事業計画書のススメ①~基礎編~

事業計画書のススメ①~基礎編~

こんにちは。

税理士の山田です。

 

これから『事業計画のススメ』というテーマで、全4回に渡って事業計画の書き方についてまとめていきたいと思います。2021年はちょうど事業再構築補助金という大型の補助金が注目を受けていますが、計画書を作成するにあたっての参考になりましたら幸いです。第1回は基礎編ということで、事業計画の概要とポイント・理想的な構成についてまとめていきます。

※事業再構築補助金の概要は経産省HPより

 

事業計画書とは一言で言うと『会社の説明書』です。会社は継続して事業を行うことを目的とした組織です。事業を継続するためには利益を生み出さなければなりません。

会社がどのようなターゲットに対してどのような事業を行っており、その事業を今後どのように展開していくのか、どのような価値観で事業を行うのか、どのような売上・利益計画でどのように成長していくのか、様々なことを説明書に記します。

 

1.事業計画書は何のために作成するのか?

事業計画書は様々な目的のために利用します。一般的には銀行からの融資を受けるため、国や自治体からの補助金を受けるため、投資家からの資金調達を受けるために作成することが多いです。

他にも事業計画の用途に制限はありませんので、会社に入社する従業員にどのような会社でどこに向かっているのかを魅力的に伝えるため、新規の事業提携にあたって提携先にどんなリソースがあってどんな事業展開が可能かを伝えるため、M&Aで会社を買い取って貰う際にどのような顧客にどのような展開が出来るかを魅力的に伝えて高く買い取って貰うなど、事業を展開する上で様々な利害関係者に会社の事を魅力的に知ってもらうことが目的であると言えます。

別の言い方をすると、事業計画書は誰かを説得させるために作成するものであり、見る人の気持ちを揺れ動かすほどの説得力のあるものを作り上げなければなりません。

 

2.説得力のある事業計画書のポイントは?

説得力のある計画書とはどのような計画書でしょうか?その計画を見た人がワクワクするもの、安心するもの、信頼できるもの、目的によって様々です。そのためにどのような計画書を作って行けばよいか、ポイントを解説して行きます。

① ヴィジュアル的で専門用語を多用せずに、シンプルで解りやすい内容であること

計画書を提出する相手先によりますが、銀行や投資家、補助金を獲得するために計画書を提出するときに、それを見る方が業界に詳しい方とは限りません。むしろそうであることの方が珍しく、専門用語を多用している計画書は見難いですし、文字だけの資料よりも図を活用してヴィジュアル的な資料が見易いです。

見難い資料というのはそれだけでストレスですので、読み手に取っても良い決断を阻害する可能性がありますので、シンプルで解りやすい内容の計画書を作成することをお勧めします。

② 客観的な数字や根拠に基づいて、実現可能性が高い計画であること

事業計画はともすれば独りよがりな内容になりがちです。如何に素晴らしい内容であってもその内容が実現出来なければ意味はなく、実現可能性が高いかどうかの判断は非常に難しいものです。

では、どのような事業計画書であれば実現可能性が高いと感じるか、それは客観的な事実や数字に基づいた内容であることです。

例えば単に『ターゲットである多数の企業にアプローチが出来る』という内容よりも『ターゲットである不動産業界にメールマガジンを配信しているA社との提携が決まっており、10万社の配信先に対して毎週アプローチが可能である。このメールマガジンの開封率は40%と非常に高い開封率をほこり、クリック率を2%と考えても800社にアプローチが可能である。さらに・・・・』と説明が続くと一段と説得力が増し、実現可能性が高いと感じて貰えます。

③ 市場から見てニーズがあり、競合他社の状況等から見て差別化が明確であること

その事業が本当に市場から見てニーズがあるのか、また同じようなことをやっている競合他社はいないのか、という点は非常に重要です。

市場のニーズがあるかどうかについては、上記②のように客観的な資料に基づいて説明が必要です。経済紙やインターネット、シンクタンク等の市場調査の情報を引用して、ニーズを明確にすると良いです。

また、どれだけニーズがある事業であっても競合他社が既にたくさんいる場合や、大手が参入しやすい事業の場合には限られたリソースである中小企業は太刀打ちが出来ませんから、どのような差別化がされているのかという点は中小企業にとって最も重要な戦略であると言えます。差別化の戦略によっていわゆるブルーオーシャンを目指しましょう。

④ 自社の強み、社長の知識・経験・人脈・熱意から一貫性がある事業か

なぜその事業を行おうと思ったのか。これはほぼ100%社長の過去の経験から来ています。どのような経験・背景があり、その事業をすることに至ったのか。これがそのまま事業の強みになります。

また、一つの事業を成功させるというのは並大抵の努力では実現することは困難であり、その原動力はどこから来るのか、どのような価値観でその事業を行うのか、という根源の部分というのは意外と重要であったりします。これがいわゆる経営理念にも繋がりますが、なぜその事業を行うのかという熱い想いがこもった計画書というのは魅力的に映るものです。

また、説得力がある計画書とは一貫性があるものであり、ストーリーが見える計画書を作りましょう。

 

3.事業計画書の主な構成は?

