは令和2年4月1日以後の開始する事業年度から遡って適用するようです。

① 一点目として、上記適用除外要件の②について、従来は特定支配日の直前事業年度から配当決議等の直前事業年度までの利益剰余金額の増加額が配当金額を超えている場合には適用除外とされる措置が取られていました。ただし、このルールでは『配当決議等の直前事業年度から配当決議等までの間に増減した利益剰余金額』を原資として配当した場合には、適用除外要件を満たすことが出来ないことから、一定の書類保存を要件として上記の金額を計算に反映させることが可能となります。ただし、その場合には『特定支配日の直前事業年度から特定支配日までの間に増減した利益剰余金額』についても調整が必要となります。

② 二点目として、適用回避防止規定については孫法人が以下の要件を満たす場合には適用しないこととします。つまり、子法人は適用除外要件を満たせば本税制の適用を回避出来ます。

・ 配当等の基準時以前10年以内に子法人との間に特定支配関係があった孫法人の全てが、孫法人の設立時からその基準時まで継続してその子法人の特定支配関係にあった場合

・ 親法人と孫法人の間に、その孫法人の設立時から孫法人から子法人への配当等の基準時まで継続して親法人による特定支配関係がある場合で、かつ、その基準時以前10年以内に孫法人との間に特定支配関係があったひ孫法人の全てが、ひ孫法人の設立時からその基準時まで継続してその孫法人の特定支配関係にあった場合

 

  1. 大法人に対する事業税所得割の税率の見直し

外形標準課税適用法人については、令和4年4月1日以後の開始事業年度から軽減税率適用法人に該当しないことになり、所得割の標準税率は一律で1%となりました。

 

Ⅵその他

  1. 隠蔽仮装行為があって確定申告書が提出された場合等の措置

隠蔽仮装行為があって確定申告書が提出された場合や確定申告書の提出が無い場合には、帳簿書類や明らかな証拠書類等が無い限りは、その明らかなエビデンスが準備出来ない経費については損金の額に算入しないような措置が取られるようです。これは証拠書類が無い場合に調査で水掛け論になることを防ぐために取られた措置であると思われます。

 

  1. 修正申告書や更正の請求書の記載事項の整備

修正申告書や更正の請求書の記載事項より、申告前又は更正前の「課税標準等」「納付すべき税額の計算上控除する金額」「還付金の額の計算の基礎となる税額」を除外することになりました。これにより様式が簡略化されると思われます。

 

  1. 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存の宥恕措置

電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度について、令和4年1月~令和5年12月までの期間については、税務署長が保存できないことにつきやむを得ない事情があると認め、保存義務者が税務調査を受けた際に印刷した書面の提出が出来る状況にある場合には、保存要件を満たすこととなります。この趣旨としては、保存要件への対応が困難な事業者の実情に配慮し、税務署長への手続きを要せずに出力書面等による保存を可能とするためのものである旨が大綱に明記されています。

ここからは私見となりますが、上記の『税務署長が保存できないことにつきやむを得ない事情があると認め』という部分については全ての法人について(又は中小企業限定か)、一律でやむを得ない事情があると認めるものと考えます。つまり、法律が施行された後に国税庁よりその旨の案内がされるのではないかと推察します。そうでなければ、上記の大綱の趣旨にそぐわないと考えます。

 

  1. 消費税の適格請求書等保存方式に係る見直し

免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に適格請求書発行事業者の登録を受ける場合には、その登録日から発行事業者になれるような措置が取られます。また、この適用を受けて登録日から課税事業者となる適格請求書発行事業者については、2年間は課税事業者が強制される措置が取られるようです。

※ 本制度の概要については当社の別記事をご確認下さい。

適格請求書保存方式(インボイス制度)の概要

 

  1. 税理士制度の見直し

税理士事務所に該当するかどうかの判定について、設備又は使用人の有無等の物理的な事実により行わないことにするようです。リモートワーク等の柔軟な対応が出来るようにすることへの配慮であると思われます。

また、税理士試験の会計科目(簿記論と財務諸表論)の受験資格について、不要となります。つまり、高校生や大学低学年であっても会計学の試験は柔軟に受検が出来るようになると思われます。これは令和5年の試験から適用がされるようです。個人的には業界の発展のために非常に嬉しい改正です。


適格請求書保存方式(インボイス制度)の概要

こんにちは。

税理士の大塚です。

 

令和3年10月1日より適格請求書(インボイス)発行事業者の登録がスタートしました。

適用開始は令和5年10月1日からであり、まだ先の話ではありますが、現在の情報を基に、制度概要を解説します。

 

1 インボイス制度の概要

 

適格請求書とは、売手が買手に対して正確な適用税率や消費税額を伝えるための手段であり、一定の事項を記載した請求書や納品書その他これらに類する書類を言います。

請求書、納品書、領収書、レシート等、名称は問われません。

 

インボイス制度が開始されると、消費税の仕入税額控除の要件に適格請求書の保存が入りますので、適格請求書がなければ仕入税額控除が取れなくなります。(経過措置があります。)

 

現在は取引内容から消費税の課税仕入れになるかを判断して仕入税額控除を取っていますが、将来的には適格請求書があるか否かで判断をすることになります。

従って、インボイス制度は消費税の仕入税額控除に関する改正になります。

 

逆に売手側の立場からすれば、取引先から適格請求書の発行が可能かどうかの確認を受けたり、発行を依頼されたりといったことが想定されます。

 

適用時期:令和5年10月1日開始

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

2 登録制度

消費税の課税事業者が適格請求書を発行する為には、事前に税務署長に申請して適格請求書発行事業者として登録する必要があります。

令和3年10月1日から登録受付が開始されています。

 

制度開始である令和5年10月1日から適格請求書を発行できるようにする為には、令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。

なお、特定期間の判定により課税事業者となる場合は令和5年6月30日までが期限となっています。また、期限までに困難な事情がある場合は、令和5年9月30日までに提出して税務署長により登録を受けた際には令和5年10月1日に登録を受けたこととみなされます。

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

3 免税事業者が登録を受ける場合

現在免税事業者である事業者が、インボイス制度開始である令和5年10月1日の属する課税期間中に登録を受ける場合、登録日から課税事業者になる経過措置が設けられています。

経過措置を受ける場合は、課税事業者選択届出書の提出は不要です。

 

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/300416.pdf

 

※9月30日時点の棚卸資産は棚卸資産の調整対象になります。

※経過措置期間に簡易課税を受けたいときは、その課税期間終了までに簡易課税度の選択届出書を提出すれば適用可能です。

上記ケースの場合、令和5年12月末までに届出書を提出すれば簡易課税を選択することができます。

 

課税事業者を選択して課税事業者になり、適格請求発行事業者として登録したい場合は、その課税期間の初日の前日から起算して1月前の日までに登録申請書を提出しなければなりません。

つまり前期末まではなく、前期末の1月前までに検討が必要になりますので注意が必要です。

 

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/300416.pdf

 

4 新設法人

設立事業年度末日までに、事業を開始した日の属する課税期間の初日から登録を受けようとする旨を記載した登録申請書を提出すれば、設立事業年度開始の日に登録を受けたとみなされます。つまり遡っての登録が可能です。

 

ただし、遡っての登録となる場合、登録される期間までは適格請求書は発行できませんので、取引先への説明や登録することになった際の請求書の再発行など、事後対応が煩雑になることが予想されます。いつから登録するかは、現実的には早めの選択が求められると考えられます。

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

5 登録の取りやめ

登録を取りやめたい場合は、取り消しを求める届出書を税務署長へ提出する必要があります。

この場合、届出を提出した翌課税期間から効力が発生しますが、提出のあった日の属する課税時間の末日から起算して30日前の日から、末日までの間に提出した場合は翌々課税期間から効力が発生します。

