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【社内勉強会⑤】現物給与について学ぼう

こんにちは。スタッフの大滝です。

昨年の勉強会は、消費税をテーマにしてきましたが、今年は現物給与について【現物給与の課税対象と非課税の取り扱い】という

テーマで勉強会を行っています。早速ですが、内容を整理していきます。

 

1 福利厚生と現物給与

 

2019年4月に施行された働き方改革関連法案や、ワークライフバランスという言葉を耳にするようになりました。

 

労働者を雇用する企業としては、労働者の健康や生活の向上を目的とした、福利厚生制度を充実させることを重視している企業が増加してきているように思います。

 

金銭支給以外で、従業員に対して食事の支給や商品の値引き販売、レクリエーション行事の開催等のように、

物または権利等の経済的利益をもって支給されることを現物給与と言います。

 

本来、給与は金銭で支給されますが、現物給与は役員や使用人に対して福利厚生の側面があり、

また選択性や換金性に難点があるため、一定のものは非課税とする税務上の取り扱いが設けられています。

 

そこで、現物給与の課税対象と非課税の取り扱いについて、具体的な事例をもとに整理していきます。

 

2 具体例 ~通勤交通費~

 

会社に通勤するための通勤手当は、通常「手当」として金銭で支給されていることが多いと思います。

 

交通機関や有料道路を利用している人に支給する通勤手当は、平成28年度の税制改正により、

最高で月額15万円までは非課税とされています。(改正前の最高限度額は10万円)

 

また、実務上では、新幹線通勤やグリーン車を利用した場合はどのような取り扱いとなるのかという疑問もあるように思います。

 

新幹線通勤は、最も合理的な方法であれば通勤手当として支給できますが、一方でグリーン車等の特別車両の利用は、

合理的な方法という定義の中に含まれないと考えられるため、給与課税される可能性があります。

 

さらに、交通機関を使用せず、自動車や自転車通勤の人に支給する通勤手当の非課税枠は、

通勤距離ごとに限度額が決められています。詳しくは、国税庁HPをご参考ください。

 

国税庁「No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当」

 

【課税される範囲】

1か月15万円以上の通勤手当の支給か、マイカー等の通勤については通勤距離ごとの限度額を超えて支給した場合

 

3 具体例 ~社宅家賃~

 

会社(使用者)が、役員や従業員(使用人)に対して社宅を提供している場合があります。

借上げ社宅等という制度として会社で設けていることも多いと思います。

 

役員と従業員で計算方法が異なりますが、1か月当たり賃料相当額を本人から受け取っていれば給与として課税されません。

下記【賃料相当額の計算について】に記載の計算方法を用いて、賃料相当額を計算します。

 

もし、本人から賃料相当額を受け取っていない場合には、賃料相当額と実際の徴収額の差額が給与課税されます。

 

例えば、賃料相当額が10万円で、実際に徴収している金額が4万円の場合、差額の6万円に対して給与課税されます。

 

なお、多くは従業員への福利厚生の要素が大きいと考えますが、例えば病院の夜間勤務など、業務遂行上の必要により、

役員または従業員の居住場所を著しく制限しなければならない理由で、社宅や寮に入居させている場合等

給与課税されないケースもあります。

 

【賃料相当額の計算について】

 

Ⅰ 役員

役員に対する社宅の貸与は、社宅の床面積により「小規模な住宅(木造132平米以下、非木造99平米以下:共用部分を含む)」と「それ以外の住宅」に分かれ、下記のように計算します。

また、いずれにも該当しないような豪華な社宅(床面積240平米超え)である場合には、算式の適用はなく、通常支払うべき使用料に相当する額(時価)が賃料相当額になります。

 

①小規模な住宅である場合

 《算式A》 (1)~(3)の合計額

(1)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%

(2)12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))

(3)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

 

②上記①以外の住宅(小規模な住宅以外)で自己所有の場合

 《算式B》 (1)~(2)の合計額の1/12

(1)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%

※ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12%ではなく、10%となります。

(2)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%

 

③上記①以外の住宅(小規模な住宅以外)で借り上げ社宅の場合

 《算式B》または、賃料の50% のいずれか高い方

 

国税庁「No.2600 役員に社宅などを貸したとき」

 

Ⅱ 従業員

 《算式A》 (1)~(3)の合計額

従業員の場合には、算式Aで計算した賃料相当額の1/2の金額を本人から徴収していれば、課税されないことになります。

もし、本人から賃料相当額を受け取っていない場合には、算式A⑴~⑶の合計額と、本人から徴収している金額の差額が給与課税されます。

 

