【社内勉強会④】消費税の簡易課税制度について学ぼう

【社内勉強会④】消費税の簡易課税制度について学ぼう

 

こんにちは。スタッフの大滝です。

前回に引き続き、今回は消費税の簡易課税について整理していきます。

 

1 消費税の簡易課税制度とは

 

簡易課税制度とは、消費税申告の計算方法の一つです。

原則として、消費税は売上に係る消費税から仕入に係る消費税を差し引いて計算します。

それに対して、簡易課税の計算では、売上に係る消費税から売上に係る消費税にみなし仕入れ率を乗じた額を控除して、計算します。

つまり、簡易課税とは、仕入れに係る消費税を売上に係る消費税額から簡易的に求め、納める消費税額を計算できる制度です。

算式にある「みなし仕入れ率」とは、下図のように分類され、事業の種類によって適用される割合が定められています。

図にある通り、みなし仕入れ率は第1種事業~第6種事業に分かれており、それぞれ乗ずる割合が異なり、取引ごとに計算します。

複数の事業を行っている場合については、後のトピックスで整理します。

事業区分は、国税庁ホープページに記載されているフローチャートを参考いただくと、より理解しやすいと思います。

 

参考:国税庁ホームページ 簡易課税の事業区分について(フローチャート)

 

2 簡易課税制度の適用要件

 

前回の記事で、消費税の納税義務は、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合に、消費税の課税事業者と判定されると整理しました。

この場合は、自動的に課税事業者となり、選択の余地はありません。

一方で、簡易課税制度を選択する場合には、下記の適用要件があります。

 

⑴基準期間における課税売上高が5,000万円以下であること

⑵前課税期間末までに「消費税簡易課税制度選択届出書」(以降、選択届出書)を提出していること

 

図にあるように、2期目の期末までに選択届出書を提出すると、「翌課税期間以降の課税期間」から効力が発生するので、3期目から簡易課税となります。

 

例外として設立1期目の法人で、1期目に簡易課税を選択したい場合は、1期目の事業年度終了までに選択届出書を提出することとなります。

また、1期目から期首資本金、特定新規設立法人の要件で、強制的に課税事業者になっている場合でも、上記⑴⑵の要件を満たしていれば、簡易課税を選択できます。

 

一方で、簡易課税の選択を取りやめたい場合には、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」(以降、不適用届出書)を、その課税期間の初日の前日(=前期末)までに、所轄する税務署長へ提出します。

しかし、簡易課税制度を選択すると2年間は継続適用となるため、不適用届出書を提出できないこともあります。こちらは後のトピックで説明します。

 

3 複数の事業を行う場合における簡易課税の計算方法

 

先程、簡易課税を選択した場合の消費税の計算方法について整理しました。

この計算方法は、1つの種類の事業を行う企業に当てはまる原則的な計算方法です。

 

一方、世の中には複数の業種を行う企業も多々ありますので、特例の計算方法について、特例のケースごとに、原則と特例の計算方法を比較して、整理していきます。

なお、税額の計算については簡便法で計算します。

 

ケース①の場合は、卸売業が売上比率の75%以上を占めるので、

小売業の計算は、第1種のみなし仕入率(90%)で計算することができます。

結果として、原則で計算するより、特例の計算の方が、納税額は少なくなります。

 

ケース②の場合は、3種の事業を行っており、そのうち卸売業と小売業の合計が売上比率の75%以上を占めるので、それ以外の事業(この場合は、不動産業)は、卸売業と小売業のうち、低い方のみなし仕入れ率(小売業の80%)で計算することができます。

結果として、原則で計算するより、特例の計算の方が、納税額は少なくなります。

ケース③の場合は、複数の事業を行っていますが、その事業の比率が不明なので、卸売業(90%)と小売業(80%)のうち、低い方の80%で計算しています。

このように、特例を用いることで納税額が変わることもありますので、原則と特例の計算をシミュレーションする必要があります。

特例の計算方法を用いる際には、届出の提出などの提出の必要はありません。

 

4 簡易課税制度を選択する際の注意点

 

最後に、簡易課税制度を選択する場合に、あらかじめ検討しておく点について整理します。

 

⑴2年継続適用

簡易課税制度を選択すると、2年間は簡易課税が継続します。

つまり、2年間を通じて、原則課税のままでいくよりも、簡易課税を選択すると有利になるのかを判断する必要があります。

しかし、簡易課税の要件は「基準期間における課税売上高が5,000万円以下であること」なので、選択届を提出してから2年間のうちに、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える事業年度がある場合には、簡易課税は外れ、原則課税になります。

 

下図を例にすると、3期目は、基準期間(1期目)の課税売上高が5,000万円以下なので、簡易課税を選択できます。

通常であれば、2年継続適用により、4期目も簡易課税となります。

しかし、4期目の判定をする際に、基準期間(2期目)の課税売上高が5,000万円を超えているので、簡易課税の要件から外れ、4期目は課税事業者になります。

 

よって、簡易課税を選択しても、必ずしも2年連続で簡易課税の計算がされるとは限りません。

このケースでは、3期目が原則課税か簡易課税かで、有利になる方を選択すれば良いことになります。

 

⑵簡易課税制度の選択ができない場合

調整対象固定資産の仕入れ等を行ったことにより、消費税の納税義務の免除がされない期間については、消費税の簡易課税を選択することができません。

具体的には、課税事業者の選択をしている場合や、基準期間がない法人で期首資本金額が1,000万円以上の場合等において、調整対象固定資産の仕入れ等を行っているケースが該当します。

また、高額特定資産の仕入等を行ったことにより、消費税の納税義務の免除がされない期間についても、消費税の簡易課税を選択することができません。

 

5 最後に

簡易課税の選択をする場合には、原則として課税期間が始まる前に選択をする必要がありますが、将来の消費税をシミュレーションすることは非常に困難であると思います。

簡易課税はあくまで特例であり損得が発生します。

 

例えば、預かった消費税が100、支払った消費税が30でみなし仕入れ率が50%だとすると、原則課税の納税は70、簡易課税での納税は50になります。この場合には簡易課税の方が得をしますが、原則課税が損をしているわけではなく、キャッシュベースでは実際に70の消費税を預かっていることになりますので損得という考えは発生しません。

 

つまり、簡易課税は特例計算であり実際の取引を一部無視して計算する方法であるため、ギャンブル的な要素があります。どちらを選択するか迷われる場合には、原則に立ち返って原則課税を選択されることをお勧めします。