 

従って、翌課税期間から取りやめようとする場合は、課税期間末日までではなく、末日から30日前までに届出書を提出しておく必要が出ます。

 

 

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

なお、適格請求書発行事業者は基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも免税事業者にはなりませんので、免税事業者にするつもりで登録の取りやめを行う場合は課税期間末日から30日前という期日に注意が必要です。

また、課税事業者を選択して課税事業者となり、登録もしている事業者が免税に戻りたい場合には、「登録の取りやめ」と「課税事業者選択不適用届出」の両方を提出する必要があります。

いわば二重にロックが掛かっている状態ですので、両方を解除することが必要です。

 

6 登録番号

登録番号は法人、個人別に下記のように定められています。

 

法人:T+法人番号

個人:T+数字13桁

※通知を受けた登録番号は変更不可

※相続で事業を引き継いだ場合は、相続人は改めて登録する必要あり

※インボイス制度開始前に請求書に登録番号を記載することは特段問題なし

 

7 公表

適格請求書発行事業者は国税庁HPに情報が公表されます。具体的には、氏名、名称、本店住所、登録番号、登録年月日などです。

個人事業主の場合、本人申請により屋号なども加えることができます。

公表情報に変更が生じた場合は、「適格請求書発行事業者登録簿の登載事項変更届出書」の提出が必要となります。

 

8 適格請求書の記載事項

適格請求書の記載事項は下記の表の通りです。

なお、小売業、飲食業、タクシー業など不特定多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合には、適格請求書に代えて適格簡易請求書の交付が可能です。

適格簡易請求書は、⑥の書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称が不要になる等、簡略化されたものです。なお、消費税額の端数処理は一つの適格請求書ごとに行う必要があります

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

適格請求書 記載例

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/300416.pdf

 

9 登録日から通知を受けるまでの取り扱い

登録申請から通知を受けるまでの間に請求書などを発行しなくてはならないケースも想定されます。

この場合、通知を受けるまでは適格請求書は発行できませんので、通知を受けた後に改めて適格請求書の交付が必要となります。

また、登録番号のみなど、不足する事項を相手方に書面等で通知することでも可能となりますが、既に交付した書類と相互の関連を明確にする必要があります。

 

10 適格請求書の例示

⑴仕入側が作成する書式でも記載事項が含まれていれば問題はありません。

例えば販売奨励金を支払う側が明細を作成するような場合

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

例えば仕入明細書を仕入側が作成して売手に送付している場合

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

⑵適格請求書を頭紙として、納品書を別紙のようにする形式でも問題ありません。

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

11 通常の取引で良くあるケース

⑴立替金

下図の例の場合、C社からB社への適格請求書のみですとA社は仕入税額控除を取ることができません。

B社から立替金精算書等により、A社のものであることが明らかにされる場合には可能です。

この場合、B社が適格請求書発行事業者以外であっても、C社が適格発行事業者であれば仕入税額控除を取ることができます。

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-01.pdf

 

⑵家賃口座振替

契約書に適格請求書として必要な記載事項の一部が記載されており、取引を行った事実を客観的に示す書類とともに保存があれば仕入税額控除は可能となります。

例えば、契約書(課税資産の譲渡等の年月日以外は記載あり)+通帳の写し(課税資産の譲渡等の年月日に相当)を併せて保存するといった対応が考えられます。

なお、令和5年9月30日以前からの契約については、適格請求書の記載項目のうち不足している事項の通知を受け、契約書と一緒に保存しておけば、改めて契約書を締結しなくても差し支えないとされています。

 

12 仕入税額控除 経過措置

基本は適格請求書、適格簡易請求書の保存が仕入税額控除の要件となりますが、経過措置として、以下の規定あり当面は全額控除できないわけではなく、部分的に仕入税額控除ができなくなります。合計6年間経過措置があり、段階的に仕入税額控除の金額が少なくなっていきます。

 

令和5年10月1日から令和8年9月30日まで :仕入税額相当額の80%

令和8年10月1日から令和11年9月30日まで:仕入税額相当額の50%

 

13 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるもの

適格請求書、適格簡易請求書がない場合であっても仕入税額控除が認められるものがあります。主なものは下記の通りです。

 

⑴公共交通機関の特例の対象として適格請求書が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送

→船舶、バス、鉄道。タクシーは入っていない。

→3万円は1回の取引で判定。複数人分を購入して3万以上の場合は対象外

⑵適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引

⑶古物営業を営む者の適格請求発行事業者でない者からの古物(古物営業者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

⑷質屋を営む者の適格発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

⑸宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

⑹適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入

→⑶から⑹は棚卸資産として購入する場合に限る為、固定資産は不可

⑺適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等

→コインロッカー、コインランドリーなども含む。

→ATMの振込手数料なども該当。

⑻郵便ポストに差し出された郵便切手類を対価とする郵便・貨物サービス

⑼従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)⑼

  

14 税額計算

インボイス制度の導入に伴い、消費税の計算方法も一部変わります。従前の方法も認められていますので、企業の体制と影響額などを考慮して決めることになるかと思います。

 

 <売上税額>

 原則:総額割戻し計算 (10%の場合。以下同じ)

税込金額 × 100/110 =課税標準額

課税標準額 × 7.8% =売上消費税額

 

特例:積上げ計算

発行する適格請求書等の消費税額の合計 ×78/100 =売上消費税額

 

<仕入税額>

原則:積上げ計算 

  • 請求書等積上げ方式

適格請求書等の消費税額の合計 ×78/100 =仕入消費税額

 

  • 帳簿積上げ方式

帳簿の仮払消費税額の合計 ×78/100 =仕入消費税額

一つの取引ごとに 取引金額×10/110=消費税額として集計する

 

特例:総額割戻し計算

税込金額 × 7.8/110 =仕入消費税額

 

・売上原則の場合、仕入は選択適用

・売上特例の場合、仕入は原則のみ(積上げのみ)

・売上併用の場合、仕入は原則のみ(積上げのみ)

 

売上は積上げ計算を行った方が切り捨ての関係から有利になります。

一方で仕入は逆に割り戻し計算を行った方が、仕入税額控除が大きくなり有利になります。有利になる方式同士を組み合わせる方法は認められません。

 

15 適格請求書発行事業者以外の事業者が請求書を発行する場合

適格請求書発行事業者の登録を受けていない事業者が、適格請求書と誤認される恐れのある書類を交付することは禁止されており、罰則規定も設けられています。

 

16 免税事業者の選択

免税事業者が適格請求書を出せないことで顧客離れにつながる可能性があります。例えば、同じタクシー代でも、適格請求書が発行できるタクシーとできないタクシーがあった場合、会社の経費としては仕入税額控除を取れる方が有利なので、金額が同じであれば適格請求書の発行ができるタクシーを選ぶのは自然なことです。

また、営業を行った際に適格請求書を発行できないので他社を選択されて取引に至らないというケースも想定されます。

 

現在は免税事業者で不自由がない場合でも、今後は課税事業者になることも選択肢として考えていく必要が出ると思われます。

 

国税庁 インボイス制度 Q&A

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_faq.htm

 


【社内勉強会④】消費税の簡易課税制度について学ぼう

 

こんにちは。スタッフの大滝です。

前回に引き続き、今回は消費税の簡易課税について整理していきます。

 

1 消費税の簡易課税制度とは

 