また、算式Aに用いられている固定資産の課税標準額は3年に1度変更があります。

特に役員の場合には、このタイミングで都度、賃料相当額を見直すことも重要ですが、

従業員の場合には、課税標準額が20%以内の増減の時は改定計算を要しません。

 

国税庁「No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき」

 

【課税される範囲】

役員や使用人に無償で社宅を貸与したり、賃料相当額よりも低い金額を徴収している場合

 

<一口メモ> 社会保険における現物給与 ~住宅で支払われる報酬等~

 

役員や従業員に社宅を貸与した場合には、上記のような税務上の取り扱いだけでなく、社会保険においても現物給与の対象となります。

物価の変動などに合わせて、毎年4月に改定される「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」(厚生労働省告示)に定められた額に基づいて、

社会保険の被保険者が受けた現物給与を通貨に換算して、社会保険料を算定します。

 

令和4年4月改定 「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」

 

例:東京都(令和4年4月価格 2,830円)

居住スペース 5畳/本人が負担する賃料相当額 10,000円の場合

2,830円×5畳=14,150円

14,150円-10,000円=4,150円(現物給与)

 

社宅家賃を会社が全額負担している場合には、14,150円が現物給与となり、社会保険の標準月額を算定する際には、毎月の報酬月額に上乗せします。

一方で、従業員から賃料相当額を徴収している場合には、徴収している金額を引いた4,150円が現物給与となります。

 

4 具体例 ~食事支給~

 

社内食堂での食事提供や、食券の支給などを採用している会社も多く、現物給与の中では一番身近なものだと思います。

 

①昼食

食事の支給(昼食)については、下記の要件を満たしていれば課税されないこととなります。

(1)役員または使用人が、食事の価額の50%相当額以上を負担している場合

(2)役員や使用人に支給した食事について、使用者(会社)が負担した金額が月額3,500円以下の場合

※消費税および地方消費税の額は除く

 

②夜食

夜勤や深夜残業など会社から命令された勤務時間帯での、食事支給については無料で提供しても課税しなくて良いとされています。

深夜勤務者への食事支給(夜食)は、深夜時間帯の食事の提供が困難であるという考え方により、1食あたり300円以下であれば課税されません。

 

国税庁「No.2594 食事を支給したとき」

 

【課税される範囲】

昼食代を会社が負担して下記①②のいずれかに該当する場合は、

食事の価額から役員や使用人の負担している金額を控除した残額に課税

①役員や使用人が負担している金額<食事の価額×50%

②役員や使用人が負担している金額<会社が負担している金額(月額3,500円以上)

 

 

<一口メモ> 社会保険における現物給与 ~食事で支払われる報酬等~

 

先程、社宅家賃の項目でも整理しましたが、食事についても社会保険の現物給与の対象となります。

現物給与額の計算方法は、社宅と同様ですが、食事の場合には「1か月あたり/1日あたり/1日あたり(朝食・昼食・夕食)」と

単価が細分化されているので、社会保険料の算定時に気を付けるポイントかと思います。

 

住宅の現物給与との違いとして、食事の場合には、現物給与価額の3分の2以上を食事代として徴収している場合には、食事の供与はないもとして取扱います。

 

5 具体例 ~金銭の貸付~

 

役員や従業員に対して、会社が無利息または、低い利息で金銭を貸し付ける場合、経済的利益を受けることになるため原則として給与課税となります。

 

しかし、災害等の理由で臨時的に多額の生活資金を必要とする場合や、会社における借入金の平均調達金利と同等の貸付金利を定め、利息を徴収している場合は、担税力の考慮や少額不追及の趣旨により、課税しないこととされています。

 

国税庁のHPによると、貸付を行った日の属する年に応じた利率が定められており、令和3年中に貸付けを行ったものは、金利1.0%とされています。

無利息や低い金利で金銭を貸し付けた場合には、実際に支払う利息の額と貸付を行った日の属する年に応じた利率で計算した利息の額の差額が、給与課税されます。

 

国税庁「No.2606 金銭を貸し付けたとき」

 

【課税される範囲】

役員や従業員に対して、無利息や低い金利での貸付を行った場合

 

6 具体例 ~レクリエーション費用~

 

社内交流やチーム力の向上等を目的として、会社は社員旅行や会食、運動会などのレクリエーションを行うことがあります。

 

原則として、これらの行事に参加して受けた経済的利益は給与として課税されることになります。

しかし、社会通念上一般的な行事と認められれば、会社がその費用を負担した場合でも給与課税されないこととして取り扱われます。

 

非課税とされる行事の範囲として、下記のように整理できます。

 

