事業計画書のススメ③~補助金制度+α~
こんにちは。
税理士の山田です。
前回までの記事で事業計画書を作成するためのポイントや考え方を整理してきましたが、実際に作成した事業計画書を有効に活用する上で、切っても切り離せない公的制度について、今回は説明していきます。補助金、融資や税制での優遇制度など、毎年国の予算を使って運用している制度になりますので、ポイントを押さえておきましょう。
※過去の連載は下記のリンクより参照ください。
事業計画書のススメ①~基礎編~はこちらより
事業計画書のススメ②~フレームワーク編~はこちらより
さて、新型コロナの経済対策として給付金や長期かつ実質無利息の融資制度など、様々な施策が講じられましたが、元々一般の企業でも活用が出来る補助金制度が数多くあることはご存知でしょうか。補助金制度の概要とポイントをまずは抑えた上で、どのような制度があるのかを説明していきます。
1.補助金制度の概要
まずは補助金・助成金・給付金と似たような言葉をよく耳にすると思いますが、制度としてどういった違いがあるかご存知でしょうか。シンプルにまとめますと、補助金は主に経済産業省が主導している制度で経済成長のための攻めのコストを補助するもの、助成金は主に厚生労働省が主導している制度で雇用を維持するためや労働者の環境を整備するための守りのコストを支援するもの、給付金は定額給付金や持続化給付金など生活困窮者等を支援するもの、という整理になります。また、国の他にも自治体が主導する制度もそれぞれあります。ただ、明確に言葉の違いがあるわけではなく、助成金という名前でも補助金の性格を持つものもありますので注意しましょう。
この中でも補助金は最もハードルが高い制度であり、魅力的な事業計画書を作成しなければ受給を受けることが出来ません。一方で1件当たりの補助金額が大きい大型のものも多く、1社辺り1000万円を上限に補助するものづくり補助金を代表に、東京都が主催するものには1社辺り上限1億円の制度もあります。新規事業や研究開発を進めるにあたって先行投資が発生する場合には、補助金が利用できる可能性がありますので是非検討していきましょう。
2.補助金制度のポイント
補助金制度はルールが厳格であり、ほぼ成功している状態でも一つでも要件を満たしていいないだけで、全く受給が受けられないという可能性もあります。コンサルタントの支援を受けて補助金の申請を行って採択(いわゆる合格)が出ていたとしても、その後の手続きを失念すれば、無駄なコストだけ掛かってしまし、実入りは無いことも起こり得ます。申請にあたっては、まずはポイントをよく理解することが大切です。
①補助金は採択企業のみが受給対象
補助金制度はいわゆる大学受験のようなものです。魅力的な事業計画書を提出し、審査官がその計画書を魅力的なものであると判断すれば、採択通知が送られ補助金を受ける権利が発生します。ただし、採択後も交付申請や実績報告と言った手続きが必要であり、ルールさえ守ればその後の手続きで受給が受けられないことは無いのですが、逆に一つでもルール違反があれば補助金を受けとることは出来ません。
②募集期間が限定
補助金は募集の期間が決まっておりその期間内でのみ申請が可能です。書類等の準備が出来たから申請をしようと思っても、期間が終了していれば申請することは出来ません。
③スケジュールを抑える
補助金はスケジュールが厳格に決まっており、流れに沿って期限までに必要な手続きを行わないと補助金の給付は受けられません。大まかな流れとしては下記の通りです。
(出典:ミラサポhttps://www.mirasapo.jp/subsidy/images/subsidy_flow2.pdf)
④対象期間と対象経費の考え方を抑える
補助金は対象となる事業に関する一定の経費を補助するものです。事業に掛かった経費に対して、1/2、2/3、3/4と言った形で経費を補助します。ここで対象となる経費については補助金の制度ごとに限定列挙されており、対象となる経費の支払が無ければ補助金は受けられません。また、対象となる補助事業期間内に発注から支払いまでを完結しておかないと補助対象になりません。
補助金制度は日本全国で年間3000種類あると言われており、毎年制度が少しずつ変わっていきますので、全てを説明することは出来ませんが、主要なものを整理してみました。まずは想定している経費が補助対象になるかどうかを抑えておきましょう。
⑤補助金の返還が必要なケースも
補助金の制度にもよりますが、補助金の受給後も継続して状況報告が必要になる制度も多いです。例えば『ものづくり補助金』という制度では、5年間の報告が必要となります。この5年間の間で補助金を使った事業で利益が多額に出る場合には、補助金を一部返還するケースもありますので注意が必要です。
⑥補助金を使った資産は処分に制限も
補助金を利用して購入した資産は、国や自治体のお金を利用しているため処分をするにあたっても一定の制限があります。事業売却や資産の売却などを行うと補助金の一部返還が必要となる可能性がありますので注意が必要です。
⑦対象となる事業者はほぼ中小企業者が前提
様々な補助金制度がありますが、ほとんどの制度が中小企業を対象にしているものになります。中小企業者の定義は業種により異なるのですが、例えばサービス業ですと、資本金の額等が5千万円以下の会社又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人、が該当します。
⑧まずはGビズIDの登録を
まさにコロナの影響ですが、2020年から補助金申請の電子化が一気に進みました。補助金の申請にあたってはほとんどのものでGビズIDの取得が必要となります。IDの取得にあたっては、最大で2週間程度の時間を要しますので、まずはアカウントの作成を進めましょう。
GビズIDの取得はこちらから
さて、この後は実際に利用可能な補助金制度について説明をしていきます。新年度予算の補助金制度については、まだほとんどのものが応募開始前の状態ですので、重要性の高い補助金制度を中心に過去の条件も参考にまとめていきます。