簡易課税制度とは、消費税申告の計算方法の一つです。

原則として、消費税は売上に係る消費税から仕入に係る消費税を差し引いて計算します。

それに対して、簡易課税の計算では、売上に係る消費税から売上に係る消費税にみなし仕入れ率を乗じた額を控除して、計算します。

つまり、簡易課税とは、仕入れに係る消費税を売上に係る消費税額から簡易的に求め、納める消費税額を計算できる制度です。

算式にある「みなし仕入れ率」とは、下図のように分類され、事業の種類によって適用される割合が定められています。

図にある通り、みなし仕入れ率は第1種事業~第6種事業に分かれており、それぞれ乗ずる割合が異なり、取引ごとに計算します。

複数の事業を行っている場合については、後のトピックスで整理します。

事業区分は、国税庁ホープページに記載されているフローチャートを参考いただくと、より理解しやすいと思います。

 

参考:国税庁ホームページ 簡易課税の事業区分について(フローチャート)

 

2 簡易課税制度の適用要件

 

前回の記事で、消費税の納税義務は、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合に、消費税の課税事業者と判定されると整理しました。

この場合は、自動的に課税事業者となり、選択の余地はありません。

一方で、簡易課税制度を選択する場合には、下記の適用要件があります。

 

⑴基準期間における課税売上高が5,000万円以下であること

⑵前課税期間末までに「消費税簡易課税制度選択届出書」(以降、選択届出書)を提出していること

 

図にあるように、2期目の期末までに選択届出書を提出すると、「翌課税期間以降の課税期間」から効力が発生するので、3期目から簡易課税となります。

 

例外として設立1期目の法人で、1期目に簡易課税を選択したい場合は、1期目の事業年度終了までに選択届出書を提出することとなります。

また、1期目から期首資本金、特定新規設立法人の要件で、強制的に課税事業者になっている場合でも、上記⑴⑵の要件を満たしていれば、簡易課税を選択できます。

 

一方で、簡易課税の選択を取りやめたい場合には、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」(以降、不適用届出書)を、その課税期間の初日の前日(=前期末)までに、所轄する税務署長へ提出します。

しかし、簡易課税制度を選択すると2年間は継続適用となるため、不適用届出書を提出できないこともあります。こちらは後のトピックで説明します。

 

3 複数の事業を行う場合における簡易課税の計算方法

 

先程、簡易課税を選択した場合の消費税の計算方法について整理しました。

この計算方法は、1つの種類の事業を行う企業に当てはまる原則的な計算方法です。

 

一方、世の中には複数の業種を行う企業も多々ありますので、特例の計算方法について、特例のケースごとに、原則と特例の計算方法を比較して、整理していきます。

なお、税額の計算については簡便法で計算します。

 

ケース①の場合は、卸売業が売上比率の75%以上を占めるので、

小売業の計算は、第1種のみなし仕入率(90%)で計算することができます。

結果として、原則で計算するより、特例の計算の方が、納税額は少なくなります。

 

ケース②の場合は、3種の事業を行っており、そのうち卸売業と小売業の合計が売上比率の75%以上を占めるので、それ以外の事業(この場合は、不動産業)は、卸売業と小売業のうち、低い方のみなし仕入れ率(小売業の80%)で計算することができます。

結果として、原則で計算するより、特例の計算の方が、納税額は少なくなります。

ケース③の場合は、複数の事業を行っていますが、その事業の比率が不明なので、卸売業(90%)と小売業(80%)のうち、低い方の80%で計算しています。

このように、特例を用いることで納税額が変わることもありますので、原則と特例の計算をシミュレーションする必要があります。

特例の計算方法を用いる際には、届出の提出などの提出の必要はありません。

 

4 簡易課税制度を選択する際の注意点

 

最後に、簡易課税制度を選択する場合に、あらかじめ検討しておく点について整理します。

 

⑴2年継続適用

簡易課税制度を選択すると、2年間は簡易課税が継続します。

つまり、2年間を通じて、原則課税のままでいくよりも、簡易課税を選択すると有利になるのかを判断する必要があります。

しかし、簡易課税の要件は「基準期間における課税売上高が5,000万円以下であること」なので、選択届を提出してから2年間のうちに、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える事業年度がある場合には、簡易課税は外れ、原則課税になります。

 

下図を例にすると、3期目は、基準期間(1期目)の課税売上高が5,000万円以下なので、簡易課税を選択できます。

通常であれば、2年継続適用により、4期目も簡易課税となります。

しかし、4期目の判定をする際に、基準期間(2期目)の課税売上高が5,000万円を超えているので、簡易課税の要件から外れ、4期目は課税事業者になります。

 

よって、簡易課税を選択しても、必ずしも2年連続で簡易課税の計算がされるとは限りません。

このケースでは、3期目が原則課税か簡易課税かで、有利になる方を選択すれば良いことになります。

 

⑵簡易課税制度の選択ができない場合

調整対象固定資産の仕入れ等を行ったことにより、消費税の納税義務の免除がされない期間については、消費税の簡易課税を選択することができません。

具体的には、課税事業者の選択をしている場合や、基準期間がない法人で期首資本金額が1,000万円以上の場合等において、調整対象固定資産の仕入れ等を行っているケースが該当します。

また、高額特定資産の仕入等を行ったことにより、消費税の納税義務の免除がされない期間についても、消費税の簡易課税を選択することができません。

 

5 最後に

簡易課税の選択をする場合には、原則として課税期間が始まる前に選択をする必要がありますが、将来の消費税をシミュレーションすることは非常に困難であると思います。

簡易課税はあくまで特例であり損得が発生します。

 

例えば、預かった消費税が100、支払った消費税が30でみなし仕入れ率が50%だとすると、原則課税の納税は70、簡易課税での納税は50になります。この場合には簡易課税の方が得をしますが、原則課税が損をしているわけではなく、キャッシュベースでは実際に70の消費税を預かっていることになりますので損得という考えは発生しません。

 

つまり、簡易課税は特例計算であり実際の取引を一部無視して計算する方法であるため、ギャンブル的な要素があります。どちらを選択するか迷われる場合には、原則に立ち返って原則課税を選択されることをお勧めします。


【社内勉強会③】消費税の納税義務について学ぼう

こんにちは。

スタッフの大滝です。

あっという間に入社して1年が経ちました。この1年で、様々なテーマで行われた勉強会を経験してきました。

早速ですが、第3回は消費税の納税義務について整理してまいります。

 

1 消費税の納税義務とは

 

第1回の社内勉強会の記事にて、消費税の基本的な仕組みについて整理しました通り、

消費税の特徴として、「事業者が申告・納付すること」が挙げられます。

第1回の記事はこちら

しかし、消費税は全ての事業者に対して納税義務があるわけではありません。

消費税の納付義務がある事業者を「課税事業者」、納付義務がない事業者を「免税事業者」と言います。

「課税事業者」と「免税事業者」の判定について、いくつかのパターンに分けて、整理していきます。

 

⑴基準期間による判別

①基本的な考え方

まずは、納税義務の判定に使う用語の意味を見ていきます。

 

課税期間…消費税の申告対象となる期間

基準期間…納税義務の判定基準となる期間

 

課税期間と基準期間について、法人と個人事業主のケースで、それぞれについて図にまとめました。

法人と個人それぞれ、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合に、消費税の課税事業者となります。

課税売上高とは、消費税がかかる売上の合計額 + 輸出取引等の免税となる売上の合計額を指します。

 

基準期間が課税事業者の場合には、税抜金額で1,000万円の判定を行い、免税事業者の場合は税込金額で1,000万円の判定を行います。

よって、基準期間が課税事業者か免税事業者のどちらなのか確認する必要があります。

 