①社員旅行

国内、海外を問わず4泊5日以内の期間で、社員の50%以上が参加している場合

 

②その他(会食、運動会など)

参加対象者を限定していない場合

 

上記ともに、不参加者に対して金銭を支給した場合には、参加者も含め全員が給与課税されることになります。

これは、旅行に参加するか・金銭をもらうかを選択できる状況になるためです。

 

国税庁「No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行」

 

【課税される範囲】

特定の人(役員のみ・成績優秀者のみ等)を対象とした行事

 

7 具体例 ~技術取得~

 

従業員のスキルアップや業務に必要な技術習得のために、研修制度を設けている会社も多いと思います。

 

知識や技術の習得にかかる研修受講費用や教材費などは、会社の仕事に直接必要であること、その費用が適正な金額であれば、

給与として課税しなくてもよいことになっています。

 

例えば、経理課に所属となり簿記の資格取得のための費用を会社で負担してもらうといった場合には、研修費という判断が出来ると思います。

一方で、資格の合格者のみに資格取得にかかった費用を支給するとなると、お祝い金のような意味合いが強くなると考えられますので、給与課税されることがあります。

 

国税庁「No.2588 職務に必要な技術などを習得する費用を支出したとき」

 

【課税される範囲】

業務に直接必要とされない知識や技術取得にかかる費用

特定の人(合格者のみ等)を対象とした費用支給

 

8 具体例 ~生命保険~

 

会社が、役員または従業員を被保険者とする生命保険の保険料を支払ったことによる経済的利益は、生命保険の種別によって取り扱いが下記のように整理できます。

 

①養老保険

 

②定期保険

【課税される範囲】

特定の人(役員のみ等)が加入対象の場合

 

9 具体例 ~商品値引~

 

従業員に対して、会社で取り扱っている商品や製品を提供する場合には、値引き販売をする制度を設けている企業が多いです。

一般的に行われている値引販売については、経済的利益の額が少額であることや一般の消費者に対しても値引販売が行われる場合があること等を考慮して設けられています。

 

この場合、下記を全て満たす場合に非課税とされます。ただし、土地、建物、有価証券についてはこの制度の対象外です。

 

①販売価額が取得価額以上であること

例:会社の仕入価額1,000円、従業員への値引き価額1,200円

 

②値引販売する価額が、会社が販売する価額に比べて著しく低くないこと(通常、他に販売する価額のおおむね70%未満でない)

例:会社が販売する価額2,000円、従業員への値引き価額1,500円

 

③値引率が全員一律か、地位や勤続年数に応じて合理的なバランスが取れていること例:勤続5年以上の従業員は15%オフで販売等

 

④一般消費者が通常消費できる数量

 

【課税される範囲】

会社の仕入価額より低い価額やアンバランスな価額での販売

 

10 具体例 ~永年勤続・創立記念品等~

 

従業員の永年勤続を表彰したり、会社の創業を記念して、従業員に創立記念品を配布するような行事は一般的に行われています。

 

創業記念品の支給のついては、役員や従業員だけでなく株主や取引先などの社外の関係者にも供与されることが想定されるため、

下記の要件を満たす場合には、給与課税しないこととして取り扱います。

 

①支給する記念品が社会通念上ふさわしいもの

②処分見込み額が10,000円以下のもの ※消費税等の金額を除いて判定します。

 

一方で、金銭や有価証券等の支給や、記念品を従業員が自由に選択できる場合には給与課税されます。

 

【課税される範囲】

金銭・有価証券、記念品を従業員が自由に選択できるもの、処分見込額が10,000円超のもの、などを支給した場合

 

11 所長の一言

 

こんにちは。税理士の山田です。

現物給与については、課税・非課税の判断が難しく、非常にグレーな取扱いが多くあります。

従業員のためと思って行っていた福利厚生が急に給与として課税されるケースもあります。

 

とあるIT企業が無料で社員食堂を提供いていたところ給与課税がされたケースや、仕事の都合で社員旅行に参加出来ない方に金銭を支給したところ、

全従業員に給与課税がされたケースなどあります。社員のための福利厚生が結果として、社員の税金を増やして負担をさせてしまうことがあるので注意しましょう。

 

福利厚生の設計時には給与課税がされないように、税法上の取扱いを整理する必要があります。

また、社会通念上一般的と言える範囲が非課税、という非常にあいまいな基準な部分も多く、税務調査の際に議論となることも少なくありません。

全く準備がされていないとゼロベースでの議論になってしまい調査で不利な判断がされてしまうことがありますが、

非課税であると判断するための根拠を整えておくことで、調査官の心象も大きく変わってくると考えます。

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