3.設備投資を支援する「ものづくり補助金」
続いて、具体的な補助金の制度について説明していきますが、まずは補助金の中で最もポピュラーで効果も大きい「ものづくり補助金」について概要を説明します。出来るだけシンプルに重要なポイントだけを整理しますので、詳細は必ず事務局のHPをご確認ください。「ものづくり補助金」は新規事業や既存事業の改善のための設備投資・システム投資を行う場合には、申請できる可能性が高いです。上限金額が1000万円と高額であり、採択率も高いため、最も効果的で使い勝手の良い制度です。
項目 | 要件 |
対象事業 | 生産性向上に資する革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等の一部を支援 |
対象者 | 日本国内に本社及び実施場所を有する中小企業者 |
主な対象経費 | 主に機械装置費・システム構築費 |
補助率 | 1/2~2/3 |
補助上限 | 1,000万円 |
事務局HP | http://portal.monodukuri-hojo.jp/index.html |
4.販路開拓を支援する「小規模事業者持続化補助金」
新型コロナ経済対策の目玉であった持続化給付金に名前が似ていることで少し話題にもなった「小規模事業者持続化補助金」ですが、この制度は販路開拓活動を支援するためのものです。対象となる事業者は小規模事業者(例えばサービス業だと常時使用する従業員の数が5人以下の事業者)のみですが、HP制作やカタログ作成、チラシやDM費用なども対象になるので使い勝手は良い制度になります。
項目 | 要件 |
対象事業 | 策定した「経営計画」に基づき、商工会議所の支援を受けながら実施する、地道な販路開拓等(生産性向上)のための取組 |
対象者 | 商工会議所の管轄地域内で事業を営んでいる小規模事業者等 |
主な対象経費 | ①機械装置等費、②広報費、③展示会等出展費 他 |
補助率 | 2/3~3/4 |
補助上限 | 100万円~150万円 |
事務局HP | https://r2.jizokukahojokin.info/corona/ |
5.ITツールの導入を支援する「IT導入補助金」
上記の二つの補助金に比べると比較的最近に創設された制度で、使い勝手の良い補助金が「IT導入補助金」です。こちらの制度は少し特殊で、補助金の申請に辺りサービス提供者がIT導入支援事業者として登録していることが必要になります。上記の二つの補助金制度に比べると、補助金の審査が形式的なものであり、ITツール自体が制度の趣旨に合致しているものであれば、補助金の採択を受けられる可能性が高いと思われます。(ただし、応募の時期によって採択の傾向は異なります。)
項目 | 要件 |
対象事業 | 自社の事業の生産性を向上させるべくITツールを導入する取り組みのうち、ITツールの要件を満たすもの。 |
対象者 | 中小企業・小規模事業者等、 |
主な対象経費 | ソフトウエア費、導入関連費、ハードウェアレンタル費 |
補助率 | 1/2~2/3 |
補助上限 | 450万円 |
事務局HP | https://www.it-hojo.jp/ |
6.コロナ禍からの脱却!話題の「事業再構築補助金」
2021年3月現在で最も話題性の高い補助金である「事業再構築補助金」について説明していきます。この補助金は今年1月に成立した令和2年度第3次補正予算で、1兆1485億円という巨額な予算が割り当てられました。コロナからの脱却に向けての目玉補助金と言えると思います。また、中小企業のみならず、資本金10億円未満(予定)である中堅企業まで対象にしている補助金は非常に珍しいです。また対象経費も非常に幅広く設定されており、主要経費である建物費、設備費、システム購入費がメインとなりますが、関連経費として広告宣伝費やクラウドサービス費なども対象に上げられており、本気度が伺えます。金額も種類により様々ですが、最大1億円が支給される可能性がある緒大型の補助金となります。応募はまだ開始しておらず3月中には開始の予定ですので、詳細な情報はその際に合わせてリリースされることになります。
項目 | 要件 |
対象事業 | 事業再構築指針に沿った新分野展開、業態転換、事業・業種転換等 |
対象者 | 中小企業・中堅企業、売上減少要件(任意の3ヵ月で10%以上減少)を満たす企業 |
主な対象経費 | 建物費、建物撤去費、設備費、システム購入費、外注費、研修費、広告宣伝費・販売促進費、リース費、クラウドサービス費、専門家経費 |
補助率 | 1/2~3/4 |
補助上限 | 6,000万円~1億円 |
事務局HP | https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/index.html |
7.東京都等自治体が主催する補助金制度
国が主導する制度以外にも自治体が主導する補助金制度も数多くあります。東京であれば東京都が行う制度もありますし、区が行う制度もあります。東京都が行う補助金制度は「助成金事業」という名称になっておりますがいわゆる補助金の一種になります。自治体に事業所を置く会社で無ければ申請の資格はありませんが、種類が多い上に上限金額も大きいものがあります。事業開発、研究開発、製品改良、販路拡大、業態転換、創業等を支援するものがありますので、気になる方は是非チェックしてみて下さい。
公益財団法人東京都中央企業振興公社で実施している助成金の一覧がこちらから確認出来ます。
https://www.tokyo-kosha.or.jp/support/josei/ichiran/index.html
8.補助金制度以外の優遇制度は?
事業計画書を活用する優遇制度として、後は税制優遇や金融支援が受けられる制度があります。補助金の制度に比べるとボリュームとしては軽いものが多く、税額控除や税額減免により明確にメリットが受けられる制度もありますので、是非確認してみて下さい。