②基準期間が1年未満の場合

消費税納税義務の判定をする際に、会社設立1期目や決算期の変更等により、基準期間が1年未満の場合が考えられます。

このように、基準期間が1年未満の場合は、原則として、1年相当に換算した金額により判定をすることになります。

具体的には、基準期間中の課税売上高を、基準期間に含まれる事業年度の月数で割った額に12を掛けて計算した金額により判定します。

例の場合では、調整計算をすると1期目の課税売上高は1,400万円となり、3期目は課税事業者という判定となります。

3期目になる法人は、基準期間である1期目が1年未満の場合が多いため、消費税の判定には留意する必要があります。

なお、個人事業主は、仮に年の途中で開業したとしても、上記の調整計算は行いません。

 

⑵特定期間

基準期間の判定で納税義務がない場合でも、特定期間の判定により納税義務が生じる場合があります。

特定期間とは、原則として前事業年度(下記の例だと1期目)の開始の日以後6ヶ月の期間を指します。

特定期間については、課税売上高と給与支払額のいずれかを選択して、その金額が1,000万円を超える場合には、その課税期間は課税事業者となります。

実務的には。課税売上高と給与支払額の両方が1,000万円を超えたら、課税事業者に該当すると整理しましょう。

特定期間の判定については、以下のようにパターン分けをして判定することができます。

なお、特定期間が7か月以下の場合は、特定期間の判定は不要となります。

詳しくは、国税庁ホームページをご覧ください。

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/22/10.htm

 

⑶基準期間がない場合

会社を設立して、1期目、2期目には、前々事業年度がないので、基準期間はありません。

しかし、基準期間がない事業年度であっても、以下の①、②いずれにも該当する場合は消費税の納税義務は免除されずに、課税事業者になります。

 

①期首の資本金または出資金の額が1,000万円以上の場合

…この場合の判定には、資本準備金は含みません。

よって、例として、1,500万円の出資で会社を設立しようとする場合、資本金の2分の1の金額までは資本準備金に積み立てることができますので、

資本金750万円、資本準備金750万円とすると、1期目は免税事業者となります。

また、資本金の額はそれぞれの期首の時点で判定するので、1期目が免税事業者であっても、増資をすることで、2期目は課税事業者になる場合があります。

 

②特定新規設立法人に該当する場合

…特定新規設立法人とは、平成26年4月1日以後に新規で設立した法人のうち、下記のAかつBに該当する法人を言います。

 

A その基準期間がない事業年度開始日に他の者によりその法人の株式等の50%超を直接又は間接に保有されている場合など一定の場合(特定要件)に該当すること。

 

B Aの判定の基礎となったその他の者及び他の者と特殊な関係にある法人のうち、

いずれかの者(判定対象者)のその新規設立法人の基準期間相当期間の課税売上高が5億円を超えていること。

 

簡単に図解するとこのようになります。

 

 

特定新規設立法人については、弊社のホームページ記事でも以前取り上げておりますので、こちらもご覧ください。

特定新規設立法人の記事はこちら

 

③特定期間

設立2期目は基準期間がありませんが、先ほど、⑵で整理した特定期間の判定で課税事業者になる可能性があるので、注意が必要です。

 

⑷その他

相続や組織再編があった場合、または高額特定資産(一つの取引単位の価額が1,000万円以上の固定資産)を取得した場合は、上記に限らず、課税事業者になる場合があります。

 

2 課税事業者の選択

 

今まで整理してきた内容は、要件に該当する場合に、強制的に課税事業者となる例でした。

一方で、免税事業者であっても、課税事業者となることを選択することもできます。

 

消費税は、売上に係る消費税から仕入に係る消費税を引いて計算した金額を納税します。

仕入に係る消費税が売上に係る消費税より大きい場合は、還付されます。

 

免税事業者の場合は、還付を受けることができませんが、課税事業者を選択することによって、還付を受けることができます。

 

課税事業者を選択する場合の手続きは、「消費税課税事業者選択届出書」を、適用しようとする課税期間の開始の日の前日(=前期末)までに、所轄する税務署長へ提出します。

なお、設立1期目の場合は、事業年度の終了までが提出期限となります。

 

一方で、免税事業者に戻りたい場合は、「消費税課税事業者選択不適用届出書」(以降、不適用届出書)を提出します。

 

一度、課税事業者を選択すると、不適用届出書を提出しない限り、課税売上高に関係なく、ずっと課税事業者となりますので、注意が必要です。

ただし、不適用届出書を提出するにあたり、いくつか注意点があります。

 

⑴2年継続適用

「消費税課税事業者選択届出書」を提出した課税期間の、翌課税期間の初日(設立1期目から課税事業者を選択する場合は、1期目の初日)から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ不適用届出を提出することができません。

つまり、2年間は課税事業者になります。

 

⑵調整対象固定資産の仕入等を行った場合

⑴の期間までに、調整対象固定資産の仕入等を行った場合には、その仕入れなどの属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出することができません。

つまり、調整対象固定資産を購入した課税期間から、3年間は課税事業者になります。

※期首資本金判定、特定新規設立法人の判定により、課税事業者となっている期間に調整対象固定資産を購入すると、同様に一定期間課税事業者が継続します。

 

調整固定資産とは、棚卸資産以外の資産で、建物、構築物、器具及び備品などの固定資産で、一つの取引単位の価額が100万円以上の固定資産を指します。

この一連の流れを図で整理してみます。

 

届出を提出するタイミングは、条文を読解すると難しく見えますので、このように図解しながら判定すると解りやすいと思います。

 

3 まとめ

 

法人や個人事業主が事業を行う際に発生する消費税は、私たちが日常生活で何気なく目にしている消費税とは考え方が異なります。

課税事業者となる条件を確認することは実務ではとても重要です。

1期目、2期目と創業まもない会社の場合には、基準期間がなくても課税事業者となる条件に該当しないか、今一度確認する必要がありますね。


生命保険にまつわる税務

 

こんにちは。
公認会計士の岸です。

 

ご家族にもしものことがあった場合に備えて、生命保険に加入されている方が多いのではないでしょうか。

この点、保険契約期間中は保険料の支払いや保険事故発生に伴う保険金の受取りなどが行われますが、

それぞれのタイミングで課税関係の検討が必要になります。

検討が不十分ですと、保険に関する処理で思わぬ税金の支払いが生じてしまった、ということにもなりかねません。

 

そこで、本記事では、個人、法人の生命保険にまつわる税務の概略をまとめましたので、

保険契約内容の現状確認や新規契約などにあたっての参考にご覧いただけますと幸いです。

 

1.保険期間中の流れ

 

保険期間中に発生するイベントは主に以下のようなものがあります。

保険事故の発生か、保険契約の解約、により保険契約は終了します。

それぞれのタイミングで課税関係の検討が必要となります。

 

 

2.保険契約の登場人物

 

保険契約には、「被保険者」、「保険料の負担者」、「保険金受取人」の三者が登場します。

 

一般の人に馴染みがあるのは、親が自身が亡くなった時のために子供のために保険を契約しているなどの

個人間の契約かと思いますが、法人として役員や従業員のために保険を契約する場合もあります。

そのため、保険契約はその主体が個人であったり、法人であったり、と個々のケースによって様々であるため、

保険の税務は複雑になります。

 

この三者の組み合わせによって、保険契約に関する課税関係が大きく変わってきます。

 

 

3.保険料支払時の課税関係

 

本節以降で、保険契約中に発生するイベントごとに課税関係を紹介していきます。

まずは、契約期間中に保険料を支払った際の税務です。

 

(1)所得税(個人)

 

個人の方が生命保険料を支払っている場合には、確定申告で生命保険料控除(所得税法第76条)を適用することができます。

 

詳しい計算方法の説明は割愛しますが、必ずしも支払った保険料の全額が控除されるわけではなく、

一定の限度額までしか控除が認められていません。

 

年末近くになると保険会社から保険種類や支払保険料をまとめた資料がご自宅に送付され、

年末調整にあたって資料の提出を行われている方が多いのではないでしょうか。

 

