事業計画書のススメ④~数値計画の立て方~
こんにちは。
税理士の山田です。
前回までの記事で事業計画書を作成するためのポイントや考え方、有効に活用するための補助金制度等について整理してきましたが、事業計画の中で最も重要と言える数値計画について、今回は説明していきます。事業プランが上手くいくかどうかは、この数値計画に掛かっていると言っても過言ではないかと思います。
※過去の連載は下記のリンクより参照ください。
事業計画書のススメ①~基礎編~はこちらより
事業計画書のススメ②~フレームワーク編~はこちらより
事業計画書のススメ③~補助金制度+α~はこちらより
1.中期計画・ロードマップの作成
第1回の記事にて、事業計画の主な構成を説明しましたが、最後の項目である『事業スケジュール・損益計画』について本稿では深堀していきます。市場のニーズに対してどのような事業を展開していくか、マーケットに対してどのような販売方法・販売戦略を行っていくのか、今後3~5年間の事業スケジュールを固めたうえで、そのアクションプランを数値計画に落とし込んでいきます。
まずは、アクションプランの定め方については中期の計画と短期の計画に分けて定めていきます。中期の計画では、期間(3~5年間)を定めたら3~ 5年後のあるべき状態を明確にして、そこにたどり着くための大きなプランをまずは決定します。中期計画はいわゆるロードマップに落とし込むのが良いと思います。試しに、会計事務所の一つのモデルでロードマップのサンプルを作成してみます。
【ロードマップ サンプル】
2.短期計画・KPIツリーの作成
次に、中期の計画を実現するためには、最初の1年間に何をすべきか、という具体的なプランを定めて、計画に落とし込んでいきます。この時にはKGIとKPIを設定していくと良いと思います。KGI(Key Goal Indicator)とは重要目標達成指標のことで最優先に達成すべき経営指標を指しますが、売上高や成約数、利益率などで設定します。例えば、初年度のKGIを月間売上500万円と設定します。次にKPI(Key Performance Indicator)を設定して行きますが、KPIとはKGIを達成するための各プロセスが適切に実施されているかを評価するための指標でKPIツリーやロジックツリーというものを設定します。KGIを達成するための指標を因数分解して、指標ごとに目標値を設定して行きます。
【KPIツリー サンプル】
3.目標設定のフレームワークSMART
目標設定をするうえで、非常に重要な考え方がSMARTというフレームワークで整理出来ます。いくら目標であると言っても実現不可能な目標や達成を図ることが難しい目標を設定してしまうと意味がないものになってしまいます。SMARTの考え方に基づいて常に目標が適切かどうか検証しましょう。
Specific | 目標設定が抽象的ではなく、具体的な目標か |
Measurable | 数値化された測定可能な目標になっているか |
Achievable | 現実的ではない目標を掲げていないか、達成可能な目標か |
Result-based | 設定した目標を達成することで会社の利益に貢献するか |
Time-bound | 目標を達成すべき期限は設けてあるか |
4.売上計画の立て方
次に売上計画の立て方について説明していきます。計画値で立てたKGI・KPIを達成するためにどういうアクションプランを起こしていくか、検討していきます。KPIツリーの内容とも重なるところになりますが、売上計画の立て方で大原則となるのは『販売数×単価』という算式になりますが、販売数と単価の計画値を立てただけでは売上計画とは言えません。ここにたどり着くまでのアクションプランを設定して、販売数と単価を因数分解していく必要があります。例えば会計事務所を例に見ていきますが、見込客を作ってから顧客になるまでのコミュニケーションステップを設定して見ましょう。
【コミュニケーションステップ サンプル】
上記のステップで考えた時に、メインとなるファーストステップをWEB集客・SNSかパートナーからの紹介というルートで設定したとします。次のステップとしてはセミナーや勉強会を開催すると個別相談にたどり着く確率が上がるでしょうから重要なステップです。ここでステップごとに下記のようなアクションプランを設定し、またアクションプランに合わせた計画を立ててみます。
【アクションプラン】
WEB集客 | 毎月記事を10個アップする |
SNS | Twitterで毎日10回のTweetと10回のリプをする |
セミナー | 4ヵ月後から毎月1回、半年経過後から毎月2回開催 |
その他 | 4ヵ月後からパートナー向けの勉強会を毎月開催する |
【アクションプランに応じた数値計画】
サンプルの計画ですので、これ以上の深堀は止めておきますが、実際の事業計画にあたってはより綿密な計画を立てた方が良いでしょう。フロー売上については、例えば新規成約のうち20%についてフロー業務の成約を見込むことが出来れば、1年後に月間2件ほどの獲得が可能となります。
続いて、単価については同業者他社のHP等から市場価格を想定して単価を設定して行きます。ここで単価を上げるために非常に重要な考え方であるアップセル・クロスセルについて説明しましょう。
<アップセル>
検討中の商品よりワンランク上の商品を購入して貰い顧客単価を上げる手法です。これは商品・サービス設計の話になりますが、必要な人に必要なモノを届ける、つまり顧客ロイヤリティが高い顧客であれば、仮に単価が高くても購入をします。例えば、同じ料理が800円で食べられるA点と1,000円で食べられるB店があります。ただし、800円で食べられるお店は入るのに20分間並ばなければいけません。お店に並びたくない、という要望がある顧客にとっては、B店はロイヤリティが高いお店となります。顧客のニーズを適切に把握して、ロイヤリティの高いサービスを適切な価格で提供することがアップセルに繋がります。
<クロスセル>
これは良く聞く『ご一緒にお飲物はいかがですか?』というセールストークが該当します。つまり、一つの商品に追加して別の商品を購入して貰う手法です。組み合わせて購入して貰うものは何でも良い訳ではなく、合わせて購入することで効果が上がる商品や、目的がより達成しやすくなる商品が良いと思います。例えば、スーツを購入したお客様にスーツの色にあうネクタイやワイシャツ、靴を提案する。サンプルの医業特化型の会計事務所の例であれば、これから創業する開業医の方に創業時の融資を受けやすくするコンサルサービスを提供すればニーズは高いでしょう。メインとなるサービスを受ける際に、導入前又は導入後のニーズを想定して、サービスとして提供すればクロスセルで顧客単価の増加に繋がります。自社でそのサービスを提供することが難しければ、例えば信頼のできるパートナーを見つけることで出来れば、サービス提供が可能になり、紹介・代理店契約をすることで売上に繋がります。
5コスト計画の立て方
最後にコスト計画の立て方について説明していきます。コストの設計にあたっては、まずは変動費と固定費に分類して見積をしていきます。
①変動費
変動費は売上に連動して発生する費用となります。原価が発生数するビジネスであれば、事業・商品・販売チャネル、等の原価率が変わるセグメントに分類して、想定される原価率を設定していきましょう。他にも売上計画に紐づく形でアクションプランに応じて発生するコストを見積もっていきましょう。
サンプルで想定している会計事務所業務の場合には完全に売上連動のコストは発生しませんが、例えば紹介者であるパートナーに対して紹介手数料が発生する場合には、紹介チャネルの件数に応じてコストを見積もります。また、セミナーや勉強会の開催にあたって会場代等は必要になるでしょうから、この辺りは個別にコストを見積もって設計していきましょう。
②固定費
固定費はその発生する要素に分類して見積をしていきます。一般的な分類として下記のような種類に分けて見積をするとやりやすいかと思います。