それでは最後に事業計画書の主な構成を整理して行きます。

① 会社概要

まずは自己紹介からです。社長の経歴や会社概要から入り、どのような経緯がありどのような事業を行っているのか概要をまとめていきましょう。この部分に事業のコンセプトが入ると非常に良いと思います。なぜその事業を行うのか、その事業により何を実現したいのか、社会に対してどのような価値を提供するのか、いわゆる経営理念にあたる部分だと思いますが、自社の事業に掛ける想いを記しましょう。ここを過去のエピソードも交えて説明が出来ると一貫性のある計画書になると思います。

② 事業の内容・特徴・ターゲット

続いて事業の内容をより詳細に記していきます。事業というのは単純なものではなく、例えば『Aという商品を作って売っている』としてもただ商品を売ることが事業ではありません。『弊社では、Aという商品を製造しており、この商品はこういう特徴がある、これを〇〇のような人たちに購入することで、〇〇のような使い方が出来て、〇〇に価値を提供出来る』というように記載をします。事業はお客様がいなければ成立しません。誰に(ターゲットはどういう方か?)、何を(どういう特徴の商品・サービスか?)、どのように(どのような使い方・利用をして貰うか?)、提供することでどんな価値が生まれるのか、という部分を明確にしていきましょう。

③ 競合企業との比較、差別化

事業を行うにあたってどれだけ魅力的な事業で合っても同じことをたくさんの企業が行っている場合には、中々事業としての成功は難しいです。いわゆるブルーオーシャンを目指して競合企業との比較、差別化をしましょう。例えばたくさんある美容院であってもターゲットとコンセプトを変えることで事業は全く異なるものになります。例えば『南国バリをイメージした家具を取りそろえ、お香を焚いて空間を演出、ココナッツの香りがするオイルで顔をマッサージしてリラックスして貰う』等、サービスの中に特長を入れていることで差別化が出来ます。ただし、これは市場にもよるのでそもそも人口が少ない市場でコンセプトを絞り過ぎてしまうと、自らお客様を減らしてしまうことになるので、注意しましょう。

④ 社会の需要・市場分析

今の状況に合わせた社会のニーズや市場分析を入れることで説得力のある計画書が出来上がります。今の状況であればコロナの影響はどうであるか、ということは必ず言及しましょう。場合によって、コロナの影響で『こういうニーズが生まれている』ということでプラスに転じることが出来るとベターです。また、市場の情報はインターネットで調べるとある程度の情報は取ることが出来ません。出典元を明らかにしたうえで引用したグラフなどを載せるようにしましょう。その際には、よく言われますがミクロとマクロ両方の支店で市場を分析するようにしましょう。

⑤ 事業体制・生産方法・仕入先など

会社としてどのような事業体制でこの事業が実現出来るのかを説明します。体制については内部体制に限らず外部体制も含めて整理しましょう。関係者が多いようであれば、いわゆるビジネス俯瞰図と言われる形でヴィジュアル的に表現た方が良いと思います。生産方法や仕入先等、どのように商品の調達をするのか、なぜそれが実現可能なのかについて説明することで説得力のある計画書に仕上がります。

⑥ 販売方法・販売戦略

ここは非常に重要な内容です。どのように販売していくのか、どれだけ販売していくのか、という手段を詳細に説明しましょう。『地域の〇〇に販売をしていく』だけでは説得力がありません。

『お店のオープンと同時に周辺〇〇世帯にポスティングを入れて、朝は駅前でチラシも配ります。オープン記念ということで初月の利用料は大幅割引をし、通常料金の5割で提供しまずは来店頂き良さを知ってもらいます。さらにスタンプカードを作り、リピートして来店頂くための仕組みを作ります』というように戦略を事細かに説明して行きましょう。そのうえでどの程度が反応して頂き、どの程度がリピートに繋がるか実際の数字で仮説を立てて売上の計画を立てていきましょう。

⑦ 事業スケジュール・損益計画

今後3年間~5年間でどのような事業展開をしていくのか将来の展望をまとめていきましょう。3年目には2店舗目をオープン、5年目にはグッドデザイン賞の受賞を目指す、Twitterやユーチューブ等のSNSを活用してフォロワーを増やして行き、3年目には10万フォロワー突破を目指す、等具体性のある計画書はやはり魅力的に映ります。

PDCAサイクルは時代遅れという風潮も出てきていますが、クリエイティブな事業ですとか発想力が問われる事業についてはそういう側面もあると思いますが、中小企業が展開するスモールビジネスに限ればやはりPDCAサイクルは有効であると考えています。また、計画書という意味ですと不言実行では相手には伝わらず、やはり有言実行で初めて相手に覚悟が伝わります。将来のアクションプランを記したうえで連動する形で損益の計画を描いていくと魅力的な計画書に仕上がっていくのではないかと考えます。

 

4.最後に

事業計画の作り方に唯一の正解はありません。事業の内容やコンセプトによっても異なってくるでしょうし、敢えて型を少し崩した計画書というのも魅力的であるのではないかと思います。

特に投資家からの資金調達で個人投資家であれば、事業というよりも社長個人に投資をしているというケースも多いと感じており、自分らしさを出した計画書に仕上げることも重要ではないかと思います。重なりますが、共通する事業計画の目的は『誰かを説得すること』です。独りよがりな計画書にはせずに、どうすれば相手に響くか、という視点で計画書を作り上げましょう。