(2)法人税

 

法人が加入する保険には様々なタイプのものがありますが、ここでは基本的な保険種類である「養老保険」と「定期保険」の

取り扱いに絞ってご紹介していきたいと思います。

 

養老保険」とは、被保険者の死亡または生存を保険事故とする生命保険です。

いわゆる積立型の保険であり、お亡くなりになった際に生命保険金がおりるとともに、

いつ解約しても積み立てた額のうち一定額が必ず将来返ってきますので、貯蓄性のある保険といえます。

 

定期保険」とは、一定期間内における被保険者の死亡を保険事故とする生命保険、と定義されています。

いわゆる掛け捨て型の保険であり、養老保険とは異なり満期保険金が存在せず、

被保険者が亡くならない限りは保険金が支払われないことから、貯蓄性がない保険といえます。

 

特徴としては「養老保険」は積立がある分、保険料が高くなる傾向があり、「定期保険」は保障のみですので、

保険料は低くなる傾向があります。

 

また、以下でご紹介する保険料の法人税の取り扱いに関しては、実は法人税法上には明確な定めはなく、

国税職員内部の取り扱い指針である基本通達というものに、その詳細が定められています。

基本通達は法令ではないので、厳密には納税者を拘束するものではないのですが、

この基本通達に従って申告を行うのが実務になっています。

 

理解にあたっては、その保険契約によって誰が受益者となるか?によって課税関係が変わってくると考えると、

整理しやすいかと思います。

 

a.養老保険の取り扱い

 

養老保険を契約している場合の課税関係は以下の通りです。

養老保険は貯蓄性のある保険であることから、法人が受け取る保険金に対応する部分(保険料の半額)については、

資産計上が求められています。

 

 

b.定期保険の取り扱い

 

定期保険については、掛け捨て型の保険であり、養老保険とは異なり貯蓄性がないことから、

その全額について損金算入が認められています。

 

なお、定期保険には満期保険金が存在しませんが、契約期間途中で契約を解約した場合に

解約返戻金が発生するタイプのものがあります。

そのような定期保険に関しては、将来の解約時に戻ってくる返戻金部分については貯蓄性があるだろうということで、

基本通達では以下のように解約返戻率(支払保険料に対する解約返戻金の割合)という指標に基づいて定期保険を分類し、

税務上のルールを規定しています。

支払った保険料に対する解約返戻金の割合が高いほど、貯蓄性が高いものと考え、資産計上額が増加するイメージです。

 

(法人税基本通達9-3-5の2より抜粋)

 

(3)消費税(個人、法人)

 

消費税法上は、保険料は課税対象として馴染まないもの、非課税となっています。

個人の方が保険料を支払われている場合には、その保険料には消費税は課税されていないことになります。

また、法人が保険料を支払っている場合には、その保険料に関しては仕入税額控除が適用できないことに

留意する必要があります。

 

(4)その他(相続税、贈与税)

 

契約者が子供であるのに、その親が保険料を支払っている場合には、

実質的には親が契約者であるとみなされる可能性があることに注意する必要があります。

 

後ほどご説明させていただきますが、契約者と保険金受取人の関係によっては、

所得税が課税されるのか、相続税が課税されるのか、といった判定結果が大きく変わってくるため、

親が契約者であるとみなされると、課税関係が大きく変わるリスクがあります。

 

このリスクを回避するためには、一旦親の口座から子供の口座へ保険料相当額を振込み、

子供の口座から保険料を支払う方法が考えられます。

この時、子供の口座を実質的には親が管理している口座、すなわち名義預金として取り扱われないよう、

子供自身が通帳や印鑑を管理したり、親子間で保険料相当額の資金について贈与契約を締結することも考慮する必要があります。

 

4.保険名義変更時の課税関係

 

保険契約期間中、保険料の負担者や保険金の受取人を変更するなどの目的で、保険契約の名義変更を行うケースがあります。

パターンとしては、名義変更の対象となる部分(契約者、受取人)、変更前後の主体(個人、法人)によって、

実務上は主に以下のケースが想定されるかと思います。

 

(1)契約者の変更(個人→個人)

 

父親が契約者となって保険料を支払っていた生命保険について、契約者を子供に変更する場合が想定されます。

 

この場合には、契約変更時には贈与税などの課税関係は生じず、その後の保険事故が実際に発生した際に、

保険料負担者と受取人の関係に応じて課税されます。

(国税庁質疑応答事例「生命保険契約について契約者変更があった場合」,

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/14/05.htm)

 

なお、相続時の取り扱いを参考までにご説明しますと、相続により死亡保険金を子供が受け取る場合には、

その死亡保険金のうち、父親が支払っていた保険料の割合部分については相続税、

子供が支払っていた保険料の割合部分については所得税(一時所得)が課税されます。

 

(2)契約者の変更(法人→個人)

 

法人で契約していた保険を、役員などの個人に有償で契約譲渡する場合や、

退職金として現物支給する場合がケースとして考えられるかと思います。

 

以下では、社長の退職金として保険契約を現物支給する際の税務処理をご紹介します。

契約変更時の解約返戻金相当額に基づいて、課税処理が行われるイメージです。

 

(3)契約者の変更(個人→法人)

 

個人事業主の方が法人成りした場合で、従来の保険を法人向けの保険商品に切り替えるために、

一旦、名義変更で個人から法人へ契約を移し、その後保険の変更を行うケースが考えられるかと思います。

この方法のメリットは、保険の変更の際には、健康上に問題がある場合でも診査不要なケースがあることです。

 

以下では、法人が個人から、養老保険契約を解約返戻相当額で買い取る場合を想定します。

    

 

(4)保険金受取人の変更(法人受取→個人受取)

 

上記とは異なり、契約者は変えずに、保険金の受取人を法人から個人に変更するケースです。

 

以下では、【法人契約】、【死亡保険金(法人受取)】、【満期保険金(法人受取)】で契約していた養老保険を、

【死亡保険金(従業員、役員の遺族受取)】、【満期保険金(従業員、役員受取)】に変更する場合を想定します。

 

a.有償で保険契約を譲渡するケース

 

b.無償で保険契約を譲渡するケース

 

(5)保険金受取人の変更(個人受取→法人受取)

 

保険金の受取人を個人から法人に変更するケースです。

 

【法人契約】、【死亡保険金(従業員、役員の遺族受取)】、【満期保険金(従業員、役員受取)】で契約していた養老保険を、

【死亡保険金(法人受取)】、【満期保険金(従業員、役員受取)】に変更する場合を想定します。

 

この点、死亡保険金、満期保険金ともに、従業員、役員が従来の受取人であったことを想定しているので、過去に支払済の養老保険は全額給与として処理されているかと思います。

そのため、受取人の変更にあたっては特に課税関係は生じません。

 

5.保険解約時の課税関係

 

次に、保険契約を解約した場合の税務を見ていきます。

資金繰りの観点から保険料を支払えなくなった場合や、手元資金が早急に必要な場合などは、

保険契約の解約を検討されるケースがあるかと思います。

解約した場合に解約返戻金を受け取ることができる保険については、その返戻金に対して課税が生じます。

 

解約返戻金は契約者が受け取ることになります。

個人が受け取った場合と、法人が受け取った場合とに分けて、課税関係をご紹介いたします。

 

(1)個人が解約返戻金を受け取るケース

 

契約者と保険料負担者が同一の人である場合は、解約返戻金額から既に払い込んだ保険料を差し引いた金額が

一時所得として課税されます。

一方で、契約者と保険料負担者が異なる場合には、

保険料負担者から契約者(解約返戻金の受取人)に贈与があったものとして、贈与税が課税されます。

 

(2)法人が解約返戻金を受け取るケース

 

法人が解約返戻金を受け取った際の課税関係は下記の通りです。

 

6.保険事故発生時の課税関係

 

ここでは、保険の保障機能として、保険事故発生時に保険金が交付された場合の処理をご紹介いたします。

保険金の受取人が個人か、法人か、で分けて考えていきます。

 

(1)個人が保険金を受け取った場合

 

a.死亡保険金のケース

 

個人が死亡保険金を受け取った場合の課税関係については、以下の国税庁のHPが詳しいです。

(国税庁 タックスアンサー No.1750 死亡保険金を受け取った時,

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1750.htm)

 

国税庁のHPをもとに、各パターンの課税関係をまとめたものは下記の通りになります。

保険料の負担者と受取人の関係、及び一時金による受け取りか年金による受け取りか、で課税関係が変わってきます。

【パターン1】は、保険料を支払っていたその人自身が、保険金を受け取るケースです。

 

このケースでは、その保険料の受取人が所得税を課されることになりますが、

受取方法によって、一時所得か雑所得かに分かれます。

一時所得(一時金)の場合には、特別控除である50万円控除が適用できたり、最終的な所得税の計算では

一時所得の金額の1/2をもとに計算が行われるため、雑所得(年金)の場合と比べて、税務上のメリットが生じます。

 

【パターン2】は、被保険者と保険料の負担者が同一人のケースです。

 

この場合には、保険金受取人が、保険料を負担していた者から相続により保険金を取得したものとみなします。(相続税法第3条)

 

なお、一時金として受け取る場合には、相続税の1回のみで課税関係が終了しますが、

年金として受け取る場合には、相続年に相続税が課税された後、

翌年以降は毎年受取る年金受取額に対して所得税(雑所得)が課税されます。

この場合の雑所得の計算方法は、年々階段状に所得金額が増加していく特殊な計算方法を採用しており、

以下の国税庁のタックスアンサーにて詳細な計算方法が定められています。

(国税庁 タックスアンサー No.1620 相続等により取得した年金受給権に係る生命保険契約等に基づく年金の課税関係,

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1620.htm

 

【パターン3】は、被保険者、保険料の負担者、保険金の受取人、がすべて異なるケースです。

 

この場合には、保険料を負担していた者から、保険金受取人が保険金を贈与されたものとみなします。(相続税法第5条)

 

なお、こちらもパターン2のケースと同様、一時金として受け取る場合には贈与税の1回のみで課税関係が終了します。

一方で年金として受け取る場合には、贈与税に加えて、贈与年の翌年以後からの年金受取額に対して、

所得税(雑所得)が年々階段状に増加していくかたちで課税されます。

 

b.満期保険金のケース

 

個人が満期保険金を受け取った場合の課税関係については、以下の国税庁のHPが詳しいです。

(国税庁 タックスアンサー No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき,

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1755.htm)

 

国税庁のHPをもとに、各パターンの課税関係をまとめたものは以下の通りになります。

死亡保険の場合と同様に、保険料負担者と保険金受取人の関係、

及び一時金による受け取りか、年金による受け取りか、でパターン分けされます。

2年目以降の雑所得の計算方法は、死亡保険金の場合と同様ですので、詳細は割愛します。

 

(2)法人が保険金を受け取ったケース

 

法人が保険金を受け取った際の課税関係は以下の通りです。

 

7.その他

(1) 遺留分対策としての生命保険

 

民法では、遺留分の侵害額請求というものが認められています。

 

これは、遺言などによる遺産分割の結果、法定相続人の中に分割財産の取り分が少ない方がいる場合に、

相続財産のうち自己の法定相続分の1/2(相続人が直系尊属のみの場合は1/3)に相当する部分までの金額に関して、

金銭の支払いを請求することができるものです。

 

例えば、被相続人に子供が2人おり、そのうち1人とは仲が悪く疎遠であり、遺言で疎遠の子供へ財産を一切分割しないことを

定めた場合でも、その疎遠の子供は他の兄弟などの相続人に対して、金銭の支払いを請求することができます。

 

この点、生命保険金は相続財産ではなく、民法上は受取人固有の財産になると考えられているため、

原則は遺留分侵害額の計算の母数には含まれないというメリットがあります。

そのため、他の相続人に干渉されない財産として、生命保険を活用することができます。

 

(2)逆ハーフタックスプラン(逆養老保険)

 

上記3.節では、法人が契約者となる養老保険に関する取り扱いをご説明しました。

そのうち、【死亡保険金(従業員、役員受取)】、【満期保険金(法人受取)】、として基本通達で規定されている契約形態を、

以下のように保険金の受取人を逆にしたものを、逆ハーフタックスプランといいます。

逆ハーフタックスプランの契約形態については、基本通達上明確な定めはなく、実務上は、保険料の1/2を支払保険料として損金算入、残りの1/2を給与(又は福利厚生費)として損金算入する処理が行われています。

 

この結果、養老保険で資産計上している保険料部分についても損金算入が可能になるというメリットがあります。

 

ただし、この処理は基本通達で特段規定されていない処理であるために税務否認リスクがあること、

さらに保険料の1/2が福利厚生費ではなく給与扱いとなる場合には源泉徴収事務が発生するという点に注意が必要です。

 

実際は福利厚生プランというよりかはオーナー個人の保障という観点で保険契約をされている場合も多いかと思われます。

そのような場合には、福利厚生費ではなく給与として扱われ、保険料相当金額に関して源泉徴収されるケースが多くなるかと思います。

源泉徴収事務を回避するためには、毎月の保険料は役員貸付金として処理し、満期保険金を減資として

その貸付金をオーナーから返済してもらえば、源泉徴収事務は発生しません。

ただし、役員貸付金として処理する場合には、会社がオーナーから貸付に係る受取利息を徴収しなければならないことに

注意してください。

 

8.さいごに

 

今回は生命保険にまつわる税務をご紹介いたしました。

基本通達には上記以外の規定もあり、さらに実際に販売されている保険プランも多種多様なものがあります。

  まずは、本稿で基本的な生命保険の課税関係を整理していただき、保険契約の見直しなどにお役立ていただけますと幸いです。


債権の貸倒れと債権放棄に関する法人税務

こんにちは。

公認会計士の岸です。

 

新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、業績悪化や倒産の危機に直面している企業が

多いかと思われます。

取引先の企業がそのような状況に直面している場合には、取引先の資金繰りや支払能力からみて、

取引先に対する債権の回収が困難になるケースが増えてくるものと想定されます。

この点、法人が保有する債権に関する貸倒損失の計上については、いくつかのルールがあり、

そのルールを満たさない場合には貸倒損失の損金算入が認められないこともあるため、

慎重な検討が必要となります。

本稿では、法人が保有する債権が貸倒れたり、放棄されたりした場合の税務上の取り扱いをご紹介いたします。

 

1.法人税法上の貸倒損失の体系

実は、法人税法上は貸倒損失の取り扱いについての明確な規定はありません。

しかし、実際にどのような状況であれば債権が貸倒れたと判断するかどうかは、個々の債務者の事情などにも左右されるため、

非常に難しい作業となります。

そこで、国税庁内部における事務処理の指針を定めた法人税基本通達というものに、貸倒れの判定に関する取り扱いが

規定されています。

基本通達では、債権の貸倒れについて以下の3つの類型を規定しています。

2.貸倒損失かどうかの判定

基本通達において示されている貸倒れの類型をそれぞれ見ていきましょう。

 

 (a)法律上の貸倒れ(法人税基本通達9-6-1)

基本通達の文言を引用すると下記の通りです。

 

9-6-1 法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。(昭55年直法2-15「十五」、平10年課法2-7「十三」、平11年課法2-9「十四」、平12年課法2-19 「十四」、平16年課法2-14「十一」、平17年課法2-14「十二」、平19年課法2-3「二十五」、平22年課法2-1「二十一」により改正)

 

(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額

 

(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額

 

(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額

 

イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの

 

ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの

 

(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、

       その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

 

(1)~(4)の事実に該当する場合には、当該事実により切り捨てられた債権金額を損金の額に算入できることが定められています。

 

(1)~(3)の場合には、更生計画の認可による債権の切り捨てなど、法的整理手続を踏んで債権が切り捨てられた場合を想定しています。

債権が法的に切り捨てられたような状況にある場合には、誰の目から見ても債権が貸倒れたことは明らかであるため、

貸倒損失の計上を認めています。

 

一方、(4)の場合には、(1)~(3)とは異なり、債権が貸倒れたという事実ではなく債権放棄を行ったことを要件しています。

債権の「貸倒れ」ではなく債権の「放棄」であることから、もしその放棄が税務上の貸倒損失に該当しないとして否認された場合には、

取引先に対して何ら対価を受け取らずに債権回収を免除してあげたということで、税務上の寄附金として取り扱われる場合があるため、注意が必要です。

 

また、“その事実の発生した日の属する事業年度”において、損金に算入することとされていることにも注意が必要です。

例えば、過去に既に更生計画の認可などにより債権が切り捨てられている場合において、その切り捨てられた年度に債権金額を損金に算入していない場合には、その後の事業年度で債権金額を貸倒損失として損金に算入することはできません。

その事実が発生した事業年度の法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求により過去に遡って貸倒損失に関する税金を取り戻すことができます。

しかし、その債権の切り捨てから5年超を経過しているような債権については、その損失に係る税金を取り戻せないことに注意が必要です。

 

(b)事実上の貸倒れ(法人税基本通達9-6-2)

基本通達の文言を引用すると下記の通りです。

 

9-6-2 法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。(昭55年直法2-15「十五」、平10年課法2-7「十三」により改正)

 

(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。

 

(a)のケースとは異なり、法的整理手続による債権の切り捨てにまで至らない状況であっても、

債務者の資産状況、支払能力等という実態からみて、債権の全額が回収できないことが明らかである場合においては、

貸倒損失の計上を認めているものです。

「全額が回収できないことが明らか」の判定については、債務者の置かれている状況(破産、債務超過など)を具体的に分析し、

実質的な判断を行うことが求められることから、当該判定について税務当局と争いになることも多いです。

なお、債権について担保が提供されている場合には、その担保物の価値分はまだ債権の回収見込みがあると考えられるため、

担保物を処分するまでは貸倒損失を計上できないことに留意する必要があります。

 

(c) 形式上の貸倒れ(法人税基本通達9-6-3)

基本通達の文言を引用すると下記の通りです。

 

9-6-3 債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9-6-3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。(昭46年直審(法)20「6」、昭55年直法2-15「十五」により改正)

 

(1) 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)

 

(2) 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき

 

(注) (1)の取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。

 

こちらも、(b)と同様に債権の法的切捨てにまで至らない状態であったとしても、

1年以上弁済がない場合や、取立費用が債権総額を上回る場合には、実態としては債権の回収可能性が既にないものと考えて、

貸倒損失の計上を認めたものです。

経過年数(1年以上)や取立費用の大小などの形式的な要件が定められているため、いわゆる形式要件などと言われることがあります。

 

(a)、(b)のケースと異なり、対象となる債権が通常の営業活動から生じる売掛債権に限定されている点に注意が必要です。

例えば、貸付金や損害賠償請求権といった、通常の営業活動以外から生じている債権についてはこの規定の対象外となります。

 

また、「継続的な取引を行っていた債務者」であることが求められているため、仮に営業債権であったとしても、

単発の取引で生じた債権については基本的に適用対象とならないことに注意が必要です。

しかし、一般消費者向けのネット販売で、継続的に取引を行うことを期待して顧客情報を管理していたが

結果的に1回の取引しか発生しなかったようなケースには、この基本通達の適用が認められていますので

(国税庁質疑応答事例「通信販売により生じた売掛債権の貸倒れ」)、

その債権が置かれている状況に応じて、適切な判断を行う必要があります。

 

4.貸倒れ以外の債権放棄

基本通達9-4-1(4)の貸倒損失の要件である債権放棄について、税務上の貸倒損失に該当しないと判断された場合には、

その債権放棄は取引先に対する経済的な利益の供与として、原則として法人税法37条に定める寄附金として取り扱われます。

 

寄附金として扱われる場合には、債権放棄額のうち、寄附金の損金算入限度額として計算される一定の金額までしか、損金に算入することができません。

具体的には、債権放棄は一般寄附金というものに該当し、以下の算式によって損金算入限度額を求めます。

一見すると難しい計算式となっていますが、要するに利益が多く計上されていたり、資本金の額が多額である会社の場合には、

損金に算入できる寄附金の額が大きくなります。

 

 

5.寄附金として取り扱われない債権放棄

 

税務上の貸倒損失として認められなかった債権放棄であったとしても、寄附金としては取り扱われず、

その全額を損金に算入できるケースがあります。

 

(1)子会社等を整理、再建する場合の債権放棄等(法人税基本通達9-4-1、9-4-2)

基本通達の文言を引用すると下記の通りです。

 

(子会社等を整理する場合の損失負担等)

9-4-1 法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下9-4-1において「損失負担等」という。)をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ず(必要性)その損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。(昭55年直法2-8「三十三」により追加、平10年課法2-6により改正)

(注) 子会社等には、当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる(以下9-4-2において同じ。)。

 

(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)

9-4-2 法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等(以下9-4-2において「無利息貸付け等」という。)をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもの(必要性)で合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。(昭55年直法2-8「三十三」により追加、平10年課法2-6により改正)

(注) 合理的な再建計画かどうかについては、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について、個々の事例に応じ、総合的に判断するのであるが、例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として、合理的なものと取り扱う。

 

子会社や取引先など、事業関連性を有する者に対する債権放棄や無利息貸付について、

その債権放棄等をしなければより大きな損失を蒙ることが明らかな場合や、合理的な経営再建計画に基づく行為である場合には、

それが必ずしも経済的利益の供与に該当しないものとして、その債権放棄等の金額は寄附金の額に該当しないものとされています。

この点、経営再建計画等が合理的であるかどうかなどの判断を慎重に行う必要があります。

 

上記の要件を満たさない場合には、原則に戻って寄附金として取り扱われ、一定の損金算入限度額までしか損金算入が

認められません。

 

また、債務者が100%の支配関係がある国内の子会社に該当するようなケース(法人税法37条2項)や、

50%以上の支配関係がある海外子会社に該当するようなケース(租税特別措置法66の4条第1項)には、

その寄附金の全額が損金不算入となります。グループ会社に対する債権を放棄するようなケースには注意が必要です。

 

(2)新型コロナウイルスに関連する資金繰りの悪化(法人税基本通達9-4-6の2、9-4-6の3)

基本通達の文言を引用すると下記の通りです。

 

(災害の場合の取引先に対する売掛債権の免除等)

9-4-6の2 法人が、災害を受けた得意先等の取引先(以下9-4-6の3までにおいて「取引先」という。)に対してその復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間(災害を受けた取引先が通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間をいう。以下9-4-6の3において同じ。)内に売掛金、未収請負金、貸付金その他これらに準ずる債権の全部又は一部を免除した場合には、その免除したことによる損失の額は、寄附金の額に該当しないものとする。

 既に契約で定められたリース料、貸付利息、割賦販売に係る賦払金等で災害発生後に授受するものの全部又は一部の免除を行うなど契約で定められた従前の取引条件を変更する場合及び災害発生後に新たに行う取引につき従前の取引条件を変更する場合も、同様とする。(平7年課法2-7「六」により追加、令2年課法2-10「一」により改正)

 

(注)

 

1 「得意先等の取引先」には、得意先、仕入先、下請工場、特約店、代理店等のほか、商社等を通じた取引であっても価格交渉等を直接行っている場合の商品納入先など、実質的な取引関係にあると認められる者が含まれる。

 

2 本文の取扱いは、新型インフルエンザ等対策特別措置法の規定の適用を受ける同法第2条第1号《定義》に規定する新型インフルエンザ等が発生し、入国制限又は外出自粛の要請など自己の責めに帰すことのできない事情が生じたことにより、売上の減少等に伴い資金繰りが困難となった取引先に対する支援として行う債権の免除又は取引条件の変更についても、同様とする。

 

上記の基本通達は、従来、被災した取引先の債権の免除について、寄附金に該当しないことを定めていたものでした。

しかし、令和2年4月13日付の法人税基本通達の改正により、新型コロナウイルス等の感染症の影響に伴う取引先の資金繰りの悪化に

起因して行う債権の免除も、上記の通達の対象に含まれることが明確化されました。

この場合においても、その債権の免除が通達に定める事象に起因したものかどうか、因果関係などについて詳細な分析を行うことが

必要です。

 

6.消費税の取り扱い

過去に消費税が課されていた債権について、貸倒れの事実が生じた場合には、当該貸倒債権に係る消費税額を、

その貸倒れが生じた期の消費税額から控除することができます。(消費税法39条)

消費税法上の貸倒れの判定については、消費税法施行令59条、消費税法施行規則18条に具体的に定められていますが、

上記の法人税法基本通達9-6-1~9-6-3と内容に大きな差異はありません。

しかし、法人税法基本通達9-4-1,9-4-2により計上した子会社に対する債権放棄による損失などについては債権の放棄であるため、

あくまで貸倒損失には該当せず、資産の譲渡等にも該当しないため、消費税の控除ができないなど、消費税法上の貸倒損失に関する

取り扱いにも留意する必要があります。


【社内勉強会①】消費税の基本的な考え方を学ぼう

こんにちは。

スタッフの大滝です。

2020年6月にアンパサンド税理士法人に入社しました。

アンパサンド税理士法人では、社内勉強会という制度があります。

税理士事務所での仕事は未経験…そんな私が社内勉強会で税務や会計について学んだ知識を

「税務未経験者の視点 」でまとめた内容を掲載させていただきます。

現在、経理や税務に関わるお仕事をされている方、またはこれからお仕事に就く方へ向けて、お役に立つ内容となれば幸いです。

 

~社内勉強会とは~

毎月1回、テーマを変えて勉強会を行っております。

勉強会というと、堅いイメージがありますが、弊社の勉強会は職員が意見を交える場というイメージが合います。

税理士や会計士資格を持つ職員との意見交換や実務で感じた小さな疑問も解決でき、有意義な時間となります。

 

早速ですが、今回は「消費税」について基本的な内容を記載いたします。

 

1 消費税の仕組み

消費税というと、勝手ながら「生活する上で一番身近な税金」という印象がありました。

日々の買い物、外食等…様々な場所で消費税を負担しています。

しかしながら、買い物や外食等で負担した消費税は、どのように国に納付されているのでしょうか。

そこで、まずは消費税の仕組みを整理してみます。

 

私たちが買い物等で負担した消費税は、事業者が税務署に納付するという仕組みを取っています。

消費税は「間接的に納める」という特性から間接税と分類されます。

 

つまり、消費税の特徴は、以下の2点ということがわかります。

①消費税を負担する人=消費者

②消費税を申告・納付する人=事業者

 

一方で、事業者自身も仕入れ等の段階で消費税を負担しています。

事業者が支払った消費税はどのように納付するのでしょうか。

原則として、消費税は以下のような方法で計算します。

 

なぜ、このような計算の仕方をするのでしょうか。

それでは、ここである取引の流れで見てみましょう。

 

例1:日本の消費者がB社からパソコンを購入する取引

 

●A社視点

B社へパソコンを税抜き100,000円で販売します。B社から預かる消費税は10,000円です。

もしも、仕入れがなければA社は、10,000円を納付します。

●B社視点

A社からパソコンを税抜き100,000円で仕入れます。A社が支払う消費税は10,000円です。

そして、消費者へパソコンを税抜き120,000円で販売します。消費者から預かる消費税は12,000円です。

B社は、消費者から預かった消費税12,000円と、A社へ支払った消費税10,000円がある為、

納付する消費税額は差額の2,000円となります。

●消費者視点

B社からパソコンを税抜き120,000円で購入します。支払う消費税は12,000円です。

私たちが負担している消費税はこちらです。

 

上記をもとに、最終的に国に納付される消費税は、A社の10,000円とB社の2,000円を合計した12,000円ということが解ります。

消費者が負担した消費税額と同額になりますね。

 

2 消費税の判定

続いて、消費税の判定方法について整理しました。以下のフローチャートをご覧ください。

 

⑴課税取引

消費税の課税対象は、国内において、事業者が事業として、対価を得て行う資産の譲渡等とされています。

これに当らない場合は、消費税は課税されません。

⑵不課税取引

主に、国外取引や対価を得て行うことに当たらない寄付や単なる贈与、出資に対する対価が該当します。

⑶非課税取引

消費税の性格や社会政策的な配慮などから非課税とされています。(図中の限定列挙)

⑷免税取引

課税事業者が輸出取引や国際輸送などの輸出に類似する取引として行う商品の販売やサービスの提供が該当します。

参考URL: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/01_3.htm

 

3 免税店での販売の仕組み

消費税には、免税店という制度があります。

免税店とは非居住者(外国人旅行者等)に対して生活用品等を販売する場合に、

消費税を免除して販売できる制度のことを指します。

免税店の登録は、納税地の税務署へ許可申請が必要です。

 

ここまでの内容を踏まえて、例1をもとに、《B社が免税店だった場合》に消費税の仕組みはどのようになるのか

という疑問を抱きました。

この場合の消費税の仕組みを考えてみます。

 

例2:外国人の消費者がB社からパソコンを購入する取引

 

 

 

例1の取引とは、

・B社が免税店であること

・免税取引を想定している為、消費者は外国人であること

が異なります。

 

●A社視点

B社へパソコンを税抜き100,000円で販売します。B社から預かる消費税は10,000円です。

もしも、仕入れがなければA社は、10,000円を納付します。

●B社(免税店)視点

A社からパソコンを税抜き100,000円で仕入れます。A社が支払う消費税は10,000円です。

そして、消費者へパソコンを120,000円で販売します。消費者(外国人)からの消費税の預りはありません。

B社は、A社へ支払った消費税10,000円の還付を受けることができます。

上記のように、受け取った消費税より支払った消費税が多い場合には、払いすぎているので消費税の還付を受けることができます。

●消費者(外国人)視点

B社からパソコンを120,000円で購入します。消費税は免税です。

 

A社は10,000円の消費税を納付する一方で、B社は同額の還付を受けられます。

つまり、この取引で消費税の負担は発生していないことになります。

 

 

4 まとめ

今回は、消費税の基本的な内容を整理しながらまとめました。

勝手ながら身近に感じていた消費税ですが、仕組みを理解することで、日々の買い物等で負担した消費税の行き先を意識するきっかけとなりました。

勉強会では、基本的な内容を学習した上で、「こういう場合はどのように考えられるか」等、様々な意見が飛び交います。

テーマに沿った知識を得るだけでなく、思考力を高